4 / 8

第4話

 部屋に入った奏は布団にもぐりこんで、これ以上ないというほど身を丸くした。 (エロことをしていりゃあ、幽霊は来ないだと?!)  聞いたことはあるが、まさかそんなと思っていた。けれどそれしか撃退方法がないのなら、ヤるのもやぶさかではない。 (けど、そんな理由で成留とすんのは、ちょっと違うしな)  となれば、ひとりでするしかない。成留が風呂に入っている間に、さっさと済ませて眠ってしまおう。  そう考えた奏は掛布団を跳ね上げてティッシュを引き寄せた。ゴソゴソと陰茎を取り出して擦ってみるも、テレビの映像が脳裏をちらつき意識が散ってしまう。 (くそ……)  焦れば焦るほど集中ができなくなる。なにかいい方法はないかと考えた奏は、別の方法で自慰をしようと思いついた。  ムクリと起きて、部屋を出る。台所でサラダ油を手にした奏は、念のために風呂場をのぞいて成留がいることを確かめてから部屋へ戻った。  そんな奏の様子を、成留はこっそり観察していた。先輩のことだから、部屋でひとりになってから怖がるに決まっている。だったらちょっと間を置いて、先輩がどうしているのか襖の隙間から覗いていよう。そうして頃合いを見つけたら、やっぱりひとりじゃ怖いと言って飛び込めばいい。  ちゃんと風呂に入っているのか確認されてもいいように、浴室で時間を潰してから行こうとしていた成留は、予測通り奏が確認しに来たことに、かわいいなぁと頬をゆるめた。けど、なんでサラダ油なんて持って行ったんだろう? さっぱりわからない。  もうすこし潜んでから部屋を覗きに行くつもりだった成留は、好奇心にかられて足音をしのばせ、きちっと閉じられた襖をわずかに開いて中を見た。  成留に見られているとは夢にも思わず、奏は服を脱ぎ捨てるとうつぶせになり、尻を突き出した。襖の隙間から覗いている成留の心音が、期待に高まっていく。その期待に知らず応える形で、奏は尻の谷にサラダ油を垂らした。 (なるほど、ローションがわりか!)  代用できるとは思わなかった。成留はちいさくガッツポーズを取った。チャンスがあれば、アレで先輩を濡らせばいいのか。まあ、そのチャンスがなかなか訪れないのだけれど。 「ふ……」  奏はたっぷりと垂らしたサラダ油を秘孔の口にこすりつけ、内部に垂らした。背をそらし、なるべく尻を落ち上げて重力を意識する。ひんやりとしたサラダ油は望む場所だけでなく、尻の谷を滑って背中側に流れたり、蜜嚢のほうへ垂れたりした。 「は、ぅ……、うっ、うう」  入り口を指の腹でしばらく刺激してから、ゆっくりと指を入れた。ここを刺激するのは久しぶりだ。すくなくとも、成留と同居しはじめてからは一度もここを使っていない。 「ん、んんっ、ん……、はぁ、あっ、ぅ」  慎重に指を沈めて油を塗りつけ、抜いて油を追加する。自分の指に秘孔がキュウキュウ吸いついて、ここで得る快楽を思い出した。 「は、ぁ、ああ、あ」  前で達するよりも、こちらでイクほうが奏は好きだった。深く貫かれるのも、入り口付近で小刻みに抜き差しされるのも好きだ。 「んっ、は、ぁ、あうう」  慎重な指使いはいつしか大胆な動きに変わり、秘孔が淫らな濡れ音を立てる。クチュクチュと響く音に鼓膜を愛撫された奏は、体を揺すってさらに激しく指を動かした。 (す、げぇ……)  ゴクリと喉を鳴らして、成留は奏を凝視した。ムクムクと息子が大きくなっていく。飛び込んで奏にのしかかりたい衝動を必死でこらえ、目を凝らして耳を澄ませた。 (先輩、エロすぎ)  それほど成留を興奮させているとは知らず、奏はひたすら己を犯していた。 (くそ、足りねぇ)  指では熱量も長さも足りない。せめてバイブか、代表品として使えるものがあればいいが、そんなものは家にない。しいて言えば擂粉木だが、自分の尻に調理器具を使いたくはない。 「んぃ、ぁあううっ」  自分の好きなスポットを指で探っても、思うほどの刺激は得られなかった。もどかしさと興奮のはざまでもだえる奏の肌が赤く染まり、うっすらと汗がにじむ。 「ぁは、あっ、あっ」  無意識に体を揺すり、指よりも質量のあるものを求めてしまう。恐怖映像の恐ろしさからは逃れられたが、別の問題を引き起こしてしまった。