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おまけSS ハロウィンの楽しみ方
十月某日。諒太は橘とともにディスカウントストアを訪れていた。
「この前、ネットでいろいろ見てたんだけど美緒が言うには……あ、これこれ」
様々なコスチュームが陳列するなか、諒太はある商品を手に取る。すると、橘がすかさず手元を覗き込んできた。
「赤ずきん、ですか」
「そ、一目見て気に入ったみたいでさ」
「いっすね、美緒ちゃんによく似合いそう」
それは赤ずきんのコスチュームだった。膝ほどまでのロング丈マントに、リボンやフリルがあしらわれたデザインは、いかにも女の子らしい可愛らしさがある。
なんでも友人の家でハロウィンパーティーが行われるとのことで、美緒はすっかり張り切っているようだ。きっとこれを着て友人たちと楽しむのだろう、と想像すれば微笑ましい気持ちにもなってしまう。
「ハロウィンなんて今まで関心なかったけど、こういったのもたまにはいいもんだな。なんかこっちまで楽しい気分になるっていうか」
「そう言う諒太さんは? 何かしないんすか」
「『何か』って?」
「もちろんコスプレっすよ。せっかくのハロウィンなんだし」
「お、俺が!?」
ハッとして陳列棚に目を向ける。あからさまに女性向けの――こう言ってはなんだが、いかがわしいコスチュームが豊富に取り揃えられており、嫌な予感がした。
(まさか俺に女装させて……でも、そんなっ)
さすがにアラサーにもなって、自分が着るのには抵抗がある。恥ずかしすぎるし、そもそも似合わない気がしてならない。
しかし年頃の男子なら、コスチュームプレイに関心を持つのも当然のことだろう。シチュエーションとして堪らないものがあるのは男として理解できる。こちらとて、相手が喜んでくれるのであれば――などと考えていたのだが、
「美緒ちゃんが赤ずきんなら、やっぱこれっすかね」
橘が手に取ったのは、狼の着ぐるみだった。諒太は安堵のため息をつく。
「な、なんだ……びっくりした」
「別に、俺はこっちでもいいっすけど」
と、今度は女性向けのコスチュームを指さすものだから、思わず慌ててしまう。
「わあああーっ!?」
「俺としては、警察官とかエロくて好きっすね。ミニスカのやつ」
「そんなの訊いてない! 訊いてないからっ!」
「まあ、それはそれとして」
こちらの反応に微笑を浮かべ、橘は手にしていた着ぐるみを買い物かごに入れる。それから諒太の目を見て、再び口を開いた。
「こういった着ぐるみもすげー可愛いと思うし。金は俺が出すんで、美緒ちゃんと一緒に写真撮らせてくださいよ」
「………………」
諒太は唖然として橘を見つめ返す。
どうやらすっかりその気らしい。が、これはこれでいかがなものかと頭を悩ませるところだ。
「か、可愛いとか。いい加減、俺の歳くらい考えろよな」
「いくつになったって諒太さんは可愛いですよ。ああ、それとも諒太さん的には実用性ある方がいいすか?」
「ちょっ!」
「そういうことなら安心してください。着ぐるみだって何だって、可愛い諒太さん見たらムラムラするんで」
「……っ、この物好き」
ぼそりと呟いて、橘の体を軽く小突く。橘は相変わらず笑っていた。
(あーヤバい。美緒が楽しく過ごせればいい――くらいに思ってたのにな)
ハロウィンに向けて、年甲斐もなく楽しみな気持ちが膨らんでいく。
これも橘や美緒がいてくれるからだと思うと悪い気がしなくて、諒太はややあってからはにかみ笑顔を返したのだった。
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