232 / 241
第210話
「それより、あんたの方こそどうなんです? 」
睨みつける音羽に、軽く微笑んで夏川が問う。
「どういう意味だ」
「以前あんたに勉強を教えて貰っていたって子、何人かに話を聞いたんです。みんな口を揃えて、ボディタッチの多い先生だったって言ってましたよ」
「コミュニケーションの一環だろう。それの何が問題だ」
音羽がこめかみに血管を浮かべ、立ち上がる。
「肩を揉んだり、頭を撫でたりするくらいならコミュニケーションの範疇かもしれませんね。でもあんたそのうちの少なくとも一人には、尻を撫でて、キスをしようとしたそうじゃないですか」
「でたらめだ。何を根拠に」
音羽が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「でたらめじゃないですよ。訴えるって言った子供の両親にあんたの親が金を渡して、土下座して示談にしてもらったって聞きましたけど」
「昔の話だ」
音羽が吐き捨てるように言う。
「そうですね。でも言いふらされたら困りますよね? 」
音羽は殺気すら感じる視線で、夏川を見つめている。
夏川はそんな音羽を無表情に見返している。
「何が望みだ」
音羽が絞り出すような声で問う。
「まずあんたは帝の実家の病院をきちんと継いでください。それから個人的に帝に連絡をとるのは今後一切なしです。あっ、ちゃんと誓約書にまとめてきたので、サインしてくださいね。口約束は当てにならないので」
音羽が震える手でサインするのを見届け、夏川がにっこりと笑う。
「ありがとうございます。後日印鑑をいただきに伺いますから、よろしくお願いします。じゃあ次に、帝の下半身に無理やり付けたあのグロテスクなもの外せ」
夏川は今までの笑顔が嘘みたいに、音羽を睨んだ。口調も冷え冷えとしている。
「本当は帝を傷つけたあんたを殺してやりたいくらいだ。あんたと同じ犯罪者に、俺はまだなりたくないから、我慢してやるよ」
音羽から鍵を受け取ると、夏川は朝霧に立つように言った。
「ここで外すのか? 」
「うん。さっさとやっちゃおう」
そう言われて、朝霧はおずおずとジーンズを脱ぎ、シャツを持ち上げた。
夏川が鍵を開け、貞操帯を降ろす。
「帝」
朝霧は夏川に抱きしめられ、息を吐いた。涙ぐみ、夏川の熱い体を抱きしめ返す。それだけで、解放された下半身がびくりと震える。
「もう僕に用はないだろ。じゃあ、失礼するよ」
2人を睨みつけていた音羽が背中を向ける。
「待て」
夏川が鋭く呼び止める。
「誰が帰って良いって言ったよ。あんたにはまだここに居てもらわなきゃならないんだ」
夏川の言葉に音羽が眉を顰める。
「さあ、3人でベッドルームに移ろう」
夏川はそう告げ、にっこりと微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!