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第60話 甘々

 二人でハンバーグ作っちゃった。ソースは煮込むだけで大丈夫な缶のものにして、野菜をたくさん加えたりして。すごくすごく美味しかった。お酒も少し飲んじゃった。義信さんはワイン、しかもハンバーグだったから赤ワイン。俺は……飲んでみたけど、渋くて、ほっぺたがぎゅってなったから、同じ葡萄のカクテル。甘くてジュースみたいなカクテル。  あんなに渋いなんて思わなかったもん。  ほっぺたがぎゅってなったってわかりやすすぎるくらい顔に出してたみたいで、義信さんが笑ってた。 「よーし、じゃあ、いきますよ!」 「うん」  今は、小さくダイス状にカットされたチーズを食べながら、義信さんはワインを、俺はその甘いジュースみたいなブドウのカクテルでまた乾杯をして、ネクタイの結び方の練習中。  俺はちょっとお行儀が悪いかもしれないけれど、ソファの上に片足を乗せて隣にいる義信さんの方を向きながら座って。義信さんは背もたれに腕を乗せて頬杖をつきながら、俺の方を向いて、片手でワイングラスを持ってる。  ウインザーノットをね、覚えたの。  だから、披露してあげようと思って。 「まず……こうして」  指先が、泡に浸してるみたい。触れるもの全部、指先のところで泡が弾けるような感じがする。  シュワシュワって。 「えっと、ここをこうして」  ちゃんと覚えたの。  俺が恋に落ちた指先を思い出して。とても素敵に結んでもらえた大事な大事なあの瞬間を頭の中で何度も再生して。  ―― 失礼、首元、触るよ?  あの指先にもう恋してたなぁって。  ものすごくドキドキした。  ―― 大丈夫。ネクタイを直すだけだから。スーツは普段着ないかな?  なんて素敵な人なんだろうって思った。 「こうして……」  ―― まず、幅の狭い方を短めに取る。  貴方ともう一度したくてたまらなかったっけ。  ―― それから、ここを持ちながら、後ろから前へネクタイを回して。 「それで、ここを」  ―― こっち。この反対側を……後ろから前へ。  けれど、きっと叶わないと思って、佳祐さんのこと、勘違いしちゃったり。聡衣さんがとても綺麗な人だから臆病になってみたり。 「そうだ。佳祐が今度一緒にキャンプ行きませんか? だって」 「え、俺? ですか? わ、嬉しい」 「佳祐の恋人はキャンプ好きなんだ」 「へぇ、なんだか意外です」 「そう、とても意外な相手なんだよ。そもそも恋愛にはかなり奥手だったのが、まさかの……っていう相手でね」 「そうなんですか?」 「あ、ちなみに同性だよ」 「そうなんですね」 「驚かないんだね」  だって、納得できるもの。  へぇってなっただけ。むしろ恋人が女性ってことの方が驚くかもしれない。女の子っぽいわけじゃないけれど。 「佳祐さん、すごく可愛いですもん」 「……」 「えぇ! どうしてそこでそんな難しい顔するんです」 「こどもっぽいって言っただろう? ちなみに、聡衣君はパートナーを家族に紹介するほどだからね」 「知ってます」 「どうして知って」 「ブログ読んでますもん」 「そうなの? ほら、汰由、続き」 「はーい」  可愛いヤキモチ焼いてもらえちゃった、のかな。急に話題を切り替えて、ネクタイをって言ってくれるのがなんだか嬉しい。 「えっと、続き……は」  ―― 通した反対側から、今度は外側を覆うように回して。今度は内側から外に通して。  ヤキモチしてもらえるのはすごく嬉しい。でも、ヤキモチは本当に必要ないから。佳祐さんは可愛いけれど。聡衣さんは綺麗だけれど。俺が好きなの、貴方だもの。  だってね、二度目、お店の控え室で教えてもらった時なんて、近いからドキドキしてるって感づかれちゃいそうですごく焦ってた。貴方との距離が近くて、意識しまくり。そんななのによそ見なんてするわけないでしょう?  ―― 回してできた輪の中に幅の太い方を差し込んで。  すぐ近くで聞こえる義信さんの穏やかな声に、内心、大騒ぎの大はしゃぎだった。本当に。 「……出来上がり! ね? できたでしょう?」  大好きなの。 「上手だ。あとは形を整える」 「あ、そうでしたっ」  そっと義信さんの手がネクタイを結んだばかりの俺の首筋に触れた。 「汰由にこの結び方をしてあげただろう?」 「? はい」 「あの時、抱きしめたくて仕方なかった」 「……」  そっと頬を撫でてくれる。  その指先に自分から頬を擦り付けると、そっと、指先が戯れるように頬から頸、耳朶に、瞼、そして……。 「あ……む……ぅ、ん」  唇を撫でてくれたから、パクって咥えて。 「ん、む」  口に含んだ。 「ン」 「汰由」  恋した指先に、舌を巻きつける。  義信さん、ちょっと酔っ払い? 「ん、ン」  舌を撫でてくれる指先が熱い。 「汰由、今、それ二本目?」 「? ン、ぁ、お酒? まだ一本、です」 「そう? 酔っ払ってる? 口の中、熱いよ」  熱いのは貴方の指先だよ。 「ん、ン」  唾液が溢れちゃうくらいに絡みつかせて、しゃぶりついた。 「まるで、汰由の……」  貴方が、指先で興奮してくれないかなって思いながら頬張った。  俺の中を想像して、興奮してくれるようにって、丁寧に舐めてしゃぶった。 「俺は、あの時」  貴方の指先、濡らしちゃった。 「貴方が近くてドキドキしてました」 「近くにいるだけで?」 「うん。すごくすごくドキドキしてた。だって……」  びしょ濡れにした指先にもう一度キスをして、まるで貴方のに舌先を絡めてしゃぶるようにまた唇で咥える。 「義信さんのこと、ずっと好きだったから」 「……」 「上手に、ウインザーノット結べました? たくさん練習したの」 「上手」 「じゃあ」  興奮、してください。 「褒めて欲しい、ご褒美……ベッドで」  たくさん興奮してとねだるように、自分から舐めてしゃぶって濡れた唇で義信さんにキスをした。 「も、シャワー浴びてもいいですか? ベッド、行きたい、です」  赤ワインの香りがするキスは濃厚で熱くて、少し激しくて、少し、クラクラした。

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