71 / 91

おまけ6 愛られオンパレード

 あと、あとね。  今日どうしてもしないといけないっていうか、しておきたいっていうか。あったんだ。二人に、その、聡衣さんと佳祐さんに。 「あ、あのっケンカとかするんですか?」  恋愛相談とか、したかったんだ。  したことないし、できる人いないから。  そもそも付き合ったこと、ないし。  だからお酒飲みながらおしゃべり中の聡衣さんと蒲田さんにこっそり訊こうかなって。タイミングを伺ってたんだ。できたら義信さんがいないところで。で、今がその絶好の機会かと。義信さんは聡衣さんの恋人の久我山さんと河野さんで話してるし。今なら会話は聞こえないだろうからおしゃべりしてるなぁっていうふうにしか見えない……と、思う。  今のうちに。  訊かないと。 「ケンカ? えー……危機的なのはないけど。蒲田さんとこは?」 「僕は……ケンカはない、かと。でも椎茸論争はしました!」 「……何、椎茸論争って」  確かに。なんですか? 椎茸論争って。  蒲田さんが急に高い椎茸とは! って言い出したけど。 「汰由君のとこは?」 「あ、俺は……まだ。っていうか全然ケンカになるようなことなくて。でも、結構大学とかでみんな彼氏、彼女とケンカしたとか話してるの聞いてて」  それを今までは「ふーん」なんて呑気に聞いただけだけど。今は、結構気になっちゃって。 「ケンカってするのかなって……なんか想像つかないんですよね」 「……」 「義信さんは色々経験あるだろうから我慢させちゃったりとかしてるとこあるのかなぁとか考えたり。あと、ケンカしたとして泣いたりしちゃったら困らせるだろうなぁとか。不満に思ってることないかなぁとか。あ! 俺はないです。不満なんて一つもなくて。でも、義信さんにはあるかもって思って。けど、不満ないですか? って訊いてたくさんあったらいっぺんには直せないだろうな、とか。あとちょっとだけ落ち込んじゃいそうだなぁと」  思ったり、して。 「……あ、あの」  相談することが些細すぎ? ってます? 「聡衣さん?」 「…………いい」 「へ?」 「可愛い! 何それ! 悩み事が可愛い! もうそのまま訊いてみるといいよ」 「え? このままですか?」  今、俺が話したことをそのまま? 子どもっぽいってならない? 「我慢は良くないです。身体にも精神的にもよくないのでお勧めできないです」 「あ、はい。蒲田さん」 「ですが、もしもケンカになったとして義君が汰由さんを泣かせるようなことをしたら」  蒲田さんがぎゅっと口をへの字にして、白くて綺麗な手をぎゅーって握って天につき上げた。 「僕が義君をビンタします!」 「ええええ?」 「いや、蒲田さん、それ、グーパンだよ」 「グー」  蒲田さんが難しい顔をしながら自分の握り拳をじっと睨みつけた。 「パン!」  それからパッと手を開いて、パチン、って合掌して。 「いや、そうじゃなくて、グーで殴るってこと」 「そっちですか!」 「いや、そっちって。蒲田さん、どっちだったの?」  というか、お仕事的に暴力沙汰はダメなんじゃ……ないかなって。そもそも暴力はよく、ないかと。 「とりあえず! 不満なんてないと思います! いつも義君嬉しそうにしてて、顔、だらしのなさがものすごいですから。むしろ、汰由さんとしてはどうですか? 不満。あるなら言ったほうがいいですよ。その辺りの対応力なら多分あるので」 「ぇ……いえ、全然不満とか」 「ないですか? 本当に? 土日がお店で平日は学校で、ちょっと大変とか、会う時間が少ないとか。むしろ多いとか。なあーんでもっ」 「な、ないです」 「僕はあります!」 「え?」 「義君にそんなに盛大に惚気てばかりでは鼻が伸びますよ? って言いたいです」 「そんなになんだ」 「そんなになんですよ」  そんなに、なんですか? 惚気……てくれてるんですか? あと、鼻じゃなくて鼻の下、じゃないかなと……思うんですけど。 「もうデレデレです」 「や、でも、河野も蒲田さんの前だとだらしないよ? 普段仏頂面しかしないのに、俺、河野の笑った顔見たことなかった」 「河野さんは仏頂面の時はとにかくカッコよくて、笑ってもカッコよくて、かっこいいです」 「そんなにぃ? かっこいいオンパレード」  こういうのベタ惚れって言うんだろうな。 「それで言ったら旭輝こそかっこいいオンパレードだと思う」 「……」 「蒲田さん、そんなににらまなくても。いや、けど旭輝ってば」  一つ、深呼吸。 「ぁ……あの、義信さんもかっこいい、ですよ」 「「……」」  え? だって本当にかっこいいよ? なんで、そんな信じられないものを見たみたいな顔を。 「これは……確かに愛でる」 「めでっ」 「義君のこと本当にお願いしますっ!」 「あ、はいっ、こちらこそ」 「義君にも大事にするように強く言っておきます」 「えぇ? そんな」 「義君!」 「あはは。蒲田さんの暴走始まった」 「暴走っ?」  そこでパッと立ち上がった聡衣さんがスキップ混じりで久我山さんのところに向かった。 「ほら、汰由君も国見さん呼んでるよ」 「は、はいっ」 「うーん、やっぱ旭輝かっこいいなぁ」 「モデルさんみたいですよね」 「でしょでしょー?」  はい。でも。 「汰由、おいで」 「はいっ」  でも、やっぱり、義信さんが一番かっこいい……と、思います。そして手招く義信さんを捕まえるみたいに手を伸ばして、その隣を陣取った。

ともだちにシェアしよう!