やめときゃよかったと思っても、もう遅い。悦楽を思い出した体はどんどん高まり、物足りなさを募らせていく。 「ふ、ぅ、く……、ううんっ、あ、あ」  震える体を持て余し、前を扱くが求めているものとは違う。やっぱりなにか突っ込める道具が欲しいと思いつつ自慰を続ける奏を、ガマンならなくなった成留はオナニーしながら見つめていた。 (ううっ、先輩。ものすごくエロい)  息を殺して覗き見している成留は、網膜に奏の痴態を焼きつけようと目を見開いた。恋人同士なのに、なんで互いにひとりでしているんだと情けなくなりつつも、視線で奏を舐めまわす。 「あっ、ああ……、は、はぁう、ううんっ、あ、あ」  もっと奥を突いてほしい。そう望む奏の脳裏に、興奮した成留の顔が浮かんだ。こちらがさりげなく仕掛けたものにいちいち反応して、キスやそれ以上を求めてくる成留は、いまの姿を見たら飛びかかってくるだろうか。 「んっ、成留……」  切なく漏れた奏の声に、成留は息を止めた。聞き間違いかと、自慰の手を止めて耳をそばだてる。 「は、ぁ、成留、ぅう」 (せ、先輩)  聞き間違いではない。はっきりと奏は成留を呼んでいる。なんで、と成留は考えた。いつもいつも、寸前でかわされてきた。それなのに自慰の最中に名前を呼ばれるなんて! 「あ、ああ、成留ぅ、あっ、は、ああ、あ」  理由なんてどうでもいいと、成留は立ち上がった。乱れる奏の切ない喘ぎ。それが目の前にあって、しかも自分を呼んでいるのだから、やることはひとつしかない。 「先輩っ!」  成留は勢いよく襖を開けた。  呼ばれた奏はギョッとする。驚きすぎて反応ができない奏の傍に、勃起した己をさらして成留が近づく。 「俺が来ましたよっ!」  任せてくださいと、成留はあっけに取られる奏の尻をガッシと掴んだ。油でぬるつく尻の谷に、ギンギンに滾っている陰茎を挟む。 「指じゃ足りないから、俺を呼んでくれたんですよね」 「ちょ、ま、待て! なんでいるんだっ?!」  我に返った奏は首をねじって成留を見た。成留は鼻息荒く、満面の笑みを浮かべて答える。 「そんなこと、いまは重要じゃないでしょう? ……ねえ、先輩。俺も先輩がアナニーしながら俺を呼んでた理由を、聞かないでおきますから」 「ぐっ……。な、なんでそんな単語を知ってんだ」 「まあまあ、それは置いておきましょうよ。――ああ、先輩。先輩が自分でほぐしたから、俺、もう入っても大丈夫ですよね! あんなに尻を振って欲しがっていたんだから、準備万端なんでしょう?」  硬いもので秘孔をつつかれ、奏はブルルと濡れた犬のように身を震わせた。秘孔の口が収縮し、成留の先端に吸いつく。内壁が蠢動し、入り口を突くそれを奥にくれと理性に訴えてきた。  下唇を噛んで、奏は本能に抗う。 「ねえ、先輩」  甘えた成留の声に心が揺らぐ。このまま、なし崩しに繋がってしまったら、成留の味を知ってしまったら、また欲しくなってしまう。オッサンの乱れ姿なんぞ見て、萎えられて捨てられたら目も当てられない。そう本能をなだめるのに、体は期待に興奮している。  じっと身を硬くした奏の背中を、成留は爆発しそうな欲望を堪えて見つめていた。どうして先輩は答えてくれないんだろう。なぜそんなにも頑なに、俺を受け入れてくれないんだ。なにか俺、したか? いやいや、そんなことを考えずに、どうすればいま先輩に受け入れてもらえるのかを考えよう。さっきから先輩の尻、俺の先っぽをくすぐってきて、すげぇヤバいし。 「あんま難しく考えずに、俺を味見するってことで、試してみてくださいよ」 「は?」 「いや、だから……、なんていうんですかね。先輩がなに理由で俺と最後までしないのか、わかんないんですけど。とりあえず俺を味わってみて、そんでなんか、そっから考えてくれてもいいんじゃないかなぁ、と」  自分でもなにを言っているのか、成留はよくわかっていなかった。ヤりたすぎて思考がきっちり働かない。けれどその言葉は、奏の理性を動かした。 (味見、か)  怖がっていてもしかたがない。同居していれば、いつかはこういう事態に陥るんだ。いつか成留が出ていくにしても、一度も関係を持っていなかったら後悔しそうだし。