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おまけ9 向日葵キス
義信さんのベッドの枕は俺のよりずっと柔らかくて埋もれるみたいになるのが気持ちいいなぁって、いつも思う。
まだ数回だけど。
でもお泊まりをできるようになったの。ちゃんと親には話したから。しょっちゅうは義信さんがダメって。勉強もあるんだからって。
義信さんのバスマット踏むと心地いい感触で好き。
パジャマは持ってこなくなっちゃった。義信さんが貸してくれるルームウエアの方が肌触りが気持ち良くて気に入ってるから。それから、そのサイズが違うの着るの、好きなんだ。
体格差?
それが感じられてドキドキする。
サイズが違うからか、まるで彼に抱っこしてもらえてるように感じられるのが嬉しくて。
やっぱりこの枕、いいなぁ。
気持ちいいなぁ。
大体腕枕してもらえるからあんまり使わないけれど。
でも、その……セックスの時はね、この枕にね。
気持ち良くて気持ち良くて、たまらないってなるとぎゅって枕に抱きついたりもするから。
そんな時に気持ちいいなぁって思った。
同じ枕にしたいなぁ……とか。
「汰由」
ベッドが少しだけ傾いて、義信さんがまだちょっと寝ぼけてる俺に覆い被さるような体勢になってるって……気配だけで感じた。
「汰由……」
くすぐったい。
寝癖、すごい?
頭撫でられるの気持ちぃぃ。
このまま狸寝入りしてたらずっと撫でてくれるのかな。
「こら……寝たふりしてる」
なんだ。バレてた。
「起きないとイタズラするよ?」
でもイタズラされたい、です。
「起きない?」
もう、起きてます。
「じゃあ、起きるまでこうしてようかな」
こうしてて欲しい、んだもん。
髪にキスしてもらって、耳にもキスしてもらって、少しだけ義信さんの重みを感じる。
心地良い重みに気持ちがふわりって溶けちゃうくらいに柔らかくなって。
「たーゆ」
「……」
「汰由」
「ん、ぷくくくく」
うなじはとてもくすぐったくて、つい笑っちゃった。我慢しきれず溢れて漏れた笑い声をお気に入りの柔らかい枕でどうにかせき止めて。
「……おはよう、よっぱらい汰由」
「おはようございます」
目を開けると、昨日、たくさん気持ちよくしてもらえた時と同じくらいの距離で義信さんが微笑んでくれていた。
「二日酔いは平気?」
「……はい。大丈夫、かな。なったことない、けど。義信さんはあるんですか?」
「そりゃあるよ」
そうなんだ。俺といる時、たくさん飲んでも翌日全然普通だから、そういうのないのかと思った。
「でも最近はないけど」
そうなの? 飲む量が減ったの?
「お酒をずっと飲んでるよりも」
よりも?
「その時間分、汰由にかまってもらいたいから」
ふわりと微笑んで、ずっと俯いていた義信さんが、その素敵な目元を隠しちゃう柔らかい前髪をかき上げた。
「朝ご飯を作ったから起こしにきた」
「え? 作っちゃったんですか?」
「あれ? ダメだった? 親御さんには何時に帰るって」
「ううん」
「?」
そっと手を伸ばした。
「そうじゃなくて」
手が届くギリギリ。でも、義信さんが屈めてくれるからしっかり掴まれた。
「一緒に」
そして、しっかり首に掴まりながら、ちょっと首を傾げると微笑みながらキスをくれる。欲しいものはわかってるって、その口元を緩めて優しく触れてくれる。
「作りたいなぁって思っただけ、です」
「……ごめん。でも」
でも?
