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第210話

「それより、あんたの方こそどうなんです? 」  睨みつける音羽に、軽く微笑んで夏川が問う。 「どういう意味だ」 「以前あんたに勉強を教えて貰っていたって子、何人かに話を聞いたんです。みんな口を揃えて、ボディタッチの多い先生だったって言ってましたよ」 「コミュニケーションの一環だろう。それの何が問題だ」  音羽がこめかみに血管を浮かべ、立ち上がる。 「肩を揉んだり、頭を撫でたりするくらいならコミュニケーションの範疇かもしれませんね。でもあんたそのうちの少なくとも一人には、尻を撫でて、キスをしようとしたそうじゃないですか」 「でたらめだ。何を根拠に」  音羽が顔を真っ赤にして怒鳴る。 「でたらめじゃないですよ。訴えるって言った子供の両親にあんたの親が金を渡して、土下座して示談にしてもらったって聞きましたけど」 「昔の話だ」  音羽が吐き捨てるように言う。 「そうですね。でも言いふらされたら困りますよね? 」  音羽は殺気すら感じる視線で、夏川を見つめている。  夏川はそんな音羽を無表情に見返している。 「何が望みだ」  音羽が絞り出すような声で問う。 「まずあんたは帝の実家の病院をきちんと継いでください。それから個人的に帝に連絡をとるのは今後一切なしです。あっ、ちゃんと誓約書にまとめてきたので、サインしてくださいね。口約束は当てにならないので」  音羽が震える手でサインするのを見届け、夏川がにっこりと笑う。 「ありがとうございます。後日印鑑をいただきに伺いますから、よろしくお願いします。じゃあ次に、帝の下半身に無理やり付けたあのグロテスクなもの外せ」  夏川は今までの笑顔が嘘みたいに、音羽を睨んだ。口調も冷え冷えとしている。 「本当は帝を傷つけたあんたを殺してやりたいくらいだ。あんたと同じ犯罪者に、俺はまだなりたくないから、我慢してやるよ」  音羽から鍵を受け取ると、夏川は朝霧に立つように言った。 「ここで外すのか? 」 「うん。さっさとやっちゃおう」  そう言われて、朝霧はおずおずとジーンズを脱ぎ、シャツを持ち上げた。  夏川が鍵を開け、貞操帯を降ろす。 「帝」  朝霧は夏川に抱きしめられ、息を吐いた。涙ぐみ、夏川の熱い体を抱きしめ返す。それだけで、解放された下半身がびくりと震える。 「もう僕に用はないだろ。じゃあ、失礼するよ」  2人を睨みつけていた音羽が背中を向ける。 「待て」  夏川が鋭く呼び止める。 「誰が帰って良いって言ったよ。あんたにはまだここに居てもらわなきゃならないんだ」  夏川の言葉に音羽が眉を顰める。 「さあ、3人でベッドルームに移ろう」  夏川はそう告げ、にっこりと微笑んだ。

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