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第十八話◇レオン*

◇  自分の中にこんなにも熱い感情があるとは知らなかった。  互いに好いた相手ができるまでの関係だと念を押されても、他の人間を愛す隙間などできるはずもないと確信していたし、現に彼との日々を重ねる度に、一層想いは募っていった。  背伸びをしながらレオンの首に両腕を回すルシアは、相も変わらず可愛くて、美しい。  その細い身体をしっかりと抱き込み、唇を合わせ、甘い蜜に夢中になる。  発情期の行為は静寂さえ連れていた初体験とは全く違い、まるで嵐だ。  甘い香りに溺れ常に熱に浮かされたような状態で、ルシアは元より、レオンも信じられないほど積極的になる。  触れあえば触れあうほど血が滾り、互いに獣のように舌を這わせ、歯を立て、組み敷いて組み敷かれ。  初めての時はその強烈な香りに溺れる前に、縋り付くルシアの腰を押さえつけ、なんとか避妊呪文を紡いだのを覚えている。  六度目となった今は、さすがに会った瞬間に呪文を詠唱する段取りもできて他の呪文も唱えられるようになった。  だがそれも長くはもたない。  レオンはルシアの口内を好き勝手に犯しながら、淫らに泳ぐ内股に手を滑らせた。 「も、レオンっ」 「……まって、ルシア」  もつれ合うようにしてベッドに倒れ込み、真っ白な裸体を惜しげもなく晒したルシアは、あの日より手足もまた伸びて更に綺麗になった。  するりと滑らかな肌を撫で、柔らかさと弾力を適度にもった内股を淡く揉めば、焦れたように腰を揺らされる。  彼の下腹部は既に愛液に塗れ、勃ちあがったその肉芯も期待に先端を膨らませていた。  桃色の割れ目から透明な液体が滲み出て、レオンはそこをそっと親指の腹で円を描くように愛撫した。 「こんなに濡れて……、我慢できない?」 「ん、レオっ、早くしろっ」  両脚を広げ奥なる部分を触って欲しいと強請るルシアに、レオンは思わず口元を緩める。  彼はいつだって欲望に忠実でその反応も素直だ。  レオンに対しては取り繕うこともしないのか、しつこいほど焦らすと逆に押し倒され、上に乗られることも少なくない。  甘い唇を食みながら、ぐりぐりと先端を指でいじめると薄い腹筋が震え、掠れた嬌声が漏れ出ていく。  眉根を寄せて感じ入るルシアの一挙一動を逃さぬように見つめていると、視線に気付いたのか震える瞼が開き空色の瞳がレオンに訴えてきた。 「……そんなの、もういいから……っ」 「でも、よく解さないと」 「ば、か、もう、準備、して……っ」  前日から匂いの濃さで発情期の訪れを指摘されたルシアは、レオンが来る頃には既に一人で遊んでいたようだ。  そんなことは百も承知だが、ルシアが自分に縋る様を見たくて、何度もこのくだりを繰り返してしまう。  唇を離し、うなじを覆うベールチョーカーの上から舌を這わせ、そのまま下へと移動し尖った淡い桃色の乳首を口に含む。 「ぁ、ん、ん……っ」 「……ここも、感じるようになったよね」  一度の発情期のたびに、五日から一週間は時を共にする。  今となっては互いの性感帯などすべて知り尽くしていると言っても過言ではない。それこそ全身くまなく舌を這わせたし、気絶するまで内部を犯した事もある。  噛みついて噛みつかれ、互いに歯形だらけになることだって。 「ぅ、く、そ、レオンっ!」  ちゅ、ちゅ、と突起に悪戯をしていると不意にルシアがぐい、とレオンを押し返した。  あっという間にのし掛かられ、形勢逆転する。  ベッドに押し倒されながら、覆い被さるルシアはレオンの両手を自分の手と絡み合わせ、ぎゅっとシーツに縫い付けてくる。  先ほどルシアに乱されたシャツは既にボタンを外され、レオンの胸元を晒していた。  潤んだ空色の瞳が近付いて、噛みつくような荒々しいくちづけをされる。  堪能する間もなくルシアはそのままレオンの首筋に唇を寄せ、頤に小さく歯を立てた。 「……っ」 「……は、お前だって、我慢できないだろ」  ズボンを押し上げている熱に気付き、ルシアが目を細めて笑う。  攻めの立場になったルシアは、この上なく妖艶で、はしたなく、そして格好いい。  