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祝言前夜

 あの方と夫婦(めおと)になれば貴方だけの(氷雨)でいられない。  なので今夜が貴方だけのものでいられる最後の夜となるでしょう。   それから一月経って秋也が動けるようになると、秋也は龍神の張った結界を強化した。その上、晴子が翡翠の外見を日本ひのもとでは普通の外見に見える特殊な呪具を作って翡翠に渡した。  秋也が氷雨と翡翠の祝言の日取りを占った次の日、秋也、晴子、影縄の3人が蒼宮の屋敷を出る日が決まった。 「秋也、まだ本調子ではないですよね。休息をとる必要があるのではないでしょうか」  秋也はただ首を横に振った。 「いや、これ以上君達に迷惑を掛けたくはない。それに正式に夫婦めおとになるには、隠れていたままでは駄目だからな」  秋也は隣にいる晴子を見る。 「本当は晴子殿だけでもしばらく零の屋敷に匿ってもらうつもりだったのだが、この姫は言うことを聞いてくださらないのだ」 「当然でしょう。夫婦になるならば、二人で試練を越えなければなりません。秋也殿は私を甘やかし過ぎです」 「そうなのだろうか……」  首を傾げる秋也をよそに、晴子は頭を下げた。 「蒼宮殿、秋也殿や影縄を助けて頂きありがとうございました。その上、私にも旅装束を貸して頂けたこと忘れません。今は出来ませんが、いつかこのご恩はお返しします」 「本当に何と礼を言っていいのか。いつになるかは分からないが、絶対にこの恩は返す」  氷雨は一歩下がって、遠慮しながらも柔らかく笑う。 「いえ、私は何もしておりません。お礼は翡翠殿に言ってください。翡翠殿が今回の功労者なのですから」 『私はそんな……』  翡翠が照れるが、秋也と晴子は翡翠にも礼言う。 「今はできないが、後日に君と翡翠殿のお祝いをさせて頂こう」 「ありがとうございます。私も貴方達が正式な夫婦になったときにお祝いさせて頂きます」  そんな4人の会話を聞きながら、俺は庭の木々を眺めている振りをしている影縄の隣に並んだ。 「………この間はすまん」  影縄は軽く目を見開くと、微笑んだ。 「いいえ、気にしておりませんよ。事実、人は儚いのは事実ですし。…貴方のように主に対しての恋愛感情はありませんが、私も主がこの世を去る日が恐ろしいのです」  木を見上げる影縄は切なそうな瞳をした。 「子は確かに生きた証となりえましょう。ですが、その子も年月が経てば亡くなり、そしてそのまた子も……と繰り返すでしょう。その死の繰り返しに私が耐えられるか。不安で仕方がないのです」 それに何と答えれば良いのか分からなかった。 「……人は儚いな」 「……ええ」    影縄は、はらはらと落ちた落ち葉を悲しげに見つめる。冬へと向かい始めた秋の風が二匹の体に吹き付けるのであった。  そして3人は屋敷をあとにした。彼等の背を見つめる氷雨は微笑んでいたものの、どこか寂しげであった。  祝言の日取りが決まり、準備はトントン拍子で進んでいく。そんな中、氷雨と翡翠の関係はゆっくりとであるが着実に親密になっていった。それは嬉しいことなのだが、胸がつきりと痛んでしまうのは、未だに氷雨に対しての独占欲が残っているからだろう。そうさせないようにしたのは己であるのに、何故苦しいのだろう。だが、二人の祝言を見たら諦めがつくだろうと思って、思いを押し殺した。  祝言2日前となった。翡翠の婚礼の衣装は、氷雨の母親の嫁入り衣装を用いることとなり、親戚も出来るだけ少数人数で行われることとなった。親戚の人数については、龍神が翡翠の身の安全のためなるべく人目に晒すなというお達しがあった為である。  いよいよ明後日か。銀雪は一人で酒を飲みながら月を見ていた。別に離れる訳でもないのに、届かない場所へと氷雨が行ってしまうような寂しさ。明後日からは零月と呼ぼうか。それとも秋也のように零と呼ぶべきか。そんなことを考えていると、背後で音がした。 「何だ、氷雨。今に内に休養をとっておいた方がいいぞ。祝言は大変なんだし」  振り返ることなく口を開くと、人影が動いて俺の後ろから縋りついた。 「銀雪……っ……私を抱いてくれませんか」 「どうしてだ?」  震える氷雨の手に俺の手を重ねた。 「祝言を上げてから数年の間は、貴方と肌を重ねる機会はないでしょう。