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第33話 王子様のキス
――夢みたいだ。
「……」
――汰由。
そう、言ってもらっちゃった。
「……そんなの」
俺のほうこそ夢みたいだ。
義信さんが、俺の。
「……」
恋人、だなんて。
そっと、じっと、見つめてた。
泊まらせてもらっちゃった。
また、晶に協力してもらって、今度はレポートを二人でやることにした。
いつも通り、アルバイトに行って、そのまま晶のうちでレポートをやるってことにさせてもらって。レポートに関しては、実際は、アルバイトをしちゃダメって言われないようにって、どのレポートも一番乗りくらいのスピードで提出しているから、徹夜とかする必要はないんだ。
泊まっ…………ちゃった。
義信さんのおうちに。
すごいよね。
ねぇ、すごいことだよ。
俺、今、義信さんの部屋にいて義信さんのベッドで一緒に眠らせてもらってるんだ。俺の部屋のベッドよりもずっと大きいサイズのベッドで、義信さんの腕枕で。
腕枕もそう言えば人生初だ。
痛く、ないのかな。
ずっとじってしていて身体痛くないのかな。
起きたら、マッサージしてあげようかな。
義信さんの寝息が聞こえる。
穏やかな人だと寝息も穏やかになるの?
気持ち良さそう。
「汰、由……?」
「!」
起こしちゃった?
慌ててキュッ唇を結んで、起きてしまいそうな義信さんの睡眠の邪魔にならないように静かに、その様子を見守っていた。
「……おはよう」
あ、起こしちゃった。
「お、はようございます」
わ。
「汰由だ」
わ、ぁ。
「はい」
返事をするとふわりと微笑んで、寝ていたからか柔らかな体温が染み込んでいる指先で俺の頬を撫でてくれた。
「もう起きたの? 早起きだね」
「はい。寝顔、見て、ました」
「楽しい?」
「はい」
少し寝ぼけてる?
クスクスと笑いながら、その口元だけ枕に埋めて、うっすらと目を開けた。そして、俺のことを見つめて、そっと手を伸ばす。
「大学、行かないと、だね」
休んじゃおうかな、なんて。
初めて思った。
「でも、義信さんのおうちからなら、いつもより遅く出て大丈夫なんです」
「あぁ、そうだね」
だって、こんなふわふわと寝ぼけてるの、見ていたい。
「朝、苦手なんですか?」
「んー……」
あ、また寝ちゃいそう。でも、今、六時前だから、全然寝ていても大丈夫なんだよね。オープンは十一時でしょ? それに昨日は雨でお客さんあんまり来なかったから、品出しも在庫の管理も全部、昨日のうちに出来ちゃったし。だから、今日は朝の掃除くらいで、あとは特にやらないといけないことってないはず。それならオープン前、開店のための最低限の準備だけで事足りるだろうから。
「んー……起きよう」
「でも、まだ六時」
「王子様がキスしてくれたら起きられる」
「王子? 様?」
「汰由のことだよ」
俺が?
「お姫様っていうと女性だろう? 僕はただ汰由が抱きたいだけで、女性みたいに扱いたいわけじゃない。かと言っても王様っていうと……汰由は、うーん……」
あ、また寝ちゃいそう。
「だから汰由は王子様」
なるほど。
数秒でも沈黙が続けば眠ってしまいそうな義信さんが枕に口付けている唇の端でだけ僅かに笑っていた。
「王子……」
あ、今の。
「王様……」
セクシー。
声が最後の方掠れてた。ちょっと、きた。
「……」
そして、そっと、こめかみにキスしてから、その懐に潜り込むようにい中へと忍び込んで、そのままこっちへ顔を向けてくれた「王様」にキスをした。
昨日たくさんしてもらって覚えたばかりの甘いキス。達した後、抜く時にしてくれる優しく唇を啄むキス。
「起きてください。王様」
もう一回、今度は少しだけ唇を濡らすキスをして。
「やっぱり汰由は物覚えが早いね」
そうですか?
ちゃんとできてる?
昨日何度もしてもらったキスを。
昨日、何度も、このキスをしてもらうと欲情しちゃったキスを。気持ち良くて、心地よくて、もっとたくさんしていたくなるキス。
「上手だ」
「ホント?」
「あぁ」
俺のことを引き寄せる腕の力はもう寝ぼけている時のと違って、ゾクゾクしちゃうくらい力強い。
「でも、あまり朝にしちゃダメだよ」
「そうなの?」
あ、嬉しい。
「そう。汰由は大学があるのに」
「ぅ……ン」
「抱きたくなる」
「あっ、ン」
首筋にキスをもらった。
朝だから? 触れてもらえた義信さんの唇がとても熱くて、そして柔らかくて。
「一回だけなら、ダメですか?」
手を伸ばして、腰の辺りに当たっていた義信さんの元気なそれに触れた。
「欲し、ぃ……義信さん、あっ」
布団の中、ルームウエアの下を引っ張り下げて、ブルンって飛び出したそれを両手でぎゅっと握った。握って、扱いて。義信さんの方を見つめる。
「あぁッ……あっ」
指が孔を撫でてくれる。撫でて、中を。
「柔らかい」
「う、ン、だからこのまま、あ、あぁぁっ!」
ね? ほら。だって、指に美味しそうにしゃぶりついちゃう。そして、ベッドの中、身体が密着して、大きな手に掴まれたと思った瞬間、ヌプププって、挿入してくる快感に身体が朝から震えた。
「汰由」
「あ、あ、あ、気持ち、ぃ」
「汰由の中もすごく」
熱くて、気持ちイイ?
「あ、アン……あ、ン、あぁ……ン」
夢、みたい。
「あ、そこ」
「ここ、汰由は好きだね。昨日も何度もねだってた」
「好き、だから」
この人が俺の恋人だなんて。
義信さんが俺のもの、だなんて。
「もっと、突いてください」
夢みたい。
俺が、義信さんのものだなんて。
「あ、ン、義信さんっ」
夢みたいだけど、でも、夢じゃない。
「好きっ」
熱くてたまらないから、これは、夢じゃない。
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