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第5話 呆れた一日

 初めて……した。  こんなかっこいい人が俺の初めてになってくれたら、すごく嬉しいから、はしたなくて恥ずかしいけれど、どうしてもこの人に俺の初めての人になってもらいたくて。  した。  動画とかで何度も見て、どんな感じなんだろうって思ってた。  男の人のを咥えるのってどんな感じなんだろうって、たくさん想像してた。 「ンっあ……ん、む」  くびれのところを舌先で刺激すると口の中でびくんって、してくれる。それが嬉しくて、何度もそれをしてから、今度は口の中にすっぽりと包み込んでみる。 「ン……ん」  気持ち、いいかな。  俺の、口の中って。舌って。  ちゃんと義信さんのことを気持ちよくさせられてるのかな。  この舌は、ちゃんと気持ち、いい? 「ね、汰由?」 「……」 「君、もしかして、初めて?」 「!」  そう訊かれて途端に恥ずかしくなった。すごく夢中になってしゃぶりついちゃったって。義信さんが気持ち良くなってくれてるって勘違いしちゃったって。 「汰由、口でしたこと、ない?」 「っ」  バレてしまった。  したことないって。フェラ。  気持ち良くさせてあげられてるなんて思ったけど。初めてってバレちゃうくらいに下手だったんだ。歯立てないようにって気をつけてたけど、ちっとも上手じゃなかったんだ。 「……ぁ」  そう気がついたら途端に恥ずかしくなって、口から義信さんのを離して俯いた。 「無理しなくていいよ。口でするの、大変だろう?」  申し訳なさそうな顔をする義信さんに慌てて、急いで首を横に激しく振った。 「無理、してない、です。口、あの……初めて、で」  色々してもらったからお礼に、なんて言ったけれど。 「あのっ、ごめんなさいっ、したことないから、あんまり気持ち良くないですよねっ、すみませんっ、全然、どうでもいい相手で、しかも、そういう商売、っ、とかしようとしてたようなの、なんて、嫌ですよねっ。義信さん、かっこいいし。別に相手になんて困ってないのに。こんなこと、俺みたいなのにされたって」 「汰由」 「すみませんっ。動画……で、見たことあるのを真似してやったけれど、そう言うのを手本にする辺りがもう初心者って感じですよね。なんか……恥ずかしい」  声が尻すぼみに小さくなっていく。最後はもうぎゅっと絞るように小さく呟いた。  慌てて辿々しくてちっとも気持ち良くなんてさせてあげられてないくせに、お礼なんてうそぶいてしゃぶりついたりして、恥ずかしい。  きっと義信さんみたいにかっこいい人はこういうことだって慣れていて、とても上手な人と何度もしてるんだから、俺みたいなのとしたって、ちっとも。 「すみませ、」  恥ずかしい。 「っ」  羞恥心が涙になってこぼれ落ちそうになった。 「違うよ。謝らないで」 「っ」  そっと、しゃぶりついていた唇を、義信さんの指が撫でた。 「動画の真似って」 「っ……したこと、ない、から」 「……」 「こういうこと……」 「ね、汰由。もしかして、セックス自体が?」 「っ」 「初めて?」  義信さんにしてみたら、何にも知らない、何にもわかってない俺みたいなの、むしろ珍しいんだろうな。  もう二度と会うこと、ないんだろうし。もう恥ずかしさの上塗り、たくさんしてるんだから。こんなの別にって。だから、正直にコクンと頷いた。 「したことない、です」  きっと、嘘だろう? って、呆れた顔してる。  そう思いながら、俯いたまま、顔を上げることなく、口でするのに夢中ではしたなく濡れた自分の口元を手の甲で拭った。 「俺、初めて、です。ずっと、してみたくて……でも、興味、あって。それで……動画とか、その」  今日は、なんて日、なんだろう。  呆れることばかりの一日だ。 「すみません……」  してみたくて、ずっとずっとしてみたくて、思い余ってあんなアルバイトなんてして、死にそうに怖い思いして。助けてくれた人のコート汚して。ついでにこんなことまで。  ホント……。 「謝らないで、汰由」 「っ」 「恥ずかしいなんてこともない」 「っ」 「君みたいな子がもったいないなって思っただけだよ」 「ぇ?」  顔を上げたら、義信さんがにっこりと笑ってくれた。笑って、そっと俺のことを引き寄せて、その拍子にまたシャワーのお湯がいたずらに俺のことを濡らして、顔にかかるものだから慌てて目を閉じた。  ほら、やっぱり、色々が下手だ。  タイミングの悪いところでお湯がかかるし。  なんて不恰好な、一日なんだろう。  目を閉じたら、シャワーの水音が止んで。  手がびしょ濡れになった俺の顔を拭ってくれた。 「汰由」  優しく名前を呼ばれて、そっと目を開けると義信さんも濡れてしまっていて。それがドキドキして、心臓、痛いくらいにかっこ良かった。 「セックス、興味があったの?」 「っ…………は、ぃ」  して、みたかった。ずっと、してみたくて。男の人に抱いてもらえたらどんななんだろうって、想像だけ膨らんで、妄想ばかりが溢れて。 「じゃあ」  じゃあ、下手に決まってるな。  じゃあ、気持ち良くできるわけないか。  じゃあ……。 「僕としようか」 「…………ぇ?」  どんな人と、なんてこと、考えなかったんだ。俺のこと相手にしてくれる人なんて、いないって思ってたから。だから、誰でもいいからって。 「セックス。お礼とかじゃなくて」  してみたくて、仕方なかった。 「でも、ベタで古い映画みたいなことを言うけれど」 「?」 「キスは大好きな人としたほうがいいよ」 「……」 「そのほうがずっと気持ちいいから」  セックス。 「おいで。前戯からやり直し」  俺と、してくれる……の?  こんなかっこいい人が、俺のこと、抱いてくれるの? 「あっ……」  義信さんが俺のことを引き寄せて、そっと首筋にキスをしてくれる。初めて、そんなところに人の、唇が触れて、肌がくすぐったいのに、ゾクゾクした。 「ぅっ、ン……ン」  普段ならそんなところに触れられたら大笑いしてしまうのに。なぜか気持ち良くて。 「あっ……」 「汰由は敏感だ」 「あ、ごめっ」  こんなことでこんなになったらおかしいのかと身を縮めて俯きかけた。 「違うよ。気持ち良くなるのが上手だ。そういうの、男は」  でもそれを邪魔するように、義信さんの唇が鎖骨にキスをしてくれて、その次に耳をちょっとだけ噛まれて。 「興奮するんだよ」  それから低く、色っぽい声で耳から流し込むように囁かれたら。お腹のところ、下腹部の辺りがキュッてした。 「っあ……ン」 「覚えておいて」  よくわからないけど、キュって、なった。 「君にとても興奮してる」

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