これが最後だとは思いません。ですが………」 「………まあ、お前を本当に独り占め出来るのも最後だからな」  振り返って見ると、泣きそうな顔で笑う氷雨の顔があった。俺は氷雨と軽く唇を重ねる。 「氷雨様、今宵は私だけのものになって頂けますか」 「はい、銀雪。お願いします」  氷雨を抱き上げると、氷雨は俺の身体にしがみつく。俺は氷雨の頬に口付けすると、己の布団に氷雨を運んだ。 白狐は人型のまま耳と尻尾を晒し、組敷いた青年の身体に数えきれない程の口付けを施していた。 「っ……あ……」  口付けをする度に、氷雨は甘い声を上げて仰け反る。俺が口付けをするのを止めると、口付けの跡は白雪に椿の花弁を散らしたように鮮やかに肌を彩っていた。 「銀……雪……」  氷雨の顔を見ると、氷雨は青く美しい瞳が濡れている。 「すまん、痛かったか?」  自分のものだと印を付けたがるのは獣の欲である。なるべく痛くないようにしたつもりだが、痛かっただろうか。だが、氷雨は首を横に振った。 「いいえ……。痛くなどありません。……むしろ、痛いほどの跡を付けてください」  氷雨の細くも骨張った指が俺の頭に手を沿える。頭を掴まれ、氷雨と唇を重ねた。 「ん……ぁ………ふ………ぅ」  舌を絡めるだけで、身体の奥に火がついて熱い。唇を離した時には、氷雨の目尻から涙が止めどなく伝っていた。 「氷雨、もう抱いていいか?」  氷雨はこくんと頷く。 「はい……。貴方でいっぱいにしてください」  俺の肩に乗せられた指が熱い。俺は氷雨の涙を舐めとると、氷雨の太股を掴んだ。 「あうっ……銀……雪……!」  しっかり尻は解したが、氷雨の中はきつく俺を締め付ける。氷雨の熱さに酔いながら、俺は氷雨の良い所を穿つ。 「久しぶりだが、俺の形を覚えているな……っ……」 「あん……っ……はぅ……」  快楽に溺れながらも氷雨は俺を見つめてくれる。そう俺だけを。嬉しさのあまり、唇を貪るように口を吸う。 「あ……むぅ……は……ふっ……」  氷雨と少しでもひとつになりたくて氷雨の奥を貫き口吸いをすると、氷雨の腕が俺の背を強く掻き抱く。 「んぁ……っ……い……銀……雪………もう……」  目だけ動かし下を見ると、氷雨のものはとろとろと先走りを溢している。氷雨のそれに指を這わせると、氷雨は大きく胸を仰け反らせた。同時に俺の物を強く締め付ける。 「ひぅ……!? ……それ……やらっ……まだ…いきたく……」  そうは言うが氷雨は快楽で瞳を蕩けさせている。俺だけにしか見せない艶やかな表情に、俺は生唾を飲み込んだ。 「氷雨……っ……」 「銀雪と……ああっ……一緒に…達きたい……」 「俺もだよ……氷雨」  今まで抑え込んでいた独占欲が剥き出しになり、俺はいっそう激しく穿つ。 「ひ……ああっ__いっ……あ……!」  氷雨が嬌声を上げ、俺はしがみつく氷雨の肩に噛みついた。 「はっ…あ…………ああぁっ___!!」  氷雨の中で俺の物が爆ぜたのと同時に、氷雨の体液が俺の腹に掛かる。久々のせいか快楽の余韻が身体を包み込み、俺たちは抱き合ったまま息を整えた。 「氷雨………愛している。今までも……これからも」  氷雨はぼろぼろと涙を溢した。 「私も貴方を愛します。銀雪……またいつか……私を抱いてくれますか」  何だそんなことか。俺は笑って見せる。 「勿論だ。お前が爺になっても愛してやる。それまでくたばるなよ我が主」  氷雨は泣いて俺の肩に額を押しつける。 「あんまり泣くなよ。翡翠が心配するだろ?」  俺は氷雨の背を擦る。泣いているせいか、背中はお湯のように熱い。氷雨は顔を肩から離すと、泣きながら微笑んだ。 「ええ、そうですね。………銀雪、もっと貴方をください」 「ああ、お前が気絶するまで交わろう」  深く舌を絡めて互いを求める。言葉通り、氷雨が気絶するまで抱いた。体勢を変えた時にも肌に口付けをしたせいか、背中も胸の頂きに負けない程に、鮮やかな口付けの跡で彩られている。俺は氷雨の身体を清めると、寝息を立てている氷雨を抱きしめた。  お前が翡翠と結婚をしても、俺は変わらずお前を愛そう。お前と翡翠を守ろう。……そして、いつか生まれるお前の子供を愛そう。そう月に誓った。

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