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溺愛クリスマス 3 君のリクエスト

 お風呂上がったら車で送ってくれるって言ってた。泊まれたらいいのに。でも、これは義信さんとの約束で、お母さんとの約束でもあって。  本当に大好きな人だから。  ちゃんと恋をしているから。  ちゃんとしなくちゃ。  大事な人なら、大事な気持ちなら、丁寧に、真面目に、ちゃんと。  でもやっぱりもっとたくさん一緒にいたくて――。 「大学終わるのはいつもくらいかな」 「ぁ、はい」  だから、夕方から。  もっと早くに会えたらいいのにね。でも、義信さんにだって、一人の時間って必要でしょ? だから、いいんだけど。大学、ちゃんと行かないとだし。  でも、やっぱり、もっと一緒にって思っちゃう。大学後、ほぼ毎日アルコイリスで会ってるし、明日みたいにお休みの時だって相手してもらってるけど、さ。  我儘だけど、すごくわがままなことを言ってるけど、お店の中とかじゃなくて、誰か、お客さんが突然来ちゃうところでじゃなくて。今みたいに、夜みたいに、二人っきりで過ごせたらなぁって。 「じゃあ、またそのくらいに迎えに行ってもいいかな」 「! はいっ」  俺の大きすぎる声がお風呂の中に響いた。  そして、俺の後ろから義信さんの優しい笑い声もお風呂の中で響いてる。  嬉しくて、つい、返事の声が大きくなっちゃったんだ。まるで、お散歩に行く? と尋ねられたワンちゃんが元気にお返事をするみたいに。 「あと来週からはかなり忙しいと思う。無理のない範囲で手伝ってもらえると嬉しい。無理は禁物。それから、ご両親にもそのこと伝えて。車で帰りはちゃんと送るからって」 「はい」 「もしも必要なら僕が親御さんに」 「え、いいですよっ、ちゃんと言います。それにうちのお母さん、義信さんのこと、信頼してるから、言えば、そうなのねってなるだけです。っていうか、車で送らなくても平気です。義信さんも休んでください」 「だめ。そこは絶対に送る」  義信さんが、キリリとした声で断言した。  そんなことしなくていいのに。 「大丈夫ですよ。義信さん、きっとすごく忙しい」 「ダメ。一人帰りは絶対に」  本当に大丈夫だよ? 俺、男だもん。もちろん、義信さんみたいにかっこよくなんてないけど。そう思うけど。でも、過保護にしてもらえるのが嬉しかったりもして。大事にしてもらえてるってくすぐったくてたまらないんだ。 「あと、ラッピング結構増えると思うから頑張って」 「えっ! 俺、大丈夫かな」  こっちは、ちょっと大丈夫じゃない。ラッピング、すごく時間かかっちゃうし、すごく……その、まぁ、上手じゃなくて。 「俺、不器用」 「そう? 器用じゃない? リボンだって上手になった」  そんなことない。義信さんの方が輪っか、すごく丸くて均一で綺麗だもん。俺が作ったリボンがくっついてるのより、絶対に義信さんのがくっついてるプレゼントの方がいい。ラッキーってなると思う。 「ありがとう。汰由」 「?」  今、俺、お礼を言ってもらえるようなこと、一つもしてないよ? そう思って、振り返ろうとした俺のうなじに背後から抱き締めてくれている義信さんがキスをした。 「いつも一生懸命仕事をしてくれる」 「そんなこと」 「それはとてもありがたいことだ」  言いながら、肩にもキスをしてもらうと、途端にドキドキしてきて、肌が何かを期待するように感度を上げちゃう。  また、かまってもらえるのかも、って。  すぐに期待しちゃうんだ。  俺ってこんなに欲しがりだったっけって、戸惑うくらい。義信さんにそのうち呆れられてしまうかもって心配になる。  初めて、だからなのかな。  デート、たくさんしたい。  もっともっと。 「本当に感謝してる。汰由、クリスマスに欲しいもの、ある?」 「?」 「訊くのは無粋かなとも思うけど、君がリクエストしたものを全て揃えるってことがしてみたいんだ。僕の我儘だ」   それはきっと我儘って言わないです。 「竹取物語って知ってる?」 「? 婚約、者に、宝物を」 「そう、あれ、楽しそうだなぁって」  楽しい、のかな。なんだか大変そうなものばかりリクエストされてたでしょう? 「きっと探してる間、すごく楽しかったと思うよ」    難しいクリエストばかりだったのに? って首傾げると小さく笑って、唇にちょっと触れるだけのくすぐったいキスをくれる。 「だって好きな子の欲しいものを揃えるんだ」  そう言われて、唇だけじゃなくて、気持ちもくすぐったくなる。 「楽しいに決まってる。なんでもいいよ。汰由が欲しいものなんでも。なんでも叶えるから考えておいて」 「え、えぇ……欲しいもの」  少し考えてみたけど、でも、そんなものないよ。 「ぅ、うーん」 「何を欲しいと言ってもらえるか楽しみにしてる」  その表情にドキドキした。まるで子どもみたいにはしゃいだ顔をして、そして俺の頬っぺたに唇で触れてくれる。 「今は、欲しいもの、言ったらダメ、ですか?」 「?」  たくさんキスをくれたから、俺も、お返しでキスをした。唇にキュって吸い付いて、それから、ちょっとだけ下唇を俺の唇で摘む、キス。 「汰由」 「明日、大学あるからちゃんと帰ります。でも、今日遅くなりますってお母さんに言いました。だから」  おねだりの、キス。 「だから、義信さん……ン」  そのキスが深くなって。 「ぁ……」 「汰由、それ、僕が欲しいもの、だよ」 「ぁ……ン」 「我慢、してたんだけどな」 「あ、ン」  バスルームに、甘いキスの音が響いた。

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