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第4話 縛られる

 スーツの上着を脱いでハンガーにかけると、神谷は次々と衣服を脱いでトランクスとTシャツだけという姿になる。   「突っ立ってても、やること変わんねぇぞ。時間が過ぎるばっかりで」    神谷にうながされて、やっと高田はのろのろと衣服を脱ぎ、浴室に向かう。  まだ神谷とラブホにいる、という現実が受け止められないような変な気がしている。  今からすることで頭がいっぱいになり、高田はもう仕事のミスのことなどすっかり忘れてしまっていた。    痛いんだろうか……    最初は痛いだけだと神谷は言っていた。  そりゃあ、そうだよな……挿れるための場所じゃないんだし。  今まで男とセックスをするということを考えてみたこともないので、知識がなさすぎる。  せいぜいいつもより丁寧にそこを清潔にしておくことぐらいしか、思いつかない。    しかし、下手に知識があったら、もっと恐ろしいのかもしれない。  何も知らないまま、神谷のやりたいようにやらせて、何も考えずに辛抱すればいいのだ、と高田は心を決めて浴室を出た。    部屋に戻ると神谷は暢気にテレビを見て笑っている。  所詮、神谷にとっては他人事なのだ。  フォローしてくれただけでも、ありがたいと感謝しなくてはいけない。  ミスをしたのは自分だから仕方がない、と高田は悲痛な思いでベッドに腰をかける。   「俺もシャワー浴びてくるから、逃げるなよ」    神谷はそう言い残して自分もシャワーを浴びにいくと、5分も立たずに出てきた。  部屋に備え付けてあったバスローブのようなものを羽織って、その紐を手にしている。   「さて、と……」    高田に密着するように隣に腰を下ろした神谷が、紐を弄んでいるので、高田は嫌な予感にとらわれる。   「腕だけ、縛るか」    神谷は高田の手首をつかむと、高田の目の前で紐を見せつけるようにかざした。   「俺さ。抵抗されると萎えるんだよね。それと、痛がられるのも萎えるから、酷いことはしない。挿れる時にお前が絶対に抵抗しない自信があるなら、縛らねぇよ。どうする?」    縛ってSM、というのではなかったので、高田はホッと胸をなで下ろす。   「悪いけど俺の、デカいぜ、見る?」    神谷は照れることもなく、自分のトランクスの前を引き下ろして、モノを取り出して見せた。  まだ半勃ちだが、それが完全に力を持ったらかなりの凶器だ、と思わせるに十分な大きさである。   「挿れる時になって、殴られたり突き飛ばされたりするの、ごめんなんだけど」 「縛って下さい」    高田は観念して手錠をかけられるように、両腕を差し出す。  いっそ縛られている方がいい。  身動きできなければ諦めもつく。  無理やりやられているという、自分への言い訳にもなる。   「なら縛るけど、挿れたらほどいてやるよ」    おとなしく両腕を縛られながら、もうすでに高田は現状についていけなくなっていた。  男とセックスするだけでも十分に異常なのに、合意の上で縛られている。   「お前、いざとなると思い切りいいのな」    神谷は腕を縛り終えると、笑いながら高田をベッドに押し倒した。   「安心しろ。気持ちよくさせてやる」    そんなことを言われて安心できるわけではないが、どうやら酷いことをされるわけではないとわかって、高田は最悪の事態よりは少しマシだ、と思った。  今のところ神谷は変な性癖というわけではなさそうである。  ゲイにとってはノーマルなセックスをするんだろう。    人生に1度ぐらいそんな経験があってもいいじゃないか、と高田は苦笑いを浮かべた。  リストラや会社の大損害のように、人に知れることでもない。    「腕、邪魔だなあ……」    神谷は周囲を見回すと、思いついたように自分のベルトを持ってくると、縛った両手首を更にベッドの頭の上の柵につないでしまった。  高田はバンザイ、の姿勢である。  これでよし、と満足そうに神谷は高田のわきの下をなでた。   「せっ先輩、それは勘弁して下さいっ、俺っ脇の下弱いんですよっ」    身をよじってくすぐったがっている高田を見下ろして、神谷は笑い声をあげる。   「くすぐったい、っていうのと快感は紙一重なんだよ。我慢してみろよ」 「むっ無理っ……あっ……やめっ……」    神谷は脇の下をなでていた手を少しずつ移動させて、乳首の先にそっと触れた。   「そ、そんなことっ、しなくていいですからっ」 「文句言うな。黙ってろ。俺が自由にしていいはずだろ」    少し神谷が強い口調になったので、高田はぐっと唇を噛んで耐える。    触れるか触れないかのソフトさで、両方の乳首の先を刺激されて、背中になんともいえないゾクゾクとした感覚が広がる。   「ひっあっ……んっ……」 「勃ってきたな。見てみろよ」    ツン、と固くなって突き出た乳首を、神谷はだんだんとこね回すように弄り出す。  くすぐったいのと快感が入り交じり、そしてだんだんとはっきり快感の方が強くなっていく。  ぎゅっとつままれて、思わず目を閉じてのけぞった瞬間、片方の乳首が生温かい感触に包まれた。   「あっ、やっ、先輩っ……」    ちゅ、ちゅ、っと音を立てて乳首に吸い付かれると、指で触られていたのとは全然違う快感が走る。  男にしては柔らかい唇だ、と変な気持ちになる。  優しく唇で吸われながら、中では舌がうごめいて乳首を転がしている。  それが強すぎず、痺れるほどの絶妙な気持ちよさで、高田はうっとりし始めた。    神谷は一方を丁寧に舌で愛撫しながら、もう片方も執拗に指でこね回している。  上半身がとろけそうな気持ちよさに、高田はセックスの経験値が自分とは違いすぎる、と感じる。  今まで自分はこんなに丁寧に女の胸を愛撫してやったことがあるだろうか、と反省してしまうぐらいだ。

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