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第7話 露

 ずっと、してみたかった。  これが「普通」に恋愛対象が女性だったら、ここまでじゃなかったのかぁ。  でも、俺の恋愛対象は男性で。  同性で。  だから、興味ばかりが膨らんで。  膨らんんだ興味と好奇心はインターネットで紛らわすしかなかった。  動画やインターネットの中から眺める行為はとてもとても気持ち良さそうだった。  どんな感じなんだろう。  人と肌を重ねるのはどんな心地がするんだろう。  そう考えてるばかりで。  そのうち、してみたい気持ちが膨らみすぎて、アルバイトなんてことまで、手を伸ばして。  怖かった。  どうなるかと思った。  最低な一日になるはずだった。 「汰由」  本当なら最低の一日になるはずだった。 「……はい」 「疲れただろ? 寝ていいんだよ」  この人に助けてもらえなかったら。 「眠れない? お腹が空いたかな? ルームサービスはもう終わってると思うけど、どうかなサンドイッチくらいなら用意してもらえるかも」 「あ、いえ。あの、シャワー先に使わせてもらってごめんなさい」 「いや、あんなにドロドロにしちゃったからね」 「っ」  最低なはずの一日。  でも、こんな人にして貰えたから。 「むしろ、一緒に入ってあげたのに」 「! そ、そんなことっ」 「あんなやらしいことしたのに、シャワーを一緒に浴びるのは恥ずかしい?」  言われて、頬がカアって熱くなった。  あんなにやらしいこと、たくさんしちゃったから。 「っ」  ドロドロになるくらいに、した。  たくさんイって、最後の方なんて自分から誘ったりなんてして、今、シャワーと一緒に熱も流せたのかな。熱くて熱くてたまらなかった身体は少し落ち着きを取り戻して、今は気恥ずかしさが優ってる。 「あぁ、サンドイッチくらいなら頼めるかもしれない。電話を」 「だ、大丈夫です! お腹は平気、です。ただ、夜景、すごいなって見てて」  こんな部屋を取ってもらってたんだって、びっくりしながら眺めていただけ。  ネオンが輝く、雨雫で濡れているガラスに寄りかかって、すごいところにいるなって、驚きつつ足元を見つめていただけ。 「紐、ちゃんと結ばないと……」 「あ、すみませ……」 「汰由は華奢だから」  言いながら、義信さんがバスローブの前をキュッとしっかり結んでくれた。 「抱いてる時も、折れないかって」 「そ、そんなに細くないです。俺、男だし」  とても綺麗にリボンの形に腰の辺りが締め付けられて、少し、ドキドキした。 「キツくない?」 「あ、大丈夫、です。結ぶの上手」 「そう? アパレルの仕事をしてるからね」 「そうなんですか?」 「それに、ちゃんと結んでおかないと」 「?」  あ、俺と同じシャンプーの香り、なのかな。近くに、義信さんが顔を寄せたら、まだ濡れているその髪から清々しい香りがした。同じ部屋の同じシャワーなんだから、同じ香りのはずなのに。ドキドキしてくる。 「目に毒だから」 「……ぇ?」 「汰由からいい香りがする」  義信さんからいい香りがして、ドキドキする。  ドキドキして、キュッと今結んでもらった腰紐にさえ、喘いでしまいそうになる。  だって、そこ、まだ感触があるから。後ろから激しく突かれた時に逃げちゃダメだよって腰のところを鷲掴みされた感触。自分から乗っかって、欲しいですってねだった時に、まだどう動いていいのかわからないで困っている俺を支えて手伝ってくれた時の手の力強さの感触。 「……ぁ」 「同じシャンプーに同じボディーソープのはずなのにね」 「……ん」 「汰由の方がいい匂いで」  匂い、かがれるの、ゾクゾクする。  キスされてるわけでもないのに、唇は触れていないのに、首筋がなんだか触れられいる時みたいにくすぐったくて、つい首を傾げた。 「あっ……ン」 「美味しそう」  耳元で聞くその声に思い出しちゃう。まるで、まだ物足りないみたいに、身体の奥が熱くなる。  恐る恐る、義信さんのバスローブの紐にそっと手を置いた。 「ン」  咎められないことをいいことに、その紐を握ったら、義信さんが腰を持って密着させた。 「っ」  硬いの、当たってる。  俯いて、バスローブ越しにそこを見つめて。 「義信さん……」  そっと、そーっと、上手に結んである紐を引き寄せて、するりと、少し引っ張った。  まだ、叱られない。 