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第29話 記者会見

 写真が週刊誌にのったのは、その週の終わりのことだった。  キス画像と、携帯の会話の写真。  記事には、それ以外にも決定的な証拠がまだあるというような内容が書かれていた。  携帯のメッセージではかなり際どい会話もしていたから、そういうのも盗まれているんだろう。   「隼人、身の回りのものだけ持って、ここを出るぞ」 「うん。いいよ。翔と一緒なら、どこへでも行く」 「パスポート持って出ろ。忘れずに」 「パスポート?」 「万が一の時のために、持っててくれ」  佐々木から連絡があり、緊急記者会見を開くと言う。  事務所には問い合わせが殺到しているので、直接会見の会場に来るように指示された。  広瀬は覚悟を決めた。  これを乗り越えて、沖田と新しい未来を見つける。  駐車場で車に乗り込み、広瀬は後部座席に伏せて身を隠した。  沖田が車を出すと、すでにマンションの前には人だかりができている。  芸能人の自宅の場所など、プライバシーはまったくないということがよくわかる。  会見場所は、急遽借りたホテルの会議場のような場所だ。  中継車がすでに何台か到着していて、広瀬は今更ながら、自分がそれほど注目されていることに驚く。  そんなに他人のスキャンダルって面白いものなんだろうかと、ぼんやりとした頭で考える。 「隼人、会見が終わるまで俺は待ってる。必ず待っているから」 「うん、行ってくるよ」  沖田を心配させないように、軽い雰囲気で笑顔を浮かべて車を降りる。  ホテルの裏口の場所は佐々木から指示されていた。  沖田の車に気付いた記者やカメラマンが向かってくるのを避けるように、広瀬はホテルに飛び込む。  控室には、佐々木が待ち構えていた。 「広瀬くん。事務所はまだ、あなたの味方よ。嘘をつけとは言わないけれど、余計なことは話してはダメ」 「わかってます。聞かれたことにだけ答えて、関係者の人に謝罪します」 「オーディションのことは、答えてはダメ。あれは、沖田さんの責任だから」 「わかりました」 「意外に落ち着いてるのね」  落ち着いているというわけでもないのだが、広瀬にとって、記者会見など心底どうでもいいことだと思っていた。  歌を歌う方がよっぽど緊張する。  マスコミの人間や、久住や、自分に非難を向けてくる相手など、もうこの先の自分の人生に必要ない。  ただ、お世話になった人や事務所のために、精一杯謝罪をするだけだ。    広瀬が会見場に姿を現すと、一斉にシャッター音が響いた。 「この度は、わざわざご足労いただき、ありがとうございます」  心にもないが、教えられたとおりに挨拶をする。  司会者がいて、挙手した記者の質問にひとつずつ返答する形のようだ。 「沖田さんとのご関係は?」 「一言で説明するのは難しいですが、尊敬できる人で、芸能界で一番お世話になっている人です」 「恋人関係かと疑われるような写真が出たことについては?」 「どう思っていただいても構いません。人が思うのは自由ですから」 「それは沖田さんとの関係を認めるということですね?」 「認めます。俺にとって一番大切な人です」  言ってしまったか……というように、佐々木がうつむいたのが目に入る。   「一緒に暮らしてるんですか?」 「一緒には暮らしていません。近くに住んではいますが」 「オーディションは出来レースだったという噂もありますが、それについては?」 「それは、沖田さんの仕事を否定することになりますから、俺からは何も話せません。ただ、オーディションが終わるまで、俺は沖田さんと直接話したことはありません。なぜ俺が選ばれたのかは、審査員だった人に聞いてください」 「沖田さんはバイセクシャルだと知られていますが、広瀬さんも同じですか?」 「それはどうだろう。俺は恋愛経験が少ないので、自分ではよくわからないです」 「これまで応援してくれたファンの人に謝罪の言葉はありますか」 「ご迷惑をかけた関係者の方々や、事務所、沖田さんサイドの関係者の方々に対しては、申し訳ないと思っています。賠償などが必要になれば、それにも真摯に向き合おうと思っています。ただ、応援してくれたファンの人に謝ることはできません」  会場にざわめきが起こり、罵るような言葉を浴びせてくる人もいる。  場内が静まるのを待って、広瀬は静かに言葉を続ける。 「俺は、今、何も隠さず本当の自分をすべての人の前にさらけ出しています。嘘は何も言っていません。これが俺なので、ファンの人の期待と違っていたとしても、自分を変えることはできません」 「それは、あなたを好きになってくれたファンの人に失礼だとは思わないんですか?」 「なぜ? 俺が誰かを好きになったら、なぜそれが失礼なんでしょうか。俺が……俺自身が自分の気持ちと、沖田さんの気持ちを守らなければ、誰が守ってくれるんですか。俺は、絶対に沖田さんを裏切りません。言いたいことはそれだけです」  佐々木がうなずいたのを見て、広瀬はマイクを置いた。  後を追うように質問を続けようとする記者を、警備員が遮断するのを横目に、広瀬は会場を出た。

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