23 / 58
第6話 酔いどれな夏の夜(4)★
そのうちに自宅のアパートへ辿り着く。諒太は橘の背中から降り、代わりに肩を貸してもらって部屋に入った。
「ほら、ベッド」
「あ~……」
促されるがまま、倒れ込むようにベッドへと横たわる。
橘は苦笑を浮かべて頭を撫でてくれた。その仕草があまりに優しかったものだから、つい甘えたくなってしまい、
「ん――」
と、諒太は両手を伸ばしてハグを催促する。
橘はちょっとだけ驚いたような表情をしたものの、すぐに抱きしめてくれて、諒太の胸がきゅうっとなった。何気なく頭を擦り寄せれば、小さな笑い声が聞こえてくる。
「先生ってば、猫みたい」
「そう?」
「うっす。こういったときだけ甘えてくんのズルいというか」
「――にゃーん」
橘の言葉に乗じて、猫らしく振舞ってみせる。橘は突然のことに固まった。
「……いや、フツーに可愛すぎますけど。完全に酔ってますよね、先生」
「酔ってませーんっ」
「酔っ払いはみんなそう言うんすよ」
「恋人が甘えたそうにしてるときは、黙って甘やかすの。……ずっと、会いたかったんだから」
言いつつ、諒太は顔を寄せていく。
そっと橘の首に腕を回せば、自然と互いの唇が重なった。
(好きな相手って……こんなにもドキドキして、触れたくなるものなんだ)
橘とのキスはやはり気持ちがいい。心が満たされていく、とでも言ったらいいだろうか。
触れ合うだけの優しい口づけを繰り返しながらも、次第に物足りなくなってきて、諒太はちろりと舌先で相手の上唇を舐める。
「……先生」
言葉にせずとも、橘はこちらの意図を理解してくれたらしかった。橘の舌先が歯列を割って、口内にぬるりと侵入してくる。
「ん、は……」
上顎をくすぐられ、鼻にかかった声が漏れてしまう。橘はそんなこちらの反応を楽しむかのように、口腔を蹂躙していった。
舌同士が絡み、互いの唾液が混じり合う。まるで媚薬か何かだ――頭がくらくらとし、体が熱を帯びては甘く疼いた。
どちらからともなく口づけを解いたのは、息が苦しくなってきた頃合いだった。
二人の間に銀糸が伝い、それがぶつりと切れたあともぼんやりと見つめ合う。
(ベッドの上で抱きあって、キスしてって――なんかもう)
意識すればするほど、どんどん鼓動が高まっていく。
体の内側からせり上がってくる情欲を抑えることができず、諒太は問いかけた。
「なあ、シない……の?」
「え……」
「エッチしないの、って訊いてる」
ごくり、と橘の喉が鳴る。その瞳が雄らしい光を帯びたのを見て、諒太はますます欲情した。
ともだちにシェアしよう!