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第8話 誕生日とはじめての…(3)★

 部屋についてからすぐ、諒太は「準備してくるから」と告げて浴室に入った。 (こんなの、いつぶりだろ……)  昔から気持ちいいことは好きだが、美緒を引き取ってから随分とおざなりだ。  以前の自分だったら、付き合っているのに半年以上セックスしないなんてありえないことだと思う。なかなか二人きりになれないというのもあるけれど、何よりそれだけ橘は特別なのだ。 「んっ、う……」  これから使う場所を念入りに洗浄し、ゆっくりと指でほぐす。慣れた行為なのに、橘が相手だというだけで妙に緊張感が増していく気がした。 (ここに大地のが入って――俺、ついに抱かれるんだ)  想像した途端、窄まりがきゅっと狭まって切なくなる。今からどんなふうに抱かれるのか、考えただけでも興奮して、ドキドキという鼓動が止まらない。  ようやく準備を終えると、備え付けのバスローブを着て部屋に戻った。  橘はベッドに腰をかけて待っており、こちらを見るなり頬を緩める。 「おかえりなさい」 「うん、お待たせ……」  そわそわとしつつも、諒太は橘の隣に座った。チラリと横目で様子をうかがえば、橘もどこか落ち着かない面持ちでいる。 (ここはやっぱ俺がリードすべき? ……って、あれ、今までどんなふうにエッチしてたっけ!?)  経験豊富なはずなのに、どうしていいかわからないとは如何なものだろう。こういったときは年上の余裕を見せるべきなのか、はたまた歳若い者に主導権を握らせるべきなのか――。 「あの」 「はいッ!?」  そうこう頭を悩ませていたら、おもむろに橘が声をかけてきて、諒太は素っ頓狂な声を上げてしまった。慌てて取り繕おうとしたところ、先に橘が言葉を紡ぐ。 「俺、初めてっすけど、ちゃんと優しくするんでよろしくお願いします」 「あっはい、よろしく……」  返事をしながらも、なんだかおかしくなって笑いが込み上げてくる。次第に緊張も薄れていき、諒太はクスクスと笑いだした。 「なんだよこれ。いーよ、そんなかしこまらなくて――一緒に気持ちよくなろ?」  橘の首に腕を回し、誘うようにねっとりと唇を重ねる。そのままベッドに体を倒していくと、橘もそれについてきた。 「諒太さん」  今度は橘の方から仕掛けてくる。  何度も角度を変え、舌を絡ませ合っては濃厚になる口づけに酔っていく。  至近距離で見つめれば、橘はギラついた雄らしい瞳を返してきた。普段とは違った欲望にまみれた顔に、諒太の体は否応なく熱くなってしまう。 「……大地、エロい顔してる」 「諒太さんこそ。顔、蕩けてて……すげーエロい」  言って、今度は首筋に軽くキスを落としてくる。その一方で体をまさぐり、バスローブをはだけさせられた。  下着だけは穿いておいたものの、素肌を晒され、羞恥心と不安が湧き上がってくる。今になって気がついたけれど、部屋の電気くらい消しておいた方がよかったかもしれない。 「だっ、大丈夫? 男の裸とか萎えない?」 「なんでそんなこと言うんすか。諒太さん、妄想してたより綺麗な体してて――ぶっちゃけ興奮するんすけど」  橘の手が脇腹をなぞり、胸元へと辿っていく。薄桃色のそこを指先で撫でられた瞬間、諒太はくすぐったさに身をよじった。 「んっ、ふ……」  橘の手つきはとても優しげだけれど、それでも感じるものがあって吐息が漏れそうになる。ところが、橘本人はどうにも微妙な反応だと受け取ったらしい。 「あんま気持ちよくない?」 「あ、いや、そうじゃない……んだけど」 「けど?」  続きを促すように顔を覗き込まれ、諒太は言い淀む。  言おうか言うまいか、少し悩んだ末に意を決して告げた。 「ちょっと痛いくらいのほうが好き、かも」  すると、橘はこちらの要求を聞き入れてくれて、壊れ物でも扱うかのような手つきが途端に変わった。

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