いつまでも可能性を怖がって、グダグダ悩んでいたってしょうがない。 「わかった。味見しようじゃねぇか」  そう言いながら、味見される側の気分で奏は枕を引き寄せて顔を伏せた。 「じゃあ、いきますよ」  声を押さえる気満々の奏を見下ろし、成留は喜びに声を震わせた。ぜったい声を抑えられなくなるくらいトロットロにして、俺を認めてもらうんだ。そのためには、先輩の快楽優先。俺の欲は後回しにしないとな。  気合を入れて、成留は慎重に奏の秘孔を押し開いた。たっぷりと濡れほぐされたソコは、大喜びで成留の欲望を受け入れる。狭い入口を慎重にくぐった成留の傘を、秘口がキュッと締めつけた。 「っ、う」  その心地よさに、成留は思わず目を閉じて天を仰いだ。入り口でこれほど気持ちがいいのなら、すべて埋めればどれほどすばらしい快感が待っているのか。期待と不安に、胸と股間がさらに膨らむ。 「ぅ、んぅ、う」  先端だけで止められた奏もまた、喜びに胸と股間を膨らませていた。欲しがる奥に引きずられ、揺れそうになる腰を堪える。  落ち着けと心の中で自分に言ったふたりは、同時に細く長い息を吐き出した。成留がゆっくりと腰を進めて、奏は全身を硬くしながら望みのものを受け入れた。 (うわ、めちゃくちゃ気持ちいい)  すべてを押し込んだ成留は、絡みつく肉壁にめまいを覚えた。絶妙な締めつけと奥に導く蠢動に、いきり立った熱が喜ぶ。思い切り打ちつけてかき乱したい衝動を、奥歯を噛みしめて必死に堪え、震える奏の背に声をかけた。 「ぜんぶ入りましたよ、先輩」 「ふっ、んぅ、う」  言われなくともわかっている。奥まで貫かれた心地よさが安堵となって、奏の肉欲を震わせていた。はやくかき回してほしい。そう言いたくなるのをガマンして、奏はグッとこぶしを握った。気を抜けば腰を振りたててしまいそうだ。 「ああ、先輩」  ぜったいトロトロにしてみせると、成留は覚悟を持って律動を刻んだ。絡んでくる肉壁とたわむれるように腰を引き、深く差す。さざなみを意識して動く成留の動きに、奏はジワジワとあぶられてうめいた。 「は、はぁ、あ、ああ、あ」  物足りない。けれど焦れる熱がなんともいえず心地いい。不足が飢えを加速させ、乳首と陰茎をこの上もないほど硬くさせた。身じろぐとシーツに乳首がこすれて気持ちいい。堪えなければと思うのに、体が勝手に揺れてしまう。 「ぁあ、あ、ぅうんっ」  くねる奏の姿に、成留の理性が横殴りに打ち砕かれた。押し殺した喘ぎ声と、揺れる腰。あたたかく締めつけてくる淫らな肉壁。ずっと求めていた光景に抗えるわけがない。 「っ、先輩!」 「ひぅ、あっ、あぁあああッ!」  いきなり激しく突き上げられて、奏の理性も霧消した。嬌声をほとばしらせて愉悦を追いかけ、体を激しく上下に動かす。それに合わせて成留が腰を振りたてて、奏を深く激しくえぐった。 「ぁひっ、ひあぁあっ、あ、は、あううっ」 「先輩、先輩っ」  ふたりは夢中で快楽をむさぼり、体を打ち合わせた。もともとどちらも準備万端に高ぶっていたので、極まりのときを迎えるまで、さほどの時間を必要としなかった。 「くっ、うはぁああ」 「っ、は」  先に奏が大きく痙攣し、秘孔で成留を強く絞った。求められるままに成留も弾けて、奏の奥に熱いしぶきを解き放つ。それに打たれて恍惚の声を漏らし、奏は淫靡な充足に胸をとどろかせた。  ぐったりとする奏の背中に、成留は繋がったまま身を寄せた。 (俺、先輩の中でイッたんだなぁ)  くふ、と妙な息が漏れた。それを奏のうなじに置いて、成留はそっと奏を抱きしめた。腕に硬く凝った乳首があたり、奏がちいさな悲鳴を上げる。 「先輩」  呼んでも、奏は成留を見なかった。 「ねえ、先輩」  ものすごくキスがしたいと、成留は奏をもう一度呼んだ。甘くかすれた成留の声に応えたいと思いつつ、奏は枕を抱きしめた。 (とうとう、繋がってしまった)  それどころか、うっかり体を揺らしてしまった。その上、おもいきり声を上げてしまった。男の、しかもオッサンの喘ぎ声を成留はどう思っただろう。女の声とは明らかに違う嬌声。がっしりとした体躯の男がよがる姿。――その上、こんな顔を見られたら愛想をつかされるに決まってる。  