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※喪失に打ちひしがれし君に情欲を抱く※

俺が先に気持ちを通わせた筈なのに、この罪悪感は何だろうか  翡翠が居なくなった後の蒼宮の屋敷は、何処か寂しげな雰囲気を纏っていた。夕霧は数日は母を想って涙を流していたが、やがて自分が泣いていても氷雨を困らせるだけと悟ったのか、泣かなくなった。その代わり、秋也から自分を守る術だけでなく、皆を守れるための方法を教えてほしいとより一層真面目に取り組むようになった。  それでもまだ六つの幼子である。眠るときは涙を溢して寝言で母を呼ぶ姿は痛々しくて、俺は前よりも夕霧に寄り添って眠ることを心掛けるようにしていた。  一方、氷雨は表は平常に振る舞ってはいるものの、妻が手の届かぬ場所に行ったことが思いの外辛かったようで、最近は食も細くなった挙げ句、眠れなくなるという始末。酒を呑めば溺れると思ったのか、翡翠と嗜む程度であった酒も一切手を付けなくなった。  そして翡翠の居ないまま冬を向かえた。 「氷雨、火鉢ぐらい奉公人に用意させろ。このままでは霜焼けになるぞ」  夕霧を寝かしつけてから子守の娘に夕霧を預けて氷雨の部屋にくると、氷雨は行灯の灯りを頼りに学術書を読んでいた。火鉢で火も起こさずに薄着でいる様子は見るだけでも寒くなる。 「大丈夫です。平気です」  だが氷雨の指に触れると氷のように冷たく、いつ悴んでもおかしくない状態であった。 「嘘つけ、こんなに冷たいのに大丈夫なものか」  氷雨を抱き締めると、ひんやりと冷たくて毛が逆立ちそうになる。 「銀雪………近い」  氷雨の顔を覗き込むと、僅かばかりに頬に赤みが差している。 「近いも何も俺達は前は何度も肌を重ねただろう」  最後に肌を重ねたのは8年近く前か。氷雨の顔に手を添え、親指で唇をなぞると氷雨は俯いて俺の肩に触れた。 「銀雪………」  ぽつりと氷雨が俺の名前を呼ぶ。目も合わせずにただ俺に身を任せて。 「っ………」  吐息を塞いで飲み込むように口吸いをすると、氷雨は大きく目を見開いた。やがてその瞳から、止めどなく涙が溢れていく。唇を離すと、氷雨は涙を流したまま俺に身を預けた。 「このままでは冷たかろう? 俺が温めてもいいか」  氷雨はこくりと頷くと、俺の衣を掴んだ。 「思ったよりも私は寒くて堪らないようです。だから……銀雪……私を温めて」  俺は氷雨を布団の上に押し倒すと、氷雨は抵抗することなく仰向けになった。 「氷雨の馬鹿。今まで強がりやがって……」  俺の言葉に、氷雨は肩を竦める。 「仕方ないですよ。父親である私が弱味を見せらせませんし」 「夕霧はお前が強がっているのを何となく気づいていたぞ。『ちちうえ、げんきがないみたい』と」  するとばつが悪そうに氷雨は苦い顔をする。 「銀雪……今までしなかった分、私を甘やかしてくれませんか」 「無論、そのつもりだが」  これ以上言葉は無用。俺達は唇を重ねると深い口付けを交わした。 「んっ……はっ……」  刺すような寒さの中で、俺は氷雨の肌に口付けを落としていた。俺と翡翠以外には身体を許さなかった氷雨の肌は誰も足跡を付けていない雪のように白く、薄暗い部屋の中で浮き上がっている。口付けを落とすと、椿の花弁を一枚一枚千切って雪を染めているような心地がした。硬くなり始めたそこに触れると、ひくりと喉を仰け反らせる。 「銀…雪……」  頬を薄紅で染めた顔が愛らしい。俺は頬に口付けをすると、片手で扱きながらもう片方の手で胸の頂きを撫でた。 「んんっ………ふっ……」  目を瞑って身悶えするさまの何と艶やかなことか。俺はがら空きの方の反対側の胸の頂きを口で含むと舌で転がした。 「ひぅ……や……ぁ……」  身体を跳ねさせる氷雨の甘い声をもっと聞きたい。念入りにじっくりと責め立てると、やがて先走りで濡れ始めたのか水音が響く。 「銀……雪……恥ずか……しい……」  片腕で赤くなった顔を隠すので、一旦胸を弄っていた方の手を離して腕を掴んだ。 「隠すな。お前の顔が見えないだろ」 「だって……あんんっ……」  その時、氷雨の自身から生温かい液体が勢いよく噴き出す。氷雨は達する時の顔を間近で見られたせいか、顔を真っ赤にして目を逸らしていた。  そんな氷雨の顎を掴むと、腎水の掛かった手を氷雨の目の前で舐める。舌には以前よりも濃い味が絡まった。 「銀雪、そんな……汚い……!」 「お前のだし、汚くねえよ。ところで前よりも濃いが自慰をしてないのか?」  氷雨の言葉を無視して問うと、氷雨は気まずそうに頷いた。 「翡翠とは夕霧が生まれてからは、肌を重ねたことは殆んどありませんし、貴方と肌を重ねなくなってからは情欲があまり沸かなくて……」  氷雨は氷雨なりに俺に一途だったと言うわけか。俺としては翡翠と肌を重ねていても別に咎めようなどと思っていなかったのだが。 