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第52話 変化

「ねー、汰由、この前出された課題さぁ」 「? うん」  この前のお家デート楽しかったなぁ。 「あぁ、それか。それ、けっこう簡単なんだよ。着眼点をさ……」  また来週もできないかな。来週の水曜ってお母さん夜勤だったかな。シフトの計算すると夜勤の可能性大だけど。オペとか入ると急遽変わるもんね。あらかじめ約束とかしちゃってやっぱりお泊まりはできません、なんてなったら義信さんに迷惑だよね。  そういっつも独り占めしていいわけないし。  って、そもそも来週の定休日もおうちデートしてもらえるかもわからないのに。  期待しすぎだから、俺。  でも、またねって言ってもらえたし。  それにエッ…………チの後、シャワー浴びながら、またしたくなっちゃったくらいだし。でもしてもらえなかった。バスルームじゃ、声響いちゃうし。それに、俺のこと大事にしてくれるから。  だからお風呂の中ではお互いの手で、お互いのを。  ――汰由っ。  その時はセックスの代わりにたくさんキスをしてくれた。  俺、すごく好き。  義信さんのくれるキスが。 「で、ここをこうしてさ……」  今日はデートできないけど、キスだけでもしたいなぁ。  おねだりとかしてみたり?  なんて。 「そしたら、解けるよ」 「汰由さ」 「?」 「なんか、変わったね」  びっくりした。  晶がじっと俺の方を見つめながら、そんなことをポツリと言ったから。 「な、何? 急に」 「最近、人気急上昇だし」 「は、はい?」 「女子がさ、よく訊いてくるんだよね。知咲君って彼女いるのかな、とか」 「は、はぁ?」 「まぁ、たしかに、なんか雰囲気違うし。表情かな。特に一番違うのは」 「はい?」  何それ。 「とりあえず、人気すごいよ?」  そんなの。 「えっと、それで、なんだっけ? これの」  知らないし。 「へぇ、雰囲気が変わったって言われたの?」 「はい」  大学が終わっていつもどおりにアルコイリスに言って、いつもどおりにバイトしてた。 「……おかしいな」 「? 義信さん?」  どうか、したのかな 「どこかにつけちゃったかな」 「?」  何を? 「一応気をつけてはいるんだけどな」  だから、あの何を、ですか? 「キスマーク」 「!」 「もしもご両親に見られたりしたら大変だし、大学の友だちにもからかわれるだろうからって、普段は気をつけてるんだけど」  キス、マークって。 「昨日の汰由は特別やらしかったから、少し興奮しすぎて、無意識につけてしまったかなって」  キスマークって。 「あはは、本当にギャップがすごい。いつもは本当に真面目なのに」  義信さんはあんまりしない、声に出して笑いながら、気がついたら、一つ棚に洋服をいっぱいに並べ終わっていた。 「だ、だって」  キスマークなんていうんだもの。そんなの本当につくの? キスしただけで肌に。  痛いのかな  でも、それって、つまりは義信さんの唇が触れたってことでしょう? その場所に触れて、意識的に口付けなければ付かないものでしょう?  なんだかそれは印みたい。  俺は貴方の、っていう目印みたいで。 「そんな顔しないように」 「!」  いいな。  欲しいな。  そう思っていたのが顔に出てた? 「君が僕のもの、って印、つけたくて仕方ないのを我慢してるんだから」  普段の義信さんは柔らかくて余裕たっぷりの大人の男。包容力なんて、きっと俺にはこれっぽっちもないけど、あったとして、その何百倍も備わってる感じ。  そんな人が、行為の最中は全然違った顔をしてくれる。  貴方にいつもたくさん揺さぶられて。  甘やかされて可愛がられて。  とろけるくらいにいじめてくれる。  たくさんしてもらえるなら、どんなやらしい格好だって、卑猥な言葉だって言えちゃいそうなくらい。  でもそんな義信さんが見られるのは行為の最中だけ。  だからそれは特別な義信さん。  それが見られると嬉しくてたまらないくらいなのに。  俺は、貴方のものでいたくてたまらないのに。 「大人をいじめないように」  そういって優しく笑ってくれる貴方に今日はしてもらえないなんて、イヤって。 「いじめ、ます」  我慢が、きかなくなっちゃうよ。 「ちょっとでいいから、つけて」  我慢、できなくなっちゃうよって、指先で貴方に触れた。 「欲しい、です」  どうかできるだけ、貴方の理性を崩して、貴方のあの時にしか見えない顔を見せてと願うように、できるだけ、やらしい声で。  義信さんって、甘えて、啼いた。  ――少し強く吸うんだよ。  そう教えてくれた。  ちょっとだけ、ちくってした。でも、痛いっていうより快感だった。  ――数日で消えるよ。薄くつけたし。  数日で消えちゃうなんてもったいないって思った。  ――ちゃんと車で送る。  そう言いながら、奥。  ――ああぁぁぁっ!  突かれたの、気持ち良かった。そのひと突きで、イクくらい。  ――ごめんね。少し、クセになったかも。身体が、スイッチを覚えた。  イッちゃう身体に。  義信さんので貫かれるとイッちゃう身体に。  お店のお片付けを早々に切り上げて、義信さんのおうちで一度だけ、して、シャワーを浴びて、車で送ってもらった。  また、すごく俺が頑張って早くにお店の閉店作業こなせたら、また今日みたいに一回だけでもしてもらえないかなって、思ったんだよね。そう変わらないでしょ?  いつもの帰宅時間とそう大差ないもの。  それなら、また、してもらえないかな。  誘惑、したいな。  なんて思った。 「……ただいま」  思いながら帰宅した。 「おかえりなさい。汰由」  玄関でいつも通りそう挨拶した俺は。 「ちょっと、話があるの」  まだ、呑気にそんなことを思ってた。

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