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※参勤という名の離れ離れ※
武士という仕組みを恨み、あの馬鹿大名を呪いそうになった
龍神からあの事を告げられてから1年の時が過ぎた。だが、特に不幸な事は起きていない。龍神の気のせいに違いないな。そう思っていた矢先、江戸への参勤に氷雨が同行することになった。
「江戸への参勤か……まだ幼い夕霧が居るのにあの馬鹿殿は!」
ぎりぎりと歯を噛むと、氷雨が宥めるようにぽんぽんと肩を叩いた。
「銀雪、そんなことを言ってはいけませんよ。ですが夕霧を置いていくなど不安しかないですね…龍神様もあんなことを仰っていましたし」
夕霧を一人にすれば陰陽師どもが狙いかねない。だからと言って紅原に預けるのも頼り過ぎな気がする。だが夕霧を連れて行くことなど出来ない。
「銀雪、貴方は夕霧の傍にいてください。それならばあの子は不安ではなくなるでしょう」
「お前はどうなんだよ。俺が居なくて大丈夫なのか?」
氷雨はぎこちなく頷いた。
「寂しいですよ。貴方や秋也の前以外では八方美人な私ですし……。ですが私よりも寂しがるのは夕霧です。母と離れ離れになったあの子を一人にしてしまっては親失格ですよ? 私も貴方も」
気丈に笑いたいのだろうが、俺の前では他の奴の前でするいつもの作り笑いも出来ない。そんな氷雨が愛おしくてこれから一人にすることが苦しくて堪らない。
「うーん……分かった。でも文は寄越せよ」
「はい。では銀雪も文をくださいね」
細い氷雨の身体をぎゅっと抱き締める。氷雨は痛いですよと笑いながら俺の頭を撫でた。
待ち遠しかった5日後になった。夕霧を藩校まで隠形して見送ってから、氷雨の部屋に入る。氷雨は読んでいた学術書を閉じて微笑んだ。
「銀雪、おかえりなさい」
「ただいま。ではするか」
氷雨は頷くと呪符を部屋の柱に貼り付ける。部屋を囲う見えない壁が出来たかと思うと、外の音が一切聞こえなくなった。
「これはすごいな……」
「そうですね。ですが、悪用されかねませんので保管は厳重にしませんと」
振り返って難しそうな顔をする氷雨を壁に押しつける。状況が把握出来ずにいる氷雨の顎に指を添えた。
「堅苦しいことはどうでもいい。今は俺だけを見てくれ」
「銀雪……ぁ……んん」
氷雨の唇を塞ぐと舌を絡め取る。抑えていた情欲が身体に火をつけ、貪るように深い口付けをする。氷雨の身体を抱き締めると、氷雨の身体もかあっと熱くなっていた。
「はあっ……ぁ……」
氷雨の息が続く限界まで口吸いをして離した。唇を離せども名残惜しそうに透明な唾液の糸が互いの唇を繋ぐ光景はいやらしい。そして頬を赤くして息を乱す氷雨の顔の艶やかなこと。とろりと蕩けた氷雨の瞳を見ていると食べてしまいたくなる。氷雨の身体を抱えて布団に運ぶと、ばっと前を開いた。
夜ばかり見下ろしていた肌ではあるが、朝日に照らされても美しさを損なうことがない。
「やはり……朝にこのように肌を晒すのは恥ずかしいですね……」
照れているのか氷雨は顔を腕で隠そうとする。そんな氷雨の腕を掴むと、至近距離で見下ろした。
「恥ずかしがることはない。お前程美しい奴など俺は知らぬ」
「昼間からそのような陸言を……!」
本当に八歳の息子がいる男か? 一瞬そう疑いたくなるほど氷雨の恥ずかしがる顔が可愛らしい。
「夕霧が藩校にいる間にしようなどと言ったお前が言えたことじゃねえだろ。なあ、優秀でいやらしい零月様?」
「う………」
図星を突かれた氷雨は言い返せずに俺を見上げる。そんな氷雨を見ていると笑いが込み上げてくくっと笑ってしまった。
「銀雪、笑わないでくださいよ」
「ごめんごめん。お前がかわいいものだから」
少し不貞腐れる氷雨の首筋に口付けを落としてから、耳元に唇を寄せる。
「食べてしまいたいほどお前が愛おしい」
氷雨の耳が赤くなると、お返しのように氷雨が俺の耳に唇を寄せた。
「貴方にならば骨の髄まで食べられたい。………あっ、でも本当に食べたらだめですよ。鬼祓いや陰陽師に貴方が殺されてしまいますからね」
自分のことよりも俺のことを心配してくれる氷雨の健気さで胸が愛おしさで満たされる。
「分かっているよ。氷雨、じっくり蕩かしてから食べてやろう」
氷雨の胸の頂きに触れながら耳を甘噛みする。快楽に震える氷雨を眺めながら、じっくりゆっくりとその身体を前戯で蕩かしていった。
