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第十七話◇レオン
そんなレオンの苦悩など知らぬルシアは、それからとにかく奔放だった。
レオンが必死に想像しないようにしていた裸体も、そういった知識も、さっさと曝け出して勝手に進めていく。
身を寄せられるたび硬直してしどろもどろになるレオンに呆れ、笑い、そして──優しくその心地よさを教えてくれる。
レオンはもう、抗えずにいた。
意識してしまうと雪崩のように、ルシアのすべてに呑み込まれていく。
元々ルシアはレオンが形成している世界の一部だ。
彼が占めている部分はただでさえ大きかったのに、ここにきてそれが更に拡大され収拾がつかなくなっている。
気を静めようと魔道具研究にも自然と傾倒するようになったのだけが、せめてもの救いか。
だが、呪文習得の為に事前に実践しようと提案したルシアには本気で驚いた。
レオンとて了承した以上こうなる関係になると理解はしている。しかし考えないようにしていたのも事実だ。
そんな消極的な態度が、ルシアの気に障ったのかもしれない。
妙な呪文集を予習しろと言われて数日後、遂にルシアの前で裸になることになったのだ。
初めての体験は、無我夢中だった。
緊張も、甘酸っぱいような空気も、触れ合った肌も、彼の中も。
感じ入るその表情も、甘く切ない声も、繋がったその事実に、これ以上のない幸せを確かに感じた。
そうして、肩で息をしながら繋いだ指先を握り、唐突に抵抗してきた過去が馬鹿らしくなったのだ。
ルシアが好きだ。
ずっとずっと、好きだった。
だから誰にも渡したくなかった。
他を選んでほしくなかった。自分だけでいいと思ってほしかった。
悲しい顔をしてほしくない。飢えを覚えてほしくない。
毎日温かい食事をして風呂に入り、夜は安らいだ気分で眠ってほしい。
いつも、幸せでいてほしいのだ。
認めてしまうと驚くほどすんなりと、レオンの心に入っていく。
彼に恋をし、傍にいられる。
お前しかいないと頼られて、弱音を聞ける立場にいる。
こうして裸で、抱き合えている。
幸せを、貰っている。
「──気持ちよかったな、レオン」
汗でしっとり濡れた指先を絡めながら、ルシアが目を細めてこちらを見る。
もう一度したい。
もっとよく見て、もっと触れあっていたい。
湧き出る欲はまだ収まりをしらずにいる。
だがレオンはそれを言えず、ただじっと湿ったルシアの唇を見つめていた。
この行為はあくまで発情期への準備にすぎない。理由なく続けていいものではない。
「……うん」
胸がきゅうっとなるような甘い痛みを感じながら、レオンはただ、頷いた。
あまりに幸せな経験だったせいか、それからレオンは再度そのことで頭がいっぱいになる自分に悩まされている。
翌日もその翌日も、ふとした瞬間にルシアの乱れた様が頭に浮かぶ。
その度に気を静めようと魔術書をめくり、魔法石と転移魔法の基礎知識ばかり上書きされていた。
大体、ルシアがあんなに可愛いだなんて聞いていない。
あけすけな態度を取ったかと思えば、次には顔を赤くするし、声を漏らすまいと手の甲を口に当てたかと思えば、平気で人の性器を……。
駄目だ、考えるな。
気を取り直すように立ち上がり、部屋の隅に追いやられていた小箱を手に取った。
専門学部生となり、魔道具研究学の授業を選択した。
この研究学は最終学年までに魔道具を一つ制作し提出することが決まっている。
元々転移魔法のことを考える前は、繋道石を利用した魔道具を制作するつもりでいた。
時間を取れずそのままにしていたが、今後は授業で時間を割くことが可能になる。
提出した魔道具は後日返却されることが決まっている。渡すのは卒業間近になるが、レオンはこれをルシアへ贈ろうと考えていた。
美しい幼馴染みの喜ぶ顔が見たい。
繋道石は安価ではないため、ルシアはまだ手にしていなかった。
レオンとしても離れていてもちょっとしたやりとりができるように、以前から彼に持ってほしいと考えていた。
ルシアは、複雑な家庭環境もありレオンのように自由にできる金は少ない。
繋道石自体は彼が望めばいつでも渡せるが、あの性格からいって素直に受け取るとは思えず、ずっとその機会をうかがっていた。
今は毎日顔を合わせることができるから、特別な連絡手段は必要ない。発情期を共にする約束もしたし、少なくとも彼が自分から離れる事はしばらくないだろう。
ルシアはああ見えて無駄な物は欲しがらない。
だからこそちゃんと手を加えた繋道石を贈ったら、彼が尚のこと断れず受け取るだろうと予測は出来る。
時間はまだ沢山ある。教師も納得させ、ルシアが喜ぶような物を。
レオンは久々に持った箱を机の端に置き、まずは魔法を使わず紙に設計図を起こすことにした。脳裏にちらつく幼馴染みの裸体を思い出さぬよう、真剣に机に向かう。
しかし数分もしないうちにレオンの脳内はやはりあの美しい幼馴染みで埋め尽くされて、自然と眉根を寄せている自分にとうとう呆れてしまった。
ルシアが好きだ。
こんなにもたくさん、溢れそうなくらい、好きだ。
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