その表情に生唾を呑み込む勢いだが、レオンは敢えて絡めた指に力を入れた。 「ちょ……っ」  慌てて指をはずそうとルシアが身を引くが、レオンは更に力を込める。  力の差は歴然で、ルシアは再度レオンの顔面に唇を寄せる羽目になった。  そこまでくるとさすがのルシアもレオンの意図に気付いたようで、ほんの少し口元を緩めながら再び唇を合わせてくる。  重なり合った唇の隙間を縫い、当然のように舌を差し込む。ルシアの口内は熱く、舌先はいつものように甘い。  それを優しく吸い上げ、次には角度を変え、口内をなぞるように舌を動かした。  小さな吐息を漏らしたルシアの繋いだ手に力が入る。その様も堪らなくて、レオンは目を細める。  もっと感じさせたい。何もかも溺れさせて、分からなくしたい。隙間なく繋がって、一時たりとも離れたくないし離したくない。  レオンはこの時間が好きだった。  飽きるほどくちづけをしていると、互いが一つになったような感覚に陥る。それは最奥で繋がっている時よりも不思議と距離を感じない。  もちろん、こうしていると段々とルシアの力が入らなくなり、下腹部は更に濡れ、期待でびしょびしょになるのもいい。  呼吸の仕方を忘れ、逃れようと小さくもがくのもいい。  だがなによりも、ルシアから確かな愛情を感じられるし満たされるのがたまらない。 「ぅ、ン……っ、は……っん」  湿った音が口元から漏れて、互いの息が荒くなる。それさえも興奮剤で、目の前が赤くなるような感覚に陥る。  飽きるほど唇を吸って舐めても、足りなくて仕方がない。どれだけ混じり合っても、離れたくない。  しばらくそうしていると、ルシアの甘い匂いが更に強くなった気がして、レオンは軽い目眩を覚え、指の力を緩めた。  すると、その瞬間を待ちわびていたとばかりにルシアが迷いもせず、唇を離して身を起こした。  名残惜しくて追いかけようとすると、胸元をてのひらで押さえつけられる。  息を整えていると、ズボンと下着を掴まれ、性急に脱がされた。そそり立った中心部にルシアの唇があたる。 「ぁっ」  ぬかるみに熱を包まれる。  びくりと揺れたレオンの腰を揶揄うように欲望を吸い上げられ、思わず声が出てしまう。  こうされることが恥ずかしくて嫌がると、ルシアは更に喜んでレオンを追い上げるので、極力平気なふりをしたい。  だが、そんな意図など女王様は見え透いているのだろう。彼自身も余裕がないせいか、巧みな舌使いで愛撫され、思わずルシアの頭を抑えた。  先端を責められ、吸い上げられるとそのまま極めてしまいたくなる欲求に駆られる。だが、そうしようと快楽を追いかけるとルシアの舌はあっさり離れてしまった。 「……まだ、だろ」 「ルシアっ」  身を起こした彼が口角を上げこちらを見下ろした。  そのままレオンの身体に跨がり、見せつけるように両足を広げる。奥まった箇所の真下には、先ほどルシアの口内で愛されたレオンの剛直がある。  はやく、ほしい。  そんなことを思うのは、レオンだけではない。  期待に孕んだ目でルシアを見上げると、欲情した彼の瞳と視線が合った。  ルシアが微笑む。これからの行為が正しいものであると確信している表情だ。  白い手が、レオンの熱に触れる。そうして、今度こそルシアはその切っ先を呑み込んだ。 「──ぅ、んんっ」 「……っ!」  うねり、締まる内壁がレオンの熱を食んでいく。  進めば進むほどそのうねりは増し、濡れた肉が先端を締め上げた。放出しそうになるのを必死に堪え、レオンは歯を食いしばった。  いつだって、ここはきつく、途轍もない快感を与えてくる。  思わず閉じてしまった目を開ければ、ルシアが喉を反らし天を仰いでいた。  震える身体はレオンの熱に侵され、強烈な快楽に耐えているように見える。だが、そのまま自重で腰が落ちると、彼の内部が更に痙攣した。  ルシアは声もなく、内股を震わせていた。開いていた両足が意思とは反対に閉じていく様は、案の定彼の絶頂を露わにしている。  堪らずに、レオンは彼の細い腰を掴んだ。  深い絶頂を覚えているはずの彼の中心は、先端を濡らしてはいるが白濁を零した様子はない。 「っ、挿れただけでイっちゃった……っ?」 