奏はいつもの顔に戻るまで、振り向くまいと歯を食いしばった。オッサンのトロ顔なんて、気持ち悪いに決まってる。いまはイッた気持ちよさに意識を奪われているだろうが、後で記憶を振り返った成留は引くはずだ。コイツは女しか知らない。もともと女を相手にしてきた奴なんだから、比べられたらちいさくてやわらかで、なめらかな女のほうがやっぱりいいって思われる。 (俺が味見をしたんじゃなくて、成留が俺を味見したんだ)  そして、気に入らないと捨てられる。きっとそうだと落ち込む奏の胸中などつゆ知らず、成留は奏の耳朶に唇で甘えた。 「先輩、ねえ、先輩ってば」 「う、うるせぇ」 「恥ずかしいんですか? かわいいなぁ」 「終わったんなら、さっさと抜けよ」 「そんな憎まれ口、こんなときにまで叩かなくってもいいでしょう? お仕置きです」  ニヤニヤしながら、成留は奏の乳首をつまんだ。 「あっ、ぅん」 「ふふ。そうやって、かわいい声を聞かせてくださいよ」 「あっ、ばか……、もう、終わりだ」  久しぶりの快楽に開いた奏の肉体は、もっともっとと貪欲に刺激を求める。意外に器用な成留の指先に乳首を翻弄されて、奏の秘孔がキュンと締まった。 「先輩の中は俺にすがりついてくれるのに。……ねえ、こっち向いてくださいよ」 「イヤだ……、あっ、もうやめ……」 「そんなヤラシィ声で言われても、誘われてるとしか思えません」 「っ、あ、ぶん殴る……、あ、ぁ」 「後でボコボコにされてもいいですから、こっち向いてくださいよ」 「んんっ、は、ぁ、動くな、ぁ」 「俺、動いてないです。動いているのは、先輩ですよ」 「ウソ……、んぁっ」 「本当です。俺が動いたら、こうなりますよ」 「ひはっ、あ、ばかやろ……、っ」  ゆるゆると内壁を擦られて、奏は太ももをわななかせた。腰のあたりで欲望が渦巻く。もっと激しくされたいと望む自分を、奏は必死に抑え込んだ。 「ねえ、先輩。すごく、キスがしたいです」  ゾクゾクと奏の背骨に魅惑的な痺れが走った。唇がさみしくなる。それを堪えるために、奏は力いっぱい枕を抱きしめた。 (だめだ、だめだ……、やっぱりだめだ)  どちらにしても捨てられるならと思ったが、愛想をつかされるのはやっぱり怖い。そんな奏の怯えを、成留は自分が未熟だから不満を持たれたのだと捉えた。自分の欲を後回しにして、先輩をトロットロにしたいと思ったのに、余裕なくガンガン責めてしまった。だから先輩は満足できずに、ふてくされてしまっているんだ。  ムクムクと成留の内側で支配欲と嫉妬が膨らむ。いままで先輩を抱いてきた誰よりも、ずっと気持ちよくさせたい。恋人は俺だって、先輩に認められたい。  成留は乳首をいじっていた指を、奏の陰茎に滑らせた。 「ふっ、ぁう」  そこはまた硬くなっていた。俺とおなじだと、成留はほっとした。すくなくとも、先輩は感じてくれている。  愛おしさがこみ上げて、成留は右手で奏の下肢を、左手で乳首を愛撫しながら、唇で耳朶に噛みついた。 「は、ぁあ」  枕ごしに、くぐもった嬌声が漏れてくる。ゆらゆらと腰を動かす奏の動きに、成留は淫靡な陶酔を覚えて目を細めた。 (先輩の匂い……、先輩のぬくもり……、先輩の声…………。俺はいま、先輩を抱いているんだ)  奏の恋人は俺なんだと、成留は強く自覚した。 「……奏」  自然と口をついて出た呼び声に、成留はうっとりと満足した。 「奏……、ああ」  耳に注がれる声に、奏は目を見開いた。熱っぽい成留の声が、ねっとりと鼓膜に触れる。背中に触れる成留の体温と、体内に呑んだ質量が奏の鼓動をかき乱した。 「っ、成留」  堪えきれずに応えた奏の淫らな息に、成留は勇躍した。 「ああ、奏……、奏」  うなじに吸いつきながら、成留は心のままに奏を突き上げた。甘えるような唇と、対照的な激しい動きに奏の理性が砕け散る。 「んぁあっ、あっ、は、はぅうっ、成留ぅ、あっ、ああ」  奥をえぐられる快感に意識をゆだねた奏は、激しく身もだえ成留を求めた。成留はそんな奏に応え、ふたりの気持ちはすれ違いながらも、ひとつの望みに集約される。  彼を誰よりも心地よくさせたい――。  そしてその思いのままに、ふたりは同時に極まりを迎えた。

ともだちにシェアしよう!