「きっと腰も足もつらいだろうと思ったから」
「……ぁ」
たくさんしてもらった。昨日は義信さんがすごくすごーく興奮してくれてた。何度もくれたもの。おかしくなっちゃいそうなくらいだった。義信さんの腕の中で何度イっちゃったのかもうわからないくらい。こんなふうにしがみつきながら何度も。
「つらくない、です……でも、まだ余韻残ってて」
「……」
「ちょっと朝からドキドキする、かな」
「……やっぱり、一番だ」
「?」
何が? 小さく呟いた義信さんの独り言のようなそれに首を傾げた。
何が一番だったのかなって。
「昨日、ノンアルコール組で話してたんだ」
久我山さん、それから、河野、さん?
「うちが一番可愛いって」
「……」
「それぞれ譲らないから、ずっと平行線だったけど」
そう、なんだ。
「で、今、やっぱり汰由が一番可愛いって思っただけだよ」
「っ」
うち、だって。
「みんなで恋人自慢してた」
わ。
「聡衣君と佳祐と、三人で楽しそうに話してるの眺めながらね」
嬉しい。
義信さんに俺のこと自慢してもらっちゃった。可愛いなんて。
「聡衣さん、綺麗だし」
あんなに綺麗で柔らかい印象の人ってそういないと思う。モテるだろうなってすぐにわかっちゃう。
「佳祐さん、可愛いし」
すごく優秀でお仕事できるのにあんなに可愛いなんて反則でしょ? 笑うとほっぺた赤くなってすごく可愛かった。
そんな二人に比べたら俺なんてって思うし、実際そうだし。でも。
「汰由」
「でも」
別に誰にもわからなくていい。
「義信さんに可愛いって思ってもらえたら、俺、もう……」
貴方にだけ可愛がられたいから。
「すごく、嬉しい……です」
貴方にだけ、可愛いって思ってもらえればそれでいい。
でもね、まだ、それを大きな声で言えるほどの自信はないから、言いながら段々声が小さくなっちゃった。そして、義信さんが何も返事してくれないから、なんか、急に不安になってチラリと見上げたら。
「困った」
「えっ? あの、すみませんっ」
「今度、海へ旅行で行くことにしてたけど」
う……ん。してた。海、義信さんと一緒に探した旅館。良さそうだった。海も目の前で、ご飯がとにかく美味しいってレビューでたくさん書かれてて、舟盛り楽しみだねって。義信さんは日本酒飲むって言ってた。
けど……やっぱりダメ? 行きたくなくなっちゃった?
夏イコール海って、やっぱり子どもっぽかった?
素敵な大人の義信さんとじゃ、まだまだ足りないところの方が多くて、ふとした時にこうして「不安」が滲んできちゃう。
やっぱり、不釣り合い? って気持ちがじわって。
「プライベートビーチに変えればよかった」
「?」
「汰由が可愛すぎるから、他の目に触れさせたくない」
「!」
「海水浴場なんてとこに行ったら」
「っぷ、あはは」
「笑い事じゃない。汰由」
「だって」
聡衣さんならそんな心配しなくちゃだけど。
佳祐さんなら、そもそも迷子とかなっちゃいそうで心配かもしれないけど。
俺にはそんな心配いらないけど。
「平気ですよ」
「平気じゃないレジャープールだって」
うん。それもすごくすっごく楽しみ。俺、行ったことないもの。夏休みは夏期講習で埋め尽くされてたから。けど近くにあるんだって。車で三十分もすれば行けるって義信さんが教えてくれたけど。
「親類の権力使って、どこかリゾートプールを二人で貸し切って」
「えぇぇぇ?」
ちょっと真顔なの。
「平気ですってば」
「あのね、汰由」
「だって俺」
そんな義信さんがちょっと可愛くて。愛おしくて。
「義信さんしか見てないですもん」
「いや、汰由はそうでも周りの」
「大丈夫です。海もプールも楽しみです」
キスをした。貴方がくれるヤキモチはとても、とっても美味しくて、とっても嬉しくて、その唇に触れながら、こんなに楽しみな夏休みが始まったことに太陽みたいに、向日葵みたいに、ニコニコ笑いながらキスをした。
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