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第26話 流出

 なんだこれは…… 『今何しているの?』 『お前のこと考えてた』 『俺のこと? 本当?』 『どこかいいホテルはないかと探していたところだ』 『リゾート気分になれるところね』 『次は泊まりだな』 『早く会いたい』 『毎日会っているじゃないか』 『それでも足りないんだ』 『昨日あれだけ抱いてやっただろ』 『うん、すごかった』 『おかげで俺は腰痛だ』 『帰ったらマッサージしてあげるよ』 『そんなことしたら、また抱くぞ』 『それが狙いだもん』  相手は明らかに沖田だ。  プライベートの携帯だからか、本名で登録されている。  三浦は急いで自分の携帯で、そのチャット画面を撮影する。  延々と続く、激甘の恋人同士の会話。  噂には聞いたことがあったけれど、本当に沖田と広瀬はデキていたのか。  だったら、あのオーディションだって、出来レースだったかもしれないじゃないか。  あの広瀬が身体で仕事をとってたとは。    三浦の思考パターンは、久住と似ている。  沖田が本気で広瀬を愛しているなどとは想像もしていない。  広瀬は本気かもしれないが、沖田に遊ばれているのだろうと思った。  あの久住と噂のあった相手なんだから。  会話の続きには、広瀬の次の出演予定なども書かれていて、これが広瀬と沖田の会話だというのは証明できる。 『翔、愛してる』 『隼人、お前に会えてよかった』  はっきりと名前が書かれた箇所も証拠がとれた。  広瀬の携帯は何かの番組の記念ストラップがついていて、それも一緒に撮影しておく。  三浦は携帯をバッグに戻すと、急いで事務所を出た。    会話の写真のうち、1枚だけを久住の携帯に送る。  冒頭の部分だけだ。  決定的な部分は、まだ久住には渡さない。  そこは仕事と引き換えだ。    数日後。  沖田は知らないメールアドレスから送られてきた、一通のメールを凝視していた。  写真が添付されていて、本文には『写真週刊誌に売る』と書かれている。  薄暗い写真に写っているのは、沖田と広瀬のキスシーンだ。  場所は先日広瀬を迎えにいったスタジオの、地下駐車場。    あんな場所に記者やカメラマンが待ち伏せしている可能性があるだろうか。  あの日、沖田が広瀬を迎えに行くことなど、誰も知らなかったはずだ。  だとしたら、記者ではなく、あの日にスタジオにいた人間の可能性が高い。  そんなことをするのは、久住ぐらいしかいないが、証拠がない。    目的もよくわからない。  目的があるなら、写真を売ってほしくないなら代わりに何かをよこせ、と交換条件を提示してくるはずだ。  しかし、メールには『写真週刊誌に売る』とだけ書かれている。  となると、単なる嫌がらせか。  写真の写りは鮮明ではなく、キスしているように見えるだけだと言い張ることはできる。  ただ、どう見ても車は沖田の車だし、相手が広瀬だというのも言い逃れができない程度には顔がわかる。  送られてきた写真は一枚だが、他にも決定的瞬間の写真を持っている可能性がある。  沖田は、自分自身はどんな噂になってもいいと思った。  スキャンダルが雑誌にのるのは、今に始まったことじゃない。  過去にも、根も葉もない噂をもみ消してきたことが何度もあった。  だけど、それは沖田の交流関係が広いからできたことだ。    広瀬の場合、芸能界にほとんど知り合いがいない。  別の女と付き合っている噂を立てるにも、間に合わない。  ふたりの関係を疑われるだけならともかく、オーディション番組まで疑われるようなことになれば、スポンサーにも迷惑をかける。  うかつだった……  久住の性格はよくわかってはいたが、ここまでするとは思っていなかった。  こんなことをして、いったいなんのメリットがあるというのか。  いや、メリットなどないとわかっているから、何も要求してこないのか。  とにかく、早急に対策を立てないと。  こういうときは、まず、正直に広瀬の事務所に連絡するのが筋だが……  それはつまり、広瀬の事務所に対して、ふたりの関係を認めてしまうことになる。    別れろ、と言われるかもしれない、と沖田は想像する。  広瀬の次のアルバムのプロデューサーを変えられてしまうかもしれない。  佐々木マネージャーに電話をしようかと携帯を手に取ったが、沖田はまず話し合う相手が違うと気付いた。  話し合う相手は広瀬だ。  広瀬はなんと言うだろう……  『至急話したいことがある』  広瀬の仕事用の携帯の方へメッセージを送って、沖田は広瀬の帰りを待つことにした。    

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