「氷雨って本当にくそ真面目だよな。男で俺以外に身体を許さなければそれで十分なのに……」  氷雨を撫でると氷雨は俺に片腕を回してきた。 「だって……私は貴方をいまだに愛しているのですから。貴方以上に私は未練がましい男ですよ。もう一子の父親だというのに、貴方に抱かれたいと思ってしまうことだってあったのです」 「それなら男として光栄なものだな」  思わずにやけてしまいそうになるので、顔に力を入れて堪える。そして氷雨の片足を肩に担ぐと、氷雨の後孔に丁子油を纏わせた指をつぷりと入れた。 「ぐっ……ぁ……」  6年以上開かれなかったそこは狭く、氷雨が顔をしかめる。なのでゆっくりと指を動かしていく。 「んっ……ふっ……」  やがて氷雨の口から甘い声が漏れてきたので、本数を増やして良い所を触れると、氷雨の身体が跳ねた。 「あうっ……う……」  もうそろそろ良いだろう。指を抜くと、そこはひくひくと動き、卑猥なことこの上なかった。俺は一糸も纏わぬ姿になると、勃ち上がっていたそれを氷雨の後孔にあてがう。 「氷雨、抱くぞ」 「銀雪……来て……」  潤んだ氷雨の青い瞳。その目を見つめながら俺はゆっくりと熱を挿れていく。 「うっ……ぐっ……」  氷雨は痛みに呻きながらも、俺の身体を引き寄せる。そんな氷雨の姿が健気で、なるべく痛くないように奥まで貫いた。それだけでも氷雨は荒く息を吐く。 「銀雪……動いて……私をめちゃくちゃにして」  なんということを言うのだ俺の主は! 俺は……必死に我慢してたのに。 「ああ、もう! 氷雨の馬鹿」  温かく柔らかな肉に熱が包まれ我慢出来る筈が無いだろう。俺は舌打ちをすると、抽送を情欲のままに始める。 「いっ……ああっ……!? 銀……雪……やっぱり待って……!」  久々の快楽に怯えたのか氷雨が悲鳴を上げる。だが俺は止めない。 「お前が先に言ったんだろうが! 観念して情欲を受け止めろ!」  逃げようとした氷雨の腰をがっしりと掴む。そして俺は更に激しく氷雨の良い所を穿つ。 「ああっ……! やっ……ひあ……うああ……!」  髪を振り乱して、乱れる氷雨は十代の頃よりも艶やかで、ますます情欲が掻き立てられる。 「やらああっ……ああっ___ひああっ__!」  だらだらと硬くなっている中心から涎を垂らしているので、もうすぐか。俺は氷雨を抱きしめて熱で穿つ。 「氷雨……好きだ……!」 「銀雪……ああっ____!!」  氷雨の中に熱を注ぎ込む。氷雨は俺の腹に白濁を掛けるとくったりと身体から力を抜いた。 「氷雨……大丈夫か?」  一度抜くと頭が冷えて、自分がとんでもないことをしたと悟る。だが、氷雨は涙で顔を濡らしながらも俺に微笑みかけていた。 「大丈夫……銀雪……もっとして?」  一児の父親のくせに可愛すぎる。今まで父親として弱味を見せなかった分であろう。俺は氷雨の涙を拭った。 「ああ、我が主。お前の気が済むまでお前に俺の愛を注ごう」  こんなことをしても、俺達は子を成せない。それでもいい。子なら氷雨の血を引き自分の子供同然の夕霧がいるのだから。ならばこの行為はただ互いの愛を示す為だけのものだろう。俺と氷雨は時間を忘れる程の長い夜の間、肌を重ねた。  眩しい朝日で目が覚める。俺の腕を見ると、まだすうすうと寝息を立てている氷雨がいた。 「銀雪………」  寝言で俺の名を呼ぶ。もう情交なんて諦めかけていた。だって氷雨の伴侶は翡翠なんだから。だが、昨夜のことで俺がまだ愛されていることを知って胸が温かいもので満たされた。 「氷雨……愛している」  昨夜俺が掛けた羽織を布団代わりにして寝る氷雨の額を撫でた。  それからというもの、月に何度か肌を重ねるようになった。勿論、夕霧が寝静まってからだが。昼間は藩の有力な若き学者であり良き父親。夜は俺に抱かれる男。俺にしか見せない夜の顔は、夕霧が生まれる前よりも妖艶で前よりも盛ってしまう。  結果、その翌日に氷雨が腰を擦る様を見て罪悪感を覚えてしまった。 「ちちうえ、こしだいじょうぶかな。ほんをいっぱいかかえるせい?」  夕霧にそう訊かれた時は、顔が引きつってしまった。  そんな生活を送る内に、氷雨の食欲を取り戻していき顔色も良くなったおかげだろうか。夕霧も夜泣きがだんだん減っていった。 「夕霧くんは大分霊力が安定しているようだ。私は月に一度様子を見に来る程度で良いだろう。だが零、辛いことがあれば相談してくれ。その……お前はいつ一人で抱えるから心配だ…」  秋也がぎこちない顔で言うと、氷雨は微笑んだ。 「ありがとう。でも大丈夫。私には銀雪がいるから。秋也の方こそ私に相談して。秋也だって痛くても我慢ばかりするだろう?」  秋也は一瞬、目を見開く。あの夜、自分の身体中の傷跡を見られたことを悟ったのだろうか。秋也は暫く黙っていたが、目を細めて頷いた。

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