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第8話 誕生日とはじめての…(1)
「だいちくん、それでねっ。まみちゃんのおたんじょうびパーティーやるんだけどね――」
昼食後のひととき。向かいの席に座る橘に向かって、美緒は楽しげに語りかけていた。
親友の誕生日パーティーがよほど楽しみなのか、ここ最近、美緒は毎日のようにその話をしている。今日はまだ話をしていない橘がいるから、余計にテンションが高いようだ。
諒太は仲睦まじい光景を眺めつつ、食後のコーヒーを飲んでいたのだが――、
「……あ。その日、ちょうど俺も誕生日だ」
日付の話になって、橘がさらりと言った。諒太も美緒も目を丸くして、ぱちくりと瞬きを繰り返す。
「美緒ちゃんはお誕生日いつなの?」
「さんがつ、にじゅうろく……」
「先生は?」
「俺は四月――って、え!? 橘の誕生日、もうすぐじゃん!」
橘がそれぞれの誕生日を訊いてくるけれど、それどころではない。美緒が口にしていた日付は十一月十八日、土曜日――もう来週に差し迫っていた。
「えっ、え? おたんじょうびパーティー、いっしょにくる?」
わたわたと美緒が声をかけるも、橘は申し訳なさそうに苦笑いをこぼす。
「さすがに行けないよ」
「でも……だいちくんのことも、おいわいしたい」
「美緒ちゃんは、お友達のお誕生日パーティー楽しんできて? そのあとで、こっちもお祝いしてくれる?」
橘の言葉に、美緒は目を輝かせて元気よく頷いた。橘は微笑みを返したあと、こちらに向き直ってくる。
「ということで、なんだか申し訳ないんすけど……。十八日、遊びに来てもいいですか?」
「や、それは全然いいけどっ。つか、誕生日近いなら早く言えよ」
「祝ってほしいとばかりに言うのも、アレかと思って」
「そんなことないって。せっかくの誕生日なんだ、むしろ遠慮される方が寂しいだろ」
「……じゃあ、少しワガママ言ってもいいすか?」
「うん?」
諒太は首を傾げる。美緒の前で変なことを言うつもりはないのだろうが、こんなふうに前置きしてくるとは。
何事かと身構えていれば、
「ちょっとだけでいいんで、先生とお出かけしたいです」
橘は頬を掻きながら、そのようなことを言ってきた。
まごうことなきデートの誘いに諒太は動揺してしまう。橘と付き合いだしてそれなりに経つけれど、恋人として一緒に出かけるなど、今まで一度もした試しがない。
思わず押し黙っていたら、美緒が不満げに見上げてきた。
「だいちくんのおねがい、きいてあげないの?」
ギクリとする。責めている気はないのだろうが、橘にも美緒にも見つめられては堪ったものではない。
「わかった。い……行こうか、橘」
諒太は顔をほんのり赤くして了承した。
こういった機会はそうないし、もちろんのこと嬉しいに決まっている。けれども、初めてのデートというのがやたらと気恥ずかしくて、内心はドキドキと落ち着かないのだった。
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