「あ……の」  まだ、叱られてない。  だから、そのまま引っ張って、肌蹴た素肌に手を置いた。  ゴツゴツ、してた。  筋肉があって抱き締められるとそのゴツゴツした身体にすごくドキッとした。男の人の身体に、俺は、すごく。 「あっ……」  解けちゃったと呟く唇を見つめながら、その逞しい、ついさっきたくさんしがみついていた肩にキスをした。そして、ちらりと見上げると。 「汰由」  きゅっと身体を縮めた拍子に着ていた俺のバスローブが肩から滑り落ちる。まだ、腰紐は結んであるけれど、半裸になって。その素肌を晒して。 「あ……義信さんっ」  乳首、に。 「あぁっ……ン」  キスして欲しくて、腕を絡みつかせた。  気持ちいい。  乳首、舐めてもらえるの、気持ち、ぃ。 「あっ」  また、したい。 「あン」  また、義信さんとセックスしたい。  シャワーを浴び終えたばかりの肌を触れ合わせて、もう一回したい。  そうねだるように腰をくねらせて、できるだけ彼が興奮してくれるように甘ったるい声で、乳首を気持ちよくしてもらえる度に喘いで。 「汰由」 「あっ、ン」  義信さんの手が俺を抱きしめて、そのまま引き寄せられた腰を翻すように、その場でくるりと向きが変わる。 「! あ、窓のとこ、じゃ、見えちゃう」  窓側に向いてる。半裸で、バスローブを腰のところで止めて、窓に張り付くようにされて慌てた。けれど逃げられない。俺の両側に、手が義信さんの手が、置かれて、そのまま押し付けるように身体がガラスと義信さんに挟まれてる。 「そうかも。見えるかもしれない」  一歩でも下がれば義信さんにぶつかる。ぶつかって、そして、その背中に触れる。義信さんの、硬いのが。 「あっ……ダメ」  首筋にキスをされながら気持ち良さそうに仰反る姿が。背後で硬くなった興奮を押し付けられて、頬を赤くしたところが。 「あっン」 「でも、雨であんまりよく見えないんじゃないかな」 「あっ」  すごい。  ど、しよ。 「ん」 「ほら、雨でどのビルのガラスもびしょ濡れだから」  ドキドキする。 「あ……ふ……ぁっ」 「汰由」  興奮する。  腰を掴かまれて、剥き出しになった太腿の内側を背後から手で撫でられて。 「ね? よく見えない」  見られてるかもしれない。 「あ、待っ」 「見て」 「っ……ん」  窓際に手をついて、外を眺めるように促されて、手をガラス窓に押し付けながら重なった。  入っちゃう。  うなじにキスされるの気持ちいいって、さっきバックでした時思った。 「あン」 「ほら、向こうにビルがある。オフィスビルかな。どう?」 「あ、わかんな……」  入れて欲しい。 「汰由」 「あ、あ、あっ、待っ」  このまま。  ここで立ったまま。 「あ……義信、さんっ」  手を掴まれて、そのまま頭上に持っていかれる。 「見えっ、」 「汰由」  結んでもらった紐が義信さんの手でまた解かれて、今度はそのバスローブの腰紐で手を。 「あ、あ、あ」  手をこのまま縛られながら、されたい。  挿れて欲しい。早く。 「あぁっ……ン、や、ぁ」 「汰由」  奥まで。 「あ、あ、あ、ダメ、気持ち、ぃ」 「ちゃんと、見て。見られてないか、ほら」 「あ、あ、あっ」 「汰由?」  気持ち、ぃ。 「あっ……ン」  束ねた手首はそのまま。 「あぁっ」  さっきまで繋がっていた身体をまた開いて。 「や、あ……ぁ、あ」  綺麗に流したはずの熱をまた捻じ込まれて。 「ぁっ義信、さんっ」  甘く喘ぐ。 「あ、あ、あ、あ……義信さんっ」  奥まで捩じ込まれたい。 「もっと、してっ、俺のことっ」  もっと、ひどく。 「義信さんの、欲しい、ぃ」  いやらしいことがしたい 「あぁぁっ」  手首を縛られたまま、激しく背後から責め立てられたい。 「あ、あ、あ、イクっ、イッちゃうっ」  欲求のままに暴いて、ねじ込まれて、貫れて。窓ガラスが俺の甘い喘ぎと吐息で曇っていくのも構わず、何度も。 「あっ、あ、あああああっ」  雨に晒されるガラス窓に熱を放ってもやめないで。  ずっとずっとしてみたかった。ずっと、こんなふうにされてみたかった。どんなに気持ちいいんだろうって。  初めてこんな部屋で一夜を過ごす。初めてこんな夜景を見た。初めて、セックスできた。  最低な夜になるはずだった。でも――。 「汰由」  最高の夜になった。

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