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第30話 妄想行為

 義信さんのおうちのバスルームに自分の甘い声が響くのにも興奮する。  この人にこれからしてもらえることを想像するだけで、あの夜にだけ味わえた快感を真似て何度も指で、オモチャで撫でていた奥がぎゅってする。 「汰由」 「あぁ、ン」  抱きつくと、ちゃんと抱きしめてくれる。シャワーのお湯が肌に跳ねて、義信さんの前髪を濡らしてしまう。その濡れた姿に目眩がしちゃうから、しっかりと抱きつくと、背中を撫でてくれた。 「あっ」  背中を撫でてくれる手がそのまま下へと滑って、お尻の間をするりと割り入ってから、孔に。 「あっ!」  ゾクゾクする。 「柔らかい」 「あっ」 「一人でしてたの?」  小さく、でも頷いた。  オモチャで何度も真似をしたって。  でも、オモチャは義信さんのみたいに熱くないから、切なくなった。  指でもしたの。  でも、指は貴方のほど奥まで届かなくて。  悪戯に貴方のことが欲しくなるだけだった。 「可愛いな。汰由」 「あ、あ、あ、あ」  物足りなかった。指じゃなくて、オモチャじゃなくて、義信さんのが欲しくてたまらなかった。 「オモチャ、気持ち良かった?」 「あぁっ、あ」  長い指が俺の中を撫でて、二本の指が孔を広げちゃうの、たまらない。  興奮しておかしくなりそう。ここが今からいっぱいに広げられるんだよって教えてもらってるみたい。 「指は? 何本でしたの?」 「三本、でも」 「ここ、撫でられなくて物足りなかった?」 「あ、あぁン、そこっ」  柔くほぐれたら、そこもたくさん擦ってもらえる。  熱くて、硬くて。 「あ、あ、あ」 「腰、揺れてる」 「あぁンっ」  太くて、逞しい。 「あ、あ」  早く、早く、して欲しい。 「あっ……ン、義信、さんっ」  早く、欲しい。 「汰由」 「あ、ンっ」  首筋にきつくキスをされて、戸惑うことなくその首にしがみついた。 「あ、義信さん」  お願い。 「好、き」  口にも、キスして。 「ン……ン、ふっ……ん、ぁ」  お願い。キスも、して。 「汰、」 「んんんっ、ン、ふっ、あふ……ン」  自分から舌を差し出して、絡みついてく。身体も密着させて、義信さんよりもずっと細い腕を絡ませて、薄っぺらいお腹で義信さんの硬いのを擦り上げて、欲しがりな子どもみたいに腕の中で、ジタバタって。  おねだりした。  貴方が早く挿れたくなるように。 「気持ち、ぃ」  好きな人と、キスをした。 「あ……」 「汰由」 「ここ、したい、です」  抱き締めてくれる腕からするりとすり抜けて、その足元にひざまづく。 「……汰由」  あとでこれでたくさん俺の中を掻き混ぜて、たくさん可愛がってもらえるように。 「義信さんのこと、気持ち良くしたい」  貴方のこれにたくさんしゃぶりつきたい」 「ぁ……む……」 「っ、汰由」  とても大きくて太くて、全部なんて到底口の中に入りきらない逞しい熱に手を添えて、先から咥えてしゃぶりつく。 「汰由」  咥えたままチラリと見上げると、きゅっと眉根を寄せて、義信さんが表情を歪めてくれる。お店にいる優しい笑顔じゃなくて、俺と話してくれる時の楽しそうに笑った顔でもない。  きっとこんな義信さんは友達や知り合いは知らない、でしょう?  恋人、だけしか見られない、でしょ? 「ン、く……んむ……ぁ」  もっと俺の舌に夢中になって欲しくて、たくさんたくさん唾液を絡ませて、硬い熱の塊にしゃぶりつく。舌で先端を撫でてから、唇でくびれのところを何度も絞るように擦って。 「汰由」  気持ちいいですか? 「っ」  ここ、好き? 「は、ぁ」  ここもキスしたら、気持ちいい?  根本のところ。  好き? 「汰由」  掌で先端を包むようにしながら、唾液で濡れたそれをクチュクチュはしたない音を立てて、握りしめる。名前を呼んでくれたから、彼へと視線を向けながら、濡れると柔らかくなって少し波うつ自分の前髪が義信さんのペニスに触れるのも構わず頬擦りをした。  それから、ちゅうぅって音を立てて、膨らんでる根元の袋にキスをして。  ぎゅっと力んだ根本にもキスをして。それから裏側の筋を唇で吸いつつ――。 「上手だ」  ホント?  嬉しい。 「あの夜よりもずっと上手で、嫉妬しそうだ」 「?」 「誰かに教わったのかって」  あの夜、初めて口で奉仕したの、すぐにバレちゃって恥ずかしかった。あの日、以来だよ?  でも、あの日した行為を何度も何度も思い出してたから、ちゃんと覚えてるの。 「たくさん、妄想したから」  初めてだったけれど。あの晩のことを何度も何度も思い出して、貴方に何度も妄想の中で抱いてもらって。 「義信さんとするの」  あの時、くびれのところを唇で丁寧に扱いたら、ちょっと口の中で大きくなったのも。  先端を舌先でチロチロ舐めると、義信さんの呼吸が少しだけ荒くなったのだって。  覚えてる。  それを思い出しながら。 「義信さんしか知らないから」  貴方好みの仕方しか知らない。  たくさんした。  俺の妄想の中で、あの晩にはしなかった体位でもたくさん。後ろから乱暴なくらいに激しく突かれて、奥深くまで捻じ込める体位でイかされながらキスもした。 「……義信さん」  俺ね。 「あ……ン、む……俺の舌、気持ち、ぃ?」  貴方のこと、頭の中で何度も、犯したの。 「あぁ、すごく」 「嬉し……」 「汰由」  何度もやらしいことを、したの。 「ベッドに行こう」  貴方に妄想の中で抱いてもらった。 「……ぅ、ん」  でも、あんまりキスは妄想しなかった。想像できなかった。だって、あの日はしなかったから、だからどんなものなのかわからなかった。どんな感触で、どのくらい気持ちいいのか。 「義信さん、これ、いる、でしょ?」 「……あぁ、そう。バスタオル敷かないとだね」 「ん」 「君は気持ち良くなるのがとても上手だから」 「うん……義信、さん」  キスは妄想できなかった。 「汰由」 「ン……」  今日までキスの味は知らなかったから。

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