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第212話
「馬鹿らしい。こんなの付き合っていられるか」
朝霧が振り返ると、音羽が真っ赤な顔で立ち上がり震えていた。
その足元には椅子が転がっている。
「黙って座ってろ」
夏川の言葉を無視して、音羽が出て行こうと扉に手をかける。
「この部屋から一歩でもでたら、あんたは終わりだ。俺はあんたの過去をばらす」
音羽は夏川を睨みつける。
「お前、何がしたいんだ? 」
それは朝霧も不思議だった。
音羽がいることをすっかり忘れ、身を任せてしまったが、朝霧だって夏川と愛し合っているところをわざわざ音羽に見せたくはなかった。
「あんたが帝にしたこと聞いたよ」
夏川が傷ついた朝霧の背を撫でる。
朝霧はその傷を付けられた時のことを思い出し、表情を曇らせた。
そんな朝霧を宥める様に、夏川がつむじに口づける。
「叩いたり、バイブを入れたりはしたけれど、セックス……性器の挿入はしなかったって。あんた自身は服も脱がなかったらしいじゃないか」
ここに来る前、朝霧は音羽にされたことを夏川に包み隠さず話していた。
これ以上、嘘や隠し事はなしだと夏川に言われたからだった。
「それは当然じゃないか。性交渉は相手によっては病気をもらう可能性がある。君みたいな遊び人と付き合っていた帝君はどんな性病を患っているか分かったもんじゃないからね。怖くて手が出せなかった。それだけだよ」
そんな音羽の言い分を聞いて、夏川は笑い声をあげた。
「ずいぶん勝手なことを言うんだな。好きな相手の裸を見て、勃起すらしない情けない男のくせに」
「そんなことはない。僕はちゃんと」
「ならそこで脱いでみろ」
「嫌だね。なんで僕がそんなこと」
夏川は音羽に微笑んだ。
「さっきも言ったろ? お前に拒否権なんてないんだよ。それからあんた反省が全くないようだけど、自分のやってきたことを思いだせよ。嫌がる帝を裸にして、散々叩いたろ? 本当なら俺もあんたの顔のカタチが変わるくらい殴ってやりたいところだが、それを脱ぐだけで許してやるって言ってるんだ。こうやって優しく話しているうちに言う通りにしろ」
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