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第46話 人気者
――こんにちは。この間はバタバタと帰っちゃってごめんね。今度ゆっくりお話ししようね。
「わ……」
思わず、声、出ちゃった。
だって、聡衣さんからメッセージもらえちゃってたから。全然気が付かなかった。朝、俺が学校に行ってる間にくれたのかな。わ、もぉ、こまめにスマホ確認とかしないからこういうことが起きちゃうんだよ。
義信さんもあんまりスマホって見てなくて。とても忙しい人なのに、きっと俺と会ってる間は音信不通、ハンパないんじゃないかな。
俺は、その点、連絡してくる人なんて、晶くらいだから、別にいいんだけど。
聡衣さんから頂いたせっかくのメッセージをずっと知らんぷりしちゃってた。
四つ、講義を終えて、お昼になったからとカバンの中にテキストをしまいながら、ようやくここで気がつくなんて。
大急ぎで返事を。
えっと。
今度ゆっくりってことは、じゃあ、またこっちに来るのかな。
バタバタって、そう、土曜日の夜には帰っちゃったんだって。彼氏さんが迎えに来てくれて。
彼氏さんのこととか、色々、話したかった。
彼氏さんがすごい忙しいお仕事で、休みが合わないって言ってたし。そういうところ、俺と義信さんのシチュエーションにも重なるっていうか。
もうプライベートなこと、初対面で訊いちゃったくらいだから、開き直っちゃって、いろんなこと、もっと訊きたかったなぁ。
もっと一緒にいたいとかワガママ、たまに、ごくごくたまになら言ってもいいのかな、とか。
歳、彼氏さんとは同じ歳なんだっけ。でも、前になら歳の離れた人と付き合ったことあるかもしれないし。年齢差って、どうなんだろう。なんか問題になるところとか、あるなら知りたいし。
幼く思われないようにするには、とか。
あとは――。
「! じゃなくてっ、返事!」
そう返事をしないとじゃん。色々考え初めて、手が止まっていた。
既読になってるのに返事しないとか、それこそ失礼でしょ。
えっと、こちらこそ、急に、質問をしてしまってすみません、そうその場で返事を打っていた。
「あのぉ……、知咲、くん」
もう講義が終わって、ほとんど講義室には人がいなくなっていた。
みんな、昼食を食べに行ってしまっているはず。
けれど、女子が二人、そこに立っていた。
「知咲くんって、何かサークルとか入ってるっけ?」
「……え? あ、いえ……入って、ない、けど」
「あ、そっか」
「あ、あの、もしよかったらうちのサークル入らないかなって。英会話、なんだけど」
「……え?」
「あ、急で、ごめんねっ、何もしてないって訊いて、どうかなって。人脈作るのにいいと思うんだ。他の大学との交流会とかもあるし。就職にも役立つようにって、活動してて」
サークルは強制じゃないはず。
それに今までそんなの誘われたことなかったのに。なんで急に。
「あの、ごめんなさい。俺、アルバイトしてるから無理、です」
「あ、そうなんだっ。そっか。ごめんね急にっ」
ぺこりと頭を下げるとその女子二人はそそくさと講義室を出ていった。
びっくりした。
そんなの誘われたこと、なかったから。
「あー、ごめん。俺が言っちゃったんだよ。汰由、サークル入ってないよって」
「晶」
「ごめんごめんって、唐揚げあげるから許して」
「大丈夫」
「じゃあ、ミニトマト」
「大丈夫!」
晶がはははって笑ってから、苦手なミニトマトを渋い顔をしながら口の中に放り込んだ。
「まぁ、汰由狙いで誘ったんだろうなぁ」
「……?」
俺、狙いって?
何が?
俺、狙われてる、の?
「いや、そうじゃなくて。汰由が気になるんでしょ。そもそも顔綺麗だし」
「は、はぁ? そんなわけないよ」
「はいはい。でもさ、彼女できて、やっぱ雰囲気変わったっていうか、柔らかくなった感じはあるもん。モテ期到来、なんじゃん?」
「……」
そんなの、いらないけれど。
「けっこういると思うよ?」
「……」
「汰由のこと」
そういって晶は俺の方をじっと見つめた。
「メガネ、最近してないし。垢抜け感ハンパないんだよ。服装も違う時けっこうあるでしょ?」
それは、メガネ、元々なくてもよかったから。服は、最近、アルコイリスで買ったのをよく着るようになったから。
その全部は、ただ――。
「まぁ、彼女いるって分かれば大概は諦めるでしょ」
ただ、義信さんに少しでも可愛いって気に入ってもらいたいからなだけ。
「っていうか、この間のレポートもう終わったの?」
「あ! まだ、だった」
「珍しい」
「うんっ、あの、週末出掛けてて。やる! ありがと!」
「頑張れー」
忘れてた。そうひとつ、課題が終わってなかったんだ。デートのことでちょっと手が止まってしまって。だから、昼休みのうちにやらないといけなくて。
俺は大慌てで昼食のうどんを食べ終えて、資料室へと駆け出した。
そう、走るのにもちょうどいいんだよね。メガネ、してないとさ。大学終わったらすぐにアルコイリスに行くから、だから、最近はメガネをバイト中以外でも欠けなくなっていて。
そのままメガネなしで、課題を片付けようと急いで走っていった。
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