「銀雪……っ……そこっ……やめ……」
薄紅の胸の頂きを引っ掻けば、ふるふると氷雨が震える。
「何だ。動いてほしいのか?」
違うと言いかけた氷雨の腰を掴むと、ぐりぐりと奥を抉る。
「あっ……んぅ__!?」
すると俺の身体に背を預けていた氷雨が、身体を仰け反らせて喘いだ。この体勢ですると些か重いのではないかと思っていたが、存外氷雨の身体は軽い。それでも骨が浮き出るほど細い訳でもないので心配する必要は無いだろう。
「銀雪っ……深い……もう……おかしくなる……」
前戯で赤い口付けの跡だらけになった身体を一糸も纏わずに見せつけるように、甘く声を上げる様の何と艶やかなこと。それだけでは飽き足らず、男の象徴からはとろとろと先走りを溢れさせ、目を情欲で潤ませているのだから目の毒でしかない。だが、それを見るものは俺以外にいない。
「おかしくなりたいんだろ? 俺のに食いついて離そうとしないじゃないか」
「だって………んん………くぅっ……」
下から軽く突き上げるだけで、淫らな声を吐き出すものだから、加減が出来なさそうになる。氷雨を此方に向かせると、無防備に開かれた唇と己の唇を重ねた。
「あぅ……ふ……」
熱く柔らかな舌を絡めれば、理性など忘れて貪りたくなってしまう。
だがこの姿勢だと、畳を汚すのではないか? それに半人半龍の夕霧は腎水 の臭いを知らないとは言え、何の臭いかと尋ねるのではないか。そうなるとちと気まずい。口吸いといつもよりもゆるやかな城隍の快楽に浸っている氷雨から唇を離すと、氷雨は俺をぼんやりと見上げた。
「すまん。この体勢だと思い存分やれないから、一旦離れろ」
「え……? 良いですけど」
氷雨は残念そうな顔をしながらも、頷く。そしてずるりと白い尻を上げると、布団の上に座り込んだ。
「いつもの体勢ですか? それとも俯せで?」
裸を惜し気もなく俺に晒す無用心な姿に頬がかあっと熱を持つ。
「俯せで良い。それだとお前も楽だろう?」
「まあ楽ですが。でも少し恥ずかしいですよ」
そう言いながらも、氷雨は軽く膝を立て尻を上げた姿勢で俯せになる。俺は腰を掴んでひくつく氷雨のそこにあてがうと、一気に奥に入れた。
「は……ああ___っ!」
氷雨は悲鳴のような声を上げる。氷雨が快楽のあまり身体が逃げそうになったので、腰ではなく肩を掴んで四つん這いにさせる。
「んああっ___! 銀雪……奥…………あ…当たって……」
奥を穿たれて我を忘れて喘ぐ氷雨の奥を加減の枷を取り去り打ちつける。
「当ててるんだよ。達いきたいならっ……我慢せずに達いけ!」
やばい。気持ち良過ぎてこっちが先に出してしまいそう。そんな自分を堪えて、ただ氷雨の弱い所を責める。
氷雨も最早余裕が無いようで、髪を乱して普段の姿から考えられないほど淫らな声を上げている。
「ああっ……うあっ……もう……無理……」
柔らかな肉の締め付けが強くなり、もう限界は目の前である。俺は唇を噛むと氷雨の肩に爪を食い込ませた。
「氷雨……好きだ……!」
「うっ……あ_____!」
氷雨の中に白濁を注ぎ込むと、氷雨は身体を仰け反らせて一際艶やかな声を上げると、布団の上にくったりとなった。
俺は氷雨の横に寝転ぶと、氷雨の髪を撫でる。氷雨は息を整えながら、俺の方を嬉しそうに見ていた。
「やはり、こう求められるのは嬉しいですね」
「俺達は愛し合っているんだから、互いを求め合うのは当然のことだろう?」
「ですね。だけど、こうやって求められるのは同性同士だからですよ。夫婦だと、親族の問題が発生しますからね」
翡翠のことを思い出したのだろうか。氷雨の顔が少し悲しげになる。
「翡翠とも愛し合っているんだろ? 恐らくは俺とは違う在り方で」
「そうですよ。愛し合ってはいますが、方向性が違います。ですが私にとって二人とも大切な愛おしい人なのには変わりありません」
俺達だから通用するが、もし俺と翡翠のどちらかが嫉妬深かったら刃傷沙汰になっていただろうな。まあ翡翠との結婚を仕向けたのは俺のせいなのだが。
「氷雨、またするか?」
「ええ。ですが、立てなくなる程にするのは止めてくださいね」
分かっているよと笑いながら俺は氷雨と口吸いをする。そして気が済むまで何度も情交を繰り返すのであった。
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