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溺愛クリスマス編 おまけ4 わちゃわちゃで

 今日はたくさん聞きたいことがあったんだ。  そう簡単に会えないから、会えるのならって、もうそれこそメモでも取りたいくらいにね。聞きたいことがいっぱい。  だから、今、聞こうかなって。今、ちょうど、義信さんとかいないし、久我山さんも急遽電話が来ちゃって、ものすごい怖い顔しながら出てっちゃって、席、外してるし。ここだーって、思って。  前のバーベキューの時も、たくさん相談乗ってもらっちゃって、今回もで、申し訳ないとは思いつつ。 「あ、あのっ、ご両親に、そのっ、久我山さんが会いにっ、挨拶にっ」  聞きたいんだもん。 「あ、うん。来てくれたんだぁ」  そして、聡衣さんがほわりと、なんというか、こういうのどちらかというと義信さんが言いそうなのだけれど、ダイヤモンドみたいにキラキラって輝くように微笑んだ。 「うち、シンママでさ」 「シン……」 「シングルマザー、俺が小さい頃に離婚してるから」 「! す、すみませんっ」 「えー? いいよいいよ。大人は色々あるよね」  頬杖をつきながら、ゆらりと揺れて、頬に触れた緩くウエーブのかかった髪を耳にかける仕草がとても素敵だった。 「なんかねぇ。嬉しかったよ」 「緊張とかしなかったんですか」 「したした。超した。でも、うちのお母さんだからさぁ」 「はい」 「テンション高くて、なんか、思ってた感じと違ったっていうか」 「そうなんですか?」  そうなんですよって、その時のことを思い出したのか、聡衣さんが笑ってる。笑っちゃうくらいの雰囲気だったのかな。 「思ってなかったんだよねぇ。自分が親にそんな挨拶を、とか。一生とかも、考えたことなかったし」  それ、わかる。  俺はもっとだ。もっと、そんなこと思ったことなかった。恋愛なんて、きっとできないだろうなって思ったくらい。 「だから、なんか、不思議だったけど」 「……」 「でも、世界で一番幸せだなぁって思ったよ。照れくさいから内緒だけど」 「人生のパートナーに隠し事か?」 「! 旭輝」  俺と聡衣さんの間に入ってきたのは久我山さんだった。電話、終わったんだ。ちょっと整いすぎたお顔だから、むすっとされると、怖気付きそうになるくらいに怖くて。 「汰由くんも、ご両親に?」 「あ、いえっ、ぁ、はいっ、あ、いや、挨拶、とかじゃないんですけど。お付き合いしている人がいて、その人が同性ってことも、知ってるし。っていうか、うちのお母さんに、ちゃんとしますって、義信さん言ってくれてて」 「へぇ」 「だから、その、うちの親は全然。でも、俺、まだ全然、未熟だから、まだまだで。義信さんのおうちにはまだ到底」  まだって、言葉が何度も出てきちゃうくらいに、義信さんにしてもらうばかり。可愛がってもらえてるけれど、俺が義信さんのためにできることがあまりにも少なくて。たまに、ちょっとだけ。 「まだ、不釣、」 「学生だろう?」 「!」 「学ぶのが仕事なんだ、今のうちに、たくさん学んで、いつかそれを活かせばいい」  不釣り合いって言おうと思った。  でも、それを久我山さんがピシャリと遮った。 「……はい。ぁ、えっと、頑張ります」 「そうだそうだ頑張れー! っていうか旭輝の顔が怖いんだってば。汰由くん怖がってるじゃん」 「怖いんじゃない。整いすぎてて迫力があるんだ」 「なにそれ」  きっと、こういうとこなんだ。凛としていて、すごくかっこいいのに柔らかい。聡衣さんのこういうところに久我山さんは惹かれて。真っ直ぐだけれど、しなやかな真っ直ぐさっていうか。久我山さんのこういうところに聡衣さんは惹かれたんだ。 「それにしても聡衣、飲み過ぎか? 顔が赤い」 「! んもー! そうやってすぐからかうっ」 「いや、毎回、あの挨拶の時の話になると赤くなるから、心配してるんだ。風邪でも引いたのかと」 「だからっ、それは!」  そして、聡衣さんの前でだけ、こんなに優しい表情をするところ。すごくすごく、その、俺がいうのもなんだけど、愛されてるんだろうなぁって。 「やっぱり熱でもあるのか?」 「だーかーらっ…………って、熱あるの、蒲田さんじゃん?」 「ひゃぇ!」  言われて、視線を蒲田さんの座っていた辺りにやると。 「なんでメモ?」 「あ、いえっ、これはっ」  本当だ。新聞記者の人みたい。 「それに真っ赤」 「ひゃえええ、へえええぇ」 「や、マジでどうしたの?」 「あ、の、これはですねっ、今後の参考にですね。あの、なるかなって。いえ、えへへ」 「…………で、なんで、河野も赤いの? 林檎病なの? 猿なの? 日本猿なの?」  本当だ。真っ赤だ。 「なんで俺だけ、変なのいっぱいつけるんだ!」 「だって河野だもん」 「あのなぁ! うちもそろそろって話になってるんだよ。それで、まぁ、なぁ……いや、俺の場合、完璧だから、別にいいんだ。一度面識あるし。だから、まぁ別に」 「え、えええええ? 河野が挨拶? いいの? 蒲田さんっ、河野だよ?」 「はい……えへへ、喜んで」  わぁ。蒲田さんのところに河野さんがご挨拶に行くんだ。なんか、すごいすごい。 「ええぇ? そっかぁ、あの河野がねぇ」 「あぁ、あれも成長するんだな」 「本当だよねぇ」 「ちょ、なんだお前ら、どこの親戚だよ」 「はい。河野さんは立派になられたんです。今日だって苦手な椎茸をちゃんと食べて。すき焼きの、一枚、いけないかと思ったのですが、ちゃんと」 「佳祐もそこは突っ込めよ!」 「え? でも、立派に」 「いや、そこ?」 「あぁ、そうだ! 河野! この前はマジでごめんっ、イチャイチャしてたとこ邪魔して」 「は? 何?」 「寸前のとこで止めさせちゃってって思ったけど、なんか違ったらしく。でもあの日平日じゃん? ってことは休み取ったんでしょ。やばー! すごい仲良しじゃん!」 「なんなんだ、この酔っ払い」 「だって、蒲田さんがあんなこと言うからさ」  そこから、先は、なんだかこんな高級料亭でお話ししていいのかなって思ったけど、すごいところがから防音がすごいのかもしれない。じゃないと、あれがアレで電話中にあんなで、こんなで、河野さんが焦らされてて、蒲田さんが待てしてて、そこに聡衣さんが割り込んじゃってって、すごいお話がみんなに聞こえちゃうから。 「違うっつうの!」  大きな叫び声が、ほら。 「いやいや」 「だーかーらっ」  でもすごくすごく楽しくて、つい、俺も大きな声で笑ってた。楽しくて、すごくすごく笑っちゃった。

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