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第7話 家に招待された

 翌朝高田が遅刻寸前にぎりぎりに出社すると、すでに神谷はデスクで仕事をしていた。    結局昨晩は終電に乗り遅れてタクシーで送ってもらってしまった。  高田のほうが家が近かったとはいえ、終電を逃したのは高田が起きあがれなかったからなのだ。    あそこで懇願してでも止めておいてよかった……と朝目覚めた時に高田はつくづく思った。  あれ以上続けていたら、今日は遅刻確実だった。    席につきあわてて仕事の準備をしていると、神谷がプリントアウトした書類を無言でぱさっと高田のデスクに投げてよこした。  英文で書かれたメールには、短く簡潔に『了承した』という意図のことが書かれている。  もう一枚の書類は契約書で、インドネシア向けに問題のパーツがさばけたことを意味していた。   「先輩、ありがとうございますっ!」    高田が思わず立ち上がって、深々と頭を下げると、神谷は目立つから座れ、というように手で合図をする。   「あのブツは俺のほうで急ぎの注文が入ったからお前から先に回してもらったと、課長には説明しておく。キシモトには第二倉庫にでも納品させろ」 「わかりました、恩に着ます」    神谷は高田のほうを見もせずに、忙しそうに自分の仕事をしている。  神谷は仕事中はあまり笑わない。  それに慣れているので、特にそれが機嫌が悪いのではないのだと、高田は気にしないようにしている。    だけど、さすがに今日は神谷の機嫌が気になった。  見返りに身体を要求されたものの、それは神谷を満足させるものではなかったと高田は自覚している。  バージンとやるのはつまらない、と神谷は言ったがまさにその通りだろう。  嫌だとか怖い、とかわめくたびに神谷がため息をついていた顔を思い出す。    最初は縛られてどんな酷い目に合わされるのかと恐ろしかったが、終わってみれば我慢できずに2回もイかせてもらったのは自分だったのだ。  口は悪いが、この人は根は案外優しいんじゃないか、と高田は端正な神谷の横顔をチラチラと見ている。  冷静に事実だけを見れば、仕事で大変なミスをした自分を黙ってかばってくれた上、言い方はどうであれホテルに誘われて同意の上で寝た、というだけのことだ。    取引の代償に身体を要求されたのが女性だったのならセクハラとも言えるだろうが、高田は男だ。  自分で了承したことに文句を言うつもりもないし、神谷を楽しませることができなかったことを少し申し訳なく思っていた。    高田のPCの画面に社内メール到着のウインドウがポンと開く。  差出人を見ると神谷だ。   『人の顔見てないで仕事しろ』    隣でそしらぬ顔をして仕事している神谷が、そのメールを打ってきたのだと思うと高田は、プ、っと吹き出しそうになる。  昨日この人とあんな恥ずかしいことをしたのだ、という秘密のニオイが、なぜだか甘いうずきのように感じられる。  俺は、この人がどんなセックスをするのかも、どんな形や大きさをしているのかも知っている。  こんなにスリムな外見なのに、あんなモノを装備してるんだよなあ……と思い出すと、ボン、と顔が熱くなった。    すごかったよなあ……  絶対痛いと思ったのに経験値が違うんだよなあ、と思うとなんだかくやしいような気がして、チリっと胸が痛む。    この人はあんな風に今まで何人もの男を抱いてきたんだろうか。  手をのばせばすぐ届く距離で、神谷の繊細な指がPCを操作している。  あの指がさまざまないやらしい動きをして追いつめられたのだ、と見ているだけでドキドキする。  仕事をしているふりをしながら神谷を鑑賞しているだけで、午前中が終わってしまった。 「おい、高田。メシ行くぞ」    口をヘの字に曲げたまま、神谷が立ち上がったので、高田はあわてて追いかける。  神谷は社のあるビル内ではなく、近所のそば屋に誘った。  高田がカツ丼の大盛りを注文すると、呆れたように苦笑している。   「お前、よくそんな食欲あるな」 「だって、昨日あんまり飯食えなかったから」 「ほんと、立ち直りの早いやつだな。お前のおかげで俺は余計な仕事抱え込んで大変だってのに」 「すみません、感謝してます」 「感謝してるんだったら、約束、忘れんなよ」    神谷がジロリと高田をにらむ。  にらまれても小言を言われていても、高田は不思議と嫌な気分ではなかった。  むしろ愛情を感じてしまうような気がする。  この人は俺に迷惑かけられて、ラブホでさんざん優しくイかせてくれて、それでもまだ俺を抱こうとしてるんだ、と都合よく解釈すると怖いものなどない。   「土曜日、俺んち来るか」 「先輩の家ですか?」 「俺は明日出張で一日いないが、土曜の朝には帰ってくる。都合のいい時間に電話してこい」 「わかりました。楽しみだなあ。先輩の家に招待してもらえるなんて」    高田が無邪気に笑顔を浮かべると、神谷が眉をしかめて怪訝そうな顔をする。   「お前、バカか。場所が変わってもやることは一緒だぞ」 「わかってますよ。でも先輩がどんなところに住んでるのか興味あるじゃないですか」    家に呼んでもらえるのが嬉しい、と感じたのは高田の本心だった。  日頃あまり他人を寄せ付けない神谷の、特別なテリトリーに入ることを許されたような気分だ。  

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