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おまけ3 可愛いになっちゃう聡衣さん
聡衣さんの恋人さんは官僚で、佳祐さんの恋人さんも官僚……なんだそうで。
しかもすごいイケメン俳優みたいにかっこよくて背も高くて。その隣に聡衣さんと佳祐さんが並ぶと、もうなんか、すごい、って単語しか出てこない。
お似合いのカップルって感じ。
「でもさ、意外だよねぇ。河野がキャンプとかバーベキューとかさぁ。そういうのめんどくさいとか一番言いそうなのに。虫アウトとかさ。は? なんで、飯を外でいちいち食べるんだ? 必要ないだろ。レストランで焼肉するのとなんら変わらないのに、わざわざ重たい荷物運んでなんて効率悪い、とかさ」
「成徳さんの癒しの時間なんです。あ、聡衣さん、それを使うのではなく、麻の火口をですね」
「朝の樋口? 誰それ」
「ふふふ」
ほんと綺麗な人だなぁ。
そして、本当に可愛い人だ。
「これは! キャンパーにとってとても重要なアイテムなんです! いいですか? これをですね……そんなに出してはいけません! このくらいで十分、ですっ!」
ジャジャーン、って言ってるのが可愛い人。なのに、有名な議員さんの秘書さんしてるすごい人。いつも義信さんのところに来る時はスーツだからかな。今日はカジュアルだからすごい可愛いが増してる。ふわふわした髪の毛柔らかそう。ほっぺたピンク色してる。頭良くて、すごい人なのに気さくで、自慢気なところが一つもないなんて。
「ジャジャーン言うた」
「ジャジャジャーン!」
聡衣さんは義信さんも認めるすごい人。ずっと洋服屋さん一筋で、義信さんよりもスーツとか詳しくて。常連さんもよく聡衣さんにコーディネートしてもらったって。そのコーデでお出かけすると周りの人に素敵って絶対に褒められちゃうのって。センス、いいんだろうな。今日も素敵だもん。髪も綺麗。明るい色なのに派手じゃなくて、たくさん染めてるのかな。それなのにちっともパサパサしてない。それに柔らかいクセのある感じがよく似合ってる。腕、細い。色も白くて。男の人なのに美人って言葉がピッタリだなんて。
「あ、汰由君、おいでおいで。お菓子食べる?」
「え? あ」
「ここのチョコレートめっちゃ美味しいの。向こう戻ったら食べられないからたくさん買ってきたんだ。お一つどうぞ」
「え、あ、でも、俺、今、手」
「はい。あーん」
「!」
ひゃわ。綺麗な聡衣さんに。
「わ、ぁ、あー……ん」
た、食べさせてもらっちゃった。
「!」
そして、すごくすごく美味しい。なにこれ、高そう。いや、絶対に高いチョコレートでしょ。すごい。チョコがちょっと苦い、のに、中のソースが甘くて。わぁ、こんなの食べたことない。
「汰由君可愛いなぁ」
「!」
「義君、デレデレなんですよ」
「!」
「あは、知ってる。国見さんと連絡するじゃん? たまに汰由君の話聞くよー」
え、そうなの? どんな話だろ。俺、全然聡衣さんみたいにセンスあるわけじゃないから、一体。
「あ、僕もよく義君から色々伺ってます」
ひゃ、わぁ……何? なんか、呆れられちゃってない? 大丈夫かな。
そこで佳祐さんの恋人さんの、河野さんが佳祐さんを呼んだ。その声に、実際は生えてなんていないけれど、耳が、犬とかの耳が生えてたらピーンって感じに立てて、シュッと立ち上がると、お手伝いします! って、元気に返事をして駆けていった。
すごい。テキパキお手伝いしてる。
「っぷは、めっちゃ蒲田さんキャンパーだ」
「……聡衣さんは蒲田さんって呼ぶんですね。って、す、すみませんっ」