「ぁ、ぁ……ぁっ」  力なく首を横に振られたが、意味はないものだ。  内部から強烈に締め上げられれば、一目瞭然だ。  未だ締め付けが緩まらない状態で、レオンは焦れて一度だけ腰を揺らす。 「ひっ、ま……てっ」  絶頂したばかりで辛いのだと暗に言われても、もう我慢できない。  掴んだ腰を持ち上げれば、剛直に肉壁が絡みつきながらも離れていく。  そのまま最奥に潜り込むように突き上げると、ルシアが甘い声を上げレオンの両太股に手をついて制止しようとする。  構わずレオンは腰を揺らした。もう止まらなかった。 「ルシア……、可愛い」  かわいい、ルシア。  繋がった箇所から濡れた音が聞こえる。  絶頂で閉じていたはずの両足が、レオンの突き上げに耐えられず、徐々に開いていく。  律動に合わせ揺れるルシアの肉芯は天を向き、たらたらと蜜を垂らしていた。  尖った胸の飾りは桃色に色づき、眉根を寄せて頬を赤らめ喘ぐルシアの唇は、先ほどのキスで腫れている。  なんて可愛くて綺麗なんだろう。  半ば茫然とその顔を見つめながら、レオンは欲望のまま指で胸の突起を掴み、親指で押し潰すように円を描く。 「ああっ」  きゅう、と内部が締まり、更なる快楽に足掻くルシアにレオンもまた追い上げられる。  気持ち良さに逆らえず最奥を抉りながら愛しいオメガをひたすら突き上げた。  はしたなく開いた脚の間に目をやれば、充血した肉芯が揺れている。小ぶりで白く柔らかな尻の間に潜り込む己の熱は、まるで暴力だ。  それでも健気に呑み込むルシアに目を奪われながら、自身を包む卑猥な内部に為す術もなく絞り上げられた。 「っ、ルシ、ア……っ!」  細い腰を押さえつけ、更に最奥を突き上げてレオンは吐精した。どくどくとルシアの奥深くを抉りながら、絶頂の証しを塗り込んでいく。  レオンの猛攻に全身を震わせたルシアもまた、深い絶頂に襲われ背を仰け反らせている。  ぐにぐにと蠕動する内部に締め付けられ、更に放出が長引いてしまうが、もう気にする余裕もない。  このオメガは自分だけのもの。  今からうなじを噛んで、つがいにする。  本能のままルシアを押し倒し、その首筋に舌を這わせる。だが、淡く歯を立てるとチョーカーが反応し、瞬時に硬く変化した。  レオンはそこで一旦、我に返る。  ああ、これはつがいにならぬ交わりだ。一時だけのものだ。  でも、まだ足りない。  起き上がり、未だ震えるルシアの身体に覆い被さり、両足を肩にかけ、レオンは再び律動を開始した。  揺らす度甘い声を上げるルシアの唇を吸い、胸の飾りを指で愛撫し、今度は後ろから突き上げ、余すことなくその身体を堪能した。  数時間後、意識が明白になったルシアがベッドに沈みながら照れたようにレオンを見上げた。  今日、気持ちよすぎた。なんて可愛い事を言って、頬を赤らめている。  レオンはルシアの身体に甘えるように寄り添いながら、はにかむルシアに頷いた。同じように、気持ちよかったと口で言うのは恥ずかしい。  その代わり手と手を重ね、握ったり離したりを繰り返しながら、気持ちを伝える。  レオンは行為後のこの時間も、キスをしている時と同じくらい気に入っている。  ルシアは外でこうしてくれることはない。  せいぜい講義中に肩が触れあう程度で、他の恋人達のように身を寄せ合ったり休憩中にふざけて膝の上に乗ったり、手を繋いで移動したりなんてしたこともない。  本音を言うならこういった時でなくとも手を繋いでみたかったし、講義以外は極力傍にいたい。  でも、もし嫌がられたら、と考えるととてもではないが行動には移せなかった。  なぜなら、時折ルシアに「気になる子はできたか?」と聞かれるからだ。  決してこの関係は恋人ではないと諭されているようで、いないと答える度に、虚しさに襲われた。  こうしている間にもルシアは、自分に相応しいアルファを探している。  いつかこの関係にも終わりが来る。その時を耐えられるだろうか。  胸のざわめきを無視して、レオンはルシアのうなじにくちづけを落とすと、一層隙間なく身体を寄せた。

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