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第38話 悪い子

 タイ料理なんてあんまり食べたことないけど、美味しかった。  義信さんはなんでも知っていてすごいって言ったら笑ってくれて。なんでも知ってるわけじゃないよって。  一つ一つの仕草にドキドキしながら、ワインが一番似合いそうな彼がビールを飲んでるところさえ、貴重なワンシーンだーって思いながら眺めて。  お腹いっぱいになったら、夜道を歩きながら、誘ってくれた。  ――寄っていく?  そう、誘ってもらって、少しも迷うことなく頷いちゃった。  期待、してたから。  今日はバイト終わってすぐに帰らなくても大丈夫な日だから、きっと、って。ご飯の間も期待してたんだ。  お母さんが、明日夜勤だからねって、言った時、俺、ちゃんと興味なさそうに、良い子の返事できてたかな。  本当は「やった」って思ってたの、顔に出てなかったかな。  お母さんが夜勤の時は、帰りとか気にしなくていいから。  義信さんと一緒にいられるから。  内心喜んじゃってたの、顔に出さずに。 「あ、すみません。まだ、シャワー浴びてると思ったんです」 「……」  バスルームの洗面所を開けると、ちょうどシャワーを浴び終えたばかりで、濡れた肌を拭いていた義信さんがいた。  髪からポタポタ、雫を落としながら、突然入ってきた俺に少しだけ目を丸くして、タオルで拭っていた手を止めた。  裸、だ。 「その、髪、もう少しちゃんと乾かした方がいい、かなって」  本当は悪い子なんだ。  お母さんが夜勤なのを喜んじゃったり。 「出ますね、ごめんなさ、」 「汰由」  本当は。 「おいで」 「あっ」  髪を乾かしに来たんじゃない。  本当は、義信さんにかまって欲しくて、シャワーを終えた頃を見計らって来たんだ。  ちょっとの時間も惜しくて。  わざと、入ったの。  こんな格好で。  俺よりもずっと背の高い義信さんから借りたTシャツだけ着て。ルームパンツは履かずに。こんな格好で大人の男の人の部屋で、ウロウロしてた。 「ン」  早く、したくて。  本当は。 「……汰由から同じシャンプーの香りがする」 「ン」  悪い子だから。 「んっ」  首筋にキスをしてもらえるとゾクゾクして。  今、すごく、したい。 「あ、ン」  洗面所の台のところに手をついて、背後にいる義信さんに擦り寄るように腰をくねらせた。 「ンっ」  義信さんのそれに、身体で触れて。興奮してもらえるようにって、密着したまま擦り寄せて。 「汰由」  悪い子でしょ? 「あン」 「下着は?」 「っ」  履いてないよ。 「ン」 「汰由」 「あっ」 「……ローション、塗ったの?」 「ん、さっき、ちょっとだけ」 「やらしい」 「ん、あっ、まだ、奥、は」 「……待ってて」  ここで? 「……」  ふわふわと欲情にのぼせながら、洗面所の流しにしがみつくように手をついていた。  義信さんは俺の後頭部、同じシャンプーの香りがするって言ってくれた髪にキスをして、バスタオルを腰にだけ巻きつけると、そのまま洗面所を出て。 「ぁ……義信、さん」  ローションを持って戻ってきてくれた。 「甥っ子の佳祐はね」 「は、ぃ」  背後にもう一度立って、Tシャツを着ている俺の肩にキスをしてくれた。 「仕事柄、堅物でね」  そのまま真後ろに立って、覆い被さるようにしながら、突然、圭佑さんのことを話し出した。 「人見知りもあるとは思うけど、誰にでも、もちろんいとこにも敬語で。気兼ねなく話せる親戚は数少ない。そんなだから、自分の親のことを僕に話す時も、母、とかしこまって話すくらい」 「……ぁ、の」 「その佳祐が君に義君って言ったの、よっぽどなんだ」 「?」 「佳祐には恋人がいるからね」 「? あの」 「年は僕より汰由に近いけど、仕事も忙しいし、あと本当に堅物だから。少し天然なところもあるし」 「あ、あの、えっと」 「ヤキモチ」 「……」 「佳祐が君に懐くことに」  鏡越しに、思わず、義信さんのことじっと見つめちゃった。 「もちろん、君の幼なじみの晶、君? にも妬いてるよ。それから、他にも君と同じ大学に通っている大学生にも。あと」  ね、あの。 「この間、君にカフェまでの道を聞いてきた雑誌記者にも」 「あ、義信、さんっ……」 「ひとまわりも年下の汰由にぞっこんなんだ」  指がローションを纏って、背後でクチュリと音を立てる。 「あぁ……ン」  そして、ゆっくり中に入ってきて。 「あ、あ、あ、あぁ、ン」  気持ちいぃ。 「だから、あまり誘惑しないように」 「あ、あっ、だめ、そこ、撫でちゃ」 「余裕のある大人のふりができなくなるから」 「あ、あ、イッちゃう」 「見せて。汰由」  見せる、の? 身体を? それとも指でイッちゃうくらい、義信さんに抱かれたくて仕方のない俺のとろけた顔を? 「あ、あ、あ、だめ、ダメ、そこ、気持ち、い、あっ」  自分の手でお尻の肉を掴んで、広げた。  ちゃんと見えるように。 「やぁっ……」  指で可愛がられたくて、腰をくねらせ、背中を反らせながら、バランスを崩しそうになって、鏡に手をついた。それから、前のめりになって鏡に向かって、気持ちいいって囁いた。  鏡越しにちゃんと見えるように。  前のめりの体勢で、指にクチュクチュって前戯で可愛がられながら、鏡のすぐそこで喘いで。  貴方の指で喘いでいるってわかってもらえるように。  どちらも見せて。 「汰由」 「あ、あ、イク、イク、イッ……」  自分から指に擦り付けて、ちゃんと、「見せながら」達した。

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