38 / 91
第38話 悪い子
タイ料理なんてあんまり食べたことないけど、美味しかった。
義信さんはなんでも知っていてすごいって言ったら笑ってくれて。なんでも知ってるわけじゃないよって。
一つ一つの仕草にドキドキしながら、ワインが一番似合いそうな彼がビールを飲んでるところさえ、貴重なワンシーンだーって思いながら眺めて。
お腹いっぱいになったら、夜道を歩きながら、誘ってくれた。
――寄っていく?
そう、誘ってもらって、少しも迷うことなく頷いちゃった。
期待、してたから。
今日はバイト終わってすぐに帰らなくても大丈夫な日だから、きっと、って。ご飯の間も期待してたんだ。
お母さんが、明日夜勤だからねって、言った時、俺、ちゃんと興味なさそうに、良い子の返事できてたかな。
本当は「やった」って思ってたの、顔に出てなかったかな。
お母さんが夜勤の時は、帰りとか気にしなくていいから。
義信さんと一緒にいられるから。
内心喜んじゃってたの、顔に出さずに。
「あ、すみません。まだ、シャワー浴びてると思ったんです」
「……」
バスルームの洗面所を開けると、ちょうどシャワーを浴び終えたばかりで、濡れた肌を拭いていた義信さんがいた。
髪からポタポタ、雫を落としながら、突然入ってきた俺に少しだけ目を丸くして、タオルで拭っていた手を止めた。
裸、だ。
「その、髪、もう少しちゃんと乾かした方がいい、かなって」
本当は悪い子なんだ。
お母さんが夜勤なのを喜んじゃったり。
「出ますね、ごめんなさ、」
「汰由」
本当は。
「おいで」
「あっ」
髪を乾かしに来たんじゃない。
本当は、義信さんにかまって欲しくて、シャワーを終えた頃を見計らって来たんだ。
ちょっとの時間も惜しくて。
わざと、入ったの。
こんな格好で。
俺よりもずっと背の高い義信さんから借りたTシャツだけ着て。ルームパンツは履かずに。こんな格好で大人の男の人の部屋で、ウロウロしてた。
「ン」
早く、したくて。
本当は。
「……汰由から同じシャンプーの香りがする」
「ン」
悪い子だから。
「んっ」
首筋にキスをしてもらえるとゾクゾクして。
今、すごく、したい。
「あ、ン」
洗面所の台のところに手をついて、背後にいる義信さんに擦り寄るように腰をくねらせた。
「ンっ」
義信さんのそれに、身体で触れて。興奮してもらえるようにって、密着したまま擦り寄せて。
「汰由」
悪い子でしょ?
「あン」
「下着は?」
「っ」
履いてないよ。
「ン」
「汰由」
「あっ」
「……ローション、塗ったの?」
「ん、さっき、ちょっとだけ」
「やらしい」
「ん、あっ、まだ、奥、は」
「……待ってて」
ここで?
「……」
ふわふわと欲情にのぼせながら、洗面所の流しにしがみつくように手をついていた。
義信さんは俺の後頭部、同じシャンプーの香りがするって言ってくれた髪にキスをして、バスタオルを腰にだけ巻きつけると、そのまま洗面所を出て。
「ぁ……義信、さん」
ローションを持って戻ってきてくれた。
「甥っ子の佳祐はね」
「は、ぃ」
背後にもう一度立って、Tシャツを着ている俺の肩にキスをしてくれた。
「仕事柄、堅物でね」
そのまま真後ろに立って、覆い被さるようにしながら、突然、圭佑さんのことを話し出した。
「人見知りもあるとは思うけど、誰にでも、もちろんいとこにも敬語で。気兼ねなく話せる親戚は数少ない。そんなだから、自分の親のことを僕に話す時も、母、とかしこまって話すくらい」
「……ぁ、の」
「その佳祐が君に義君って言ったの、よっぽどなんだ」
「?」
「佳祐には恋人がいるからね」
「? あの」
「年は僕より汰由に近いけど、仕事も忙しいし、あと本当に堅物だから。少し天然なところもあるし」
「あ、あの、えっと」
「ヤキモチ」
「……」
「佳祐が君に懐くことに」
鏡越しに、思わず、義信さんのことじっと見つめちゃった。
「もちろん、君の幼なじみの晶、君? にも妬いてるよ。それから、他にも君と同じ大学に通っている大学生にも。あと」
ね、あの。
「この間、君にカフェまでの道を聞いてきた雑誌記者にも」
「あ、義信、さんっ……」
「ひとまわりも年下の汰由にぞっこんなんだ」
指がローションを纏って、背後でクチュリと音を立てる。
「あぁ……ン」
そして、ゆっくり中に入ってきて。
「あ、あ、あ、あぁ、ン」
気持ちいぃ。
「だから、あまり誘惑しないように」
「あ、あっ、だめ、そこ、撫でちゃ」
「余裕のある大人のふりができなくなるから」
「あ、あ、イッちゃう」
「見せて。汰由」
見せる、の? 身体を? それとも指でイッちゃうくらい、義信さんに抱かれたくて仕方のない俺のとろけた顔を?
「あ、あ、あ、だめ、ダメ、そこ、気持ち、い、あっ」
自分の手でお尻の肉を掴んで、広げた。
ちゃんと見えるように。
「やぁっ……」
指で可愛がられたくて、腰をくねらせ、背中を反らせながら、バランスを崩しそうになって、鏡に手をついた。それから、前のめりになって鏡に向かって、気持ちいいって囁いた。
鏡越しにちゃんと見えるように。
前のめりの体勢で、指にクチュクチュって前戯で可愛がられながら、鏡のすぐそこで喘いで。
貴方の指で喘いでいるってわかってもらえるように。
どちらも見せて。
「汰由」
「あ、あ、イク、イク、イッ……」
自分から指に擦り付けて、ちゃんと、「見せながら」達した。
ともだちにシェアしよう!