慌てて謝った。急に変なところから話し始めちゃった。バカ、もっと別のところから話かけるでしょ。フツー。もぉ、こういう時、ホント、人見知りだから。
「お、俺、あの、聡衣さんすごい綺麗な人で、佳祐さんすごく可愛くて、って、可愛いとか俺みたいな子どもが言うのって失礼ですけどっ、だから、その仲良しで、けど、苗字なんだなぁって、って、なんかすみません。めっちゃ見てる人っぽくて、その」
ちょっと怖いよね。話しかけもせずにじっと観察じゃないけど見られててさ。そういう呼び方するんだとか急に言われてさ。
「……あの」
「そ? 全然人観察大事でしょ。この仕事してたら」
「……」
「アパレルって、人を見るの大事だよ? 国見さん、汰由君のこといつも褒めてるよ。本当に助かってるんだって。ほら、国見さん仕事すっごいできる分全部一人でやってたでしょ? 心配してたんだよね。大丈夫ですか? って」
でも、ある日突然、今日からアシスタントにアルバイトの子が入ったから心配しないでと返事が来た。その子のおかげでとても助かっているからと。
「今日はスーツの基礎知識の本を読んでた、とか」
それって、あの時の。
「だから今度、俺が戻るタイミングがあれば教えてあげてって。とても覚えがよくて素直ないい子だからって、もう自慢しまくってたよ」
「!」
「可愛い子なんだって、もうフツーに完全惚気」
「……そんな」
可愛い……くなんてちっとも、なのに。
「……汰由くんは……あー……もしかしたら聞いてるかもしれないけど、俺と……その」
「はい。伺ってます」
「あ、あれだからっ! 全然今の国見さん見たらよくわかるから! 本気っていうか、マジで好きなのは汰由君だけって」
「俺」
―― 今もこれからも大事にしたいって心から思ってるのは汰由だよ。
「俺は聡衣さんみたいに美人じゃないし、佳祐さんみたいに可愛くもないです、けど」
「そんなことっ」
「でも、義信さんが俺のこと、すごく大事にしてくれるから」
「……」
「義信さんに綺麗とか可愛いとか思ってもらえたら、もう……っていうか、そう思ってもらえるようになりたいっていうか、あ、あ、あ、あの、わっ、聡衣さん?」
「……いい」
「聡衣さん? あの、すみません。どこかお腹痛い?」
ぎゅって身体を丸めたから、どこか痛いのかと思った。
「汰由君、すごい可愛い! これ! チョコ全部あげる!」
「え? いや、みなさんと」
「全部食べて! 可愛いから!」
「聡衣さん」
「こら、聡衣」
「ひゃわ!」
「年下にからむな」
「! 旭輝!」
わ。恋人さんだ。
「すまない。汰由君」
「は、はい」
「ちょっと聡衣もらってく」
「あ、はい、どうぞ」
かっこいい。
「ちょ、旭輝」
「俺のこともかまえ」
「は? 何言って」
そして、わ……ぁ。
「何、汰由君の前で言ってんの? あ、あの、あのねえ」
「ほら、俺のことかまって一緒に酒の準備。俺は飲まないけど、聡衣のお気に入り、たんまり冷やして持ってきてやった」
聡衣さんが……かわいい。わぁ、恋人さんの前だと可愛い。
そして、そのまま可愛い聡衣さんが連れ去れて。
「汰由君とまだ話してるんだってばー!」
「いえいえ。俺のことは気にしないでください。いってらっしゃい」
あんなふうに可愛いくなるんだって新発見だって思いながら、手を振った。
「……」
ちょっと、今は一人で落ち着きたいんだ。
「……わ、顔、あつ」
だって、俺、今。
―― 義信さんに綺麗とか可愛いとか思ってもらえたら。
結構大それたこと言っちゃって、顔面、火出ちゃいそうに熱かったから。
「……言っちゃった」
一人じゃないと照れ臭くて蒸発しちゃいそうだったから。
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