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第22話 断れない仕事
「あ……翔……また、イク、んんっ」
ビクビクと体を震わせる広瀬をしっかりと抱きしめて、キスで口を塞ぐ。
声をあげると喉を痛めるので、お約束だ。
涙目で悶えるようにしがみつきながら、広瀬は何度も絶頂を迎える。
身体の相性も最高だと、沖田はいつも思う。
「もっと……翔……もっと、あうっ……すご……い」
「隼人っ、俺も、もう、くっ……はっ……」
貪るようにお互いに舌を絡めて、絶頂に達する。
空っぽになるまで出し尽くすように、激しく腰を打ち付けながら沖田も達する。
年甲斐もなく、いつも必死で広瀬を抱いてしまう。
うわ言のようにもっと、とねだる広瀬に煽られてしまう。
果てた後も、キスをしながら抱きしめていると、広瀬が余韻の中で、また軽くイクのがわかる。
時折、ビクっと身体を震わせながら、溶けそうな顔をしているのを見るのが、沖田の至福の幸せだ。
「翔……あ……俺、幸せ……」
「俺もだ、隼人……」
「翔、愛してる」
「なんだ、まだおねだりか?」
まだつながったままの下半身を揺するように動かすと、広瀬がうれしそうな顔で微笑む。
「気持ちよくてたまんない……翔のコレ、大好き」
「こら、締めるな。また始めるぞ」
「今日はもういい。また明日も抱いて」
「……身体は大丈夫なのか」
「平気。俺は翔が中にいるときが一番幸せだもん」
この半年で広瀬はずいぶん変わった。
愛情表現が豊かになったし、ストレートに沖田にぶつかってくる。
十歳年下の、若い恋人に、沖田はやられっぱなしだ。
どんどん好みのタイプになっていくような気がする。
まるで高校生にでも戻ったように性欲がわいてしまうのは、広瀬があまりにも一途で素直だからだ。
芸能界にこれほどスレていない人間は少ない。
大事に守ってやりたいと思う。
翌日、広瀬は朝一番に事務所に電話をして、例の仕事を断ろうとした。
電話に出たのは、敏腕マネージャーの佐々木女史だ。
「ごめんねえ、広瀬くん。この仕事、断れないのよ」
「えっ、どうしてですか?」
「それがねえ。うちの若い子たちと抱き合わせになってて」
「抱き合わせ?」
つまり、広瀬を出すことで、まだ売れていない他のタレントも一緒に使う、という条件らしい。
いつも広瀬のわがままを聞いてくれているマネージャーが断れないと言うのなら、それは本当に断れないのだろう。
まあ、自分が一日我慢して撮影すれば、他のタレントも使ってくれるというなら仕方がない。
お世話になっている事務所のために、たまには役に立っておくといいだろうと思った。
電話を横で聞いていた沖田が、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
事務所に圧力をかけるなど、久住のやりそうなことだ。
それほどまでして広瀬に接触しようとするなど、何か裏があるに違いない。
「隼人、その仕事はいつだ」
「えっと、今月の24日の午後イチ」
「わかった、終わったら迎えに行ってやる」
「そんなに心配しなくても、俺、大丈夫だよ?」
「隼人の心配をするのは、俺の趣味みたいなもんだから、気にするな」
「うん……じゃあ、迎えにきて」
遠慮はしたものの、広瀬はうれしそうな顔をしている。
家で毎日顔を合わせているものの、外で沖田と会うことは少ない。
たまには一緒にドライブでもしたいと思っていた。
撮影の当日、沖田はあまりファッションに興味のない広瀬のために、洋服やアクセサリーを選んだ。
モデルばかりいる撮影所で、広瀬が気後れしないように、との配慮だ。
たかが普段着でも、いいものを身に着けていれば、自信につながる。
放っておくと質素な広瀬の外出着は、ほとんど沖田が選んでいるようなものだ。
「へえ……その服装、まるっきり翔の好みだよね」
「そうなんですか。選んだのはマネージャーの佐々木さんですけど」
挨拶もロクにせずに、ぶしつけにジロジロと眺め回す久住に、広瀬は淡々と答える。
面倒なことになりそうなときは、全部佐々木さんに丸投げしろと沖田から言われている。
沖田は前もって佐々木に連絡を入れ、久住と広瀬がなるべく接触しないようにと、頼んでいた。
佐々木マネージャーにしても、広瀬をあまり近づけたくないという沖田の気持ちは理解していた。
ただ、今回は仕方がなかったのだ。
「キミが広瀬隼人くんだね。カメラマンの坂下です。今日はよろしく。沖田からもわざわざ連絡もらったよ。愛弟子なんだろう?」
チャーミングにウィンクをしてきた坂下は、どうやら沖田の知り合いのようだ。
少し、緊張感が和らいだ。
そんな坂下の言葉に、久住は不愉快な顔を隠しきれない。
親バカじゃあるまいし、わざわざカメラマンにまで連絡を入れるなんて、沖田の溺愛っぷりは予想以上だ。
過去に恋人だった久住は、沖田がどれほど面倒見のいい男かということを、よく知っている。
タイミング悪く他の男と関係を持っていることを知られてしまったが、そんなことさえなければ、手放したくない相手だった。
広瀬はどう見ても、たいした男じゃない。
ぼーっとした雰囲気で、やる気があるのかどうかもよくわからない。
顔も十人並みで、歌だってそれほどうまくない。
広瀬がなぜオーディションに残ったか、不思議に思うほど普通の男だ。
こんなやつのどこがいいんだか。
隣に並んで写真に写れば、どう見ても自分の方が上質の男だということを証明できるだろう。
広瀬をわざわざ指名したのは、そんなつまらない自己顕示欲だけが理由だった。
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