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おまけSS 諒太さんのタイプって…

 美緒が友人の家に外泊するとのことで、せっかくだからと橘の部屋に泊まった諒太だったのだが――、 (ヒゲが……大地の顔にヒゲが生えてるっ!)  翌朝。目が覚めて、隣で寝ている橘を見れば、薄っすらと口元にヒゲが生えていた。  男として当然といえば当然のことなのだが、こうして一夜をともに過ごすことはそうないし、橘自身いつも清潔感を保っているから新鮮だ。諒太はどぎまぎしつつ、橘の顔に手を伸ばしてみる。 (ヤバい、めちゃくちゃタイプだ……)  指先に伝わってくるチクチクとした感覚。  もともと、諒太が好みとするところは、ヒゲ面でとにかくガタイがいい――いわゆる《ゲイにモテる容姿》の年上だ。橘の寝顔は無防備で愛らしいものの、このまま歳を重ねたらと想像すると、ますます胸がドキドキとしてしまう。 「――……」  諒太は誘われるように唇を寄せ、軽く口づける。  すぐに離れるつもりだったのだが、痛いようなくすぐったいようなヒゲの感触が堪らない。そのまま何度か重ねるだけのキスを繰り返していたら、橘の目が薄く開いた。視線が交錯し、諒太はハッと我に返って体を離す。 「お、おはよっ」 「……おはようございます、諒太さん」ふっと表情を和らげて、「どうしたんですか。朝からそんな可愛いことして」 「は!? ちがっ、そんなつもりじゃ!」  慌てて否定すると、橘は首を傾げた。それから無意識のうちに口元へと手をやり、「ああ」と声を漏らす。 「すみません、昨日剃っておけばよかった――これじゃキスもしづらいですよね」 「いや、俺は別に……」  うっかり妙な真似をしてしまったせいで、どことなく気まずい空気が流れる。しかし、橘はさして気にした様子もなく、さらに追い打ちをかけてくるのだった。 「そういえばなんですけど、ゲイの人ってヒゲ面が好きって本当ですか?」 「ブフッ!」  あまりに唐突すぎる質問に、諒太は思わず吹き出してしまう。 「ど、どうしてそんなこと……」 「単に気になっただけっすけど」 「ええっと、一種の《モテファッション》というべきか……そういったタイプが多いってだけで人によると思うよ。ノンケだって、いろんな好みがあるだろ?」 「じゃあ、諒太さんは?」 「えっ、俺!?」 「諒太さんが好きなら、俺もヒゲ生やそうかなと」 「駄目駄目っ、君はそのままがいいって! なんかこう、キャラ的にさ!」  必死になって首を横に振る。確かに好みではあるけれど、かといって実際にヒゲを蓄えてほしいわけではない。性格からして清潔感のある若々しさをもっていながら、もったいないにもほどがある。 「なら、いっすけど。でも最近になって、諒太さんの好みのタイプがわかってきた気がします」 「へ?」 「諒太さんって、年上派ですよね」  すぐに否定すればよかったものの、咄嵯に言葉が出てこなかった。これでは肯定しているようなものだ。  何を言っても今さら遅い。諒太はしどろもどろになりながらも、正直な気持ちを言葉にしようと試みる。 「その……だからって、君がどうこうというワケではなくっ」 「わかってますよ。むしろ、タイプでもないのに好きになってもらえて嬉しいし」  橘はこちらの言葉を遮って告げるなり、額に口づけてきた。  目の前にあるのはあまりにも穏やかな笑顔。それを目にした途端、諒太の胸に愛おしさが込み上げてきて、どうしようもなくなってしまう。 「っ……す、好き――」  思い余って、諒太は小さく呟く。  気恥ずかしげに身を寄せれば、橘はぎゅっと抱き締めてくれて、また胸が高鳴るのだった。

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