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おまけ4 つっけんどんな河野です。

 なんか、すごいこと言っちゃったよね。  俺が、だよ?  綺麗だとか、可愛いだとか、全然そんなじゃないのに。おこがましいっていうか。だってだって、あんな人たちがいる中でそんなこと思うとかさ。  みんな、大人で素敵で。  義信さんの周りの人ってみんな素敵。 「…………」  よくよく考えると、そんな人ばかりが集まっちゃうような義信さんに、俺なにさせちゃってんだよって感じ、だよ。あんな、売……春……みたいなアルバイトしようとしててさ。本当。奇跡としか言いようが。 「あれ? 君」 「あ、えっと、こんにちは」  わ。  佳祐さんの恋人さん、だ。トイレ行ってたんだ。バッタリ出会ってしまった。うー、気まずい。ちょっと怖い感じするし。  慌てて、ぺこりと頭を上げて、トイレに思わず小走りで向かってしまった。  突然、この関係性というか距離感の人に遭遇した時って、会話に困る。まだそこまで人慣れしてないっていうか。人馴れって、まるで猫とか犬みたいだけど、でも元々人見知りだから、突然、微妙に知ってる人とは何を話したらいいのかわかんなくなる。  こういうのもまだまだだなぁ。 「……ふぅ」  トイレを済ませて、手を洗いながら一つ深呼吸をした。  それから、ちらりと鏡の中にいる自分を見つめる。  こういうところで髪整えるのとかもちょっと照れくさいっていうか恥ずかしいっていうか。自意識過剰じゃん? って思われちゃいそうな気がしてさ。だから誰かがトイレに入って来る前にと急いで前髪を指先で摘んだ。一生懸命バーベキューの準備してて気が付かなかったけど、いつの間にかおでこ丸出しになっちゃってた。  いなくなっちゃった前髪をパパって手で整えて。 「!」 「よ」 「!」  トイレを出ると、佳祐さんの恋人さんが、垣根のところに腰を下ろしてた。 「トイレ、一応ね」 「……」 「不審者とか、酔っ払いもいるだろうからさ」  待っててくれた、のかな。 「じゃ、行こっか」 「は、はいっ」  待っててくれたんだ。 「……バーベキュー、呼んじゃって大丈夫だった?」 「あ、はいっ。あの、ありがとうございます」 「どーいたしまして」  この人も官僚、の人、なんだっけ。でも官僚って人たちが何をしてるのかはよくわかってないけど。けど、すごいエリートっていうのはわかる。 「聡衣の後釜、なんだっけ」 「あ、はい」 「そっか」  どうしよう。  何か、話さないと、だよね。えっと、話題何か。 「全く……」  ひぇ。  全くって、言われた。ちょっと溜め息もつかれた。 「久しぶりの休みだったから気合い入れてベーコン作ろうと燻製器まで持ってきたっつうのに。はぁ」  ひぇえ。めちゃくちゃ溜め息だ。 「す、すみませんっ」  だよね。官僚って人がどんな仕事してるのはよくわかってないけど、忙しいのはわかる。聡衣さんもよくブログでそんなことを呟いてた。パートナーさんが仕事の都合でって。もちろん名前も性別も、仕事の内容も話してないけど、俺は知ってるから。官僚って大変なんだなぁって思った。それで久しぶりの休みなのに、俺たちが混ざってたらイヤだよね。まだ聡衣さんとかは何度か一緒に飲んだりしてるって義信さんが教えてくれたし。聡衣さんの恋人さんとはそれこそ同僚なんだから、気が合うでしょ? けど、俺は違うから邪魔だよね。 「あ? なんで君が謝んの。佳祐だよ。佳祐」 「え?」 「バーベキューやろうって言ったら、じゃあ、皆さんも呼びましょう! なんて言ってさ。マジかよ、だよ。燻製食わしたかったのに」 「……」 「でも、まぁ、佳祐が楽しそうだからいいけどさ」  思わず、見つめちゃうくらい優しい笑顔だった。  目を細めて、少し離れたところで賑やかにコンロを囲んでる聡衣さんと聡衣さんの恋人さんと義信さん、それから佳祐さん。そっちの方を見て、これでもかってくらいに優しい笑顔。 「……っぷは、すげぇ佳祐が張り切ってる」  そんなに? ってくらいに楽しそうに笑ってる。 「ま、いーんだ。佳祐が楽しそうだから」 「……」 「めちゃくちゃ楽しみにしてたよ。君とバーベキューするの。佳祐」  こんな顔、するんだ。 「あ、成徳さーん!」  もっと怖い感じの人かと思った。でも、俺がトイレに行ってる間待っててくれた。顔、怖かったけど。優しい人、なんだ 「あ、汰由君も!」 「そろそろ焼き始めますよー!」 「おー」  俺と成徳さん、だっけ、彼を見つけて、佳祐さんがぴょんって跳ねたと思ったら駆け出した。 「あ、こら、走るな。転」  駆け出して、石がゴロゴロ転がっている中で、足を置いたところの石がぐらりと揺れる。揺れて、足元が不安定担って転ぶかと思ったけど。 「ったく」  転ばなかった。 「走るなよ」 「す、すみませんっ」 「来週、大事な仕事があるのに顔面カサブタとかだったら大変だろ」 「は、はいっ、へへ」  佳祐さんってとても可愛い人だと思った。  けど。 「ありがとうございます」  とても綺麗な人なんだって思った。  ほら、パートナーの方の前で照れくさそうに微笑む彼はまるであどけなく咲く淡いピンク色のお花みたいに綺麗で甘やかで。 「恋」がその表情に滲み出てたから。  見惚れるくらいに綺麗だった。

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