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セクシーメリークリスマス編 2 彼らは溺愛されている

 やっぱり聡衣さん、素敵だなぁ。なんで黒のワントーンコーデなのに重たく見えないんだろ。  怖そうにも見えないし。普通、黒のワントーンなんて重く見えるばっかりなのに。  まだまだ、なんだろうなぁ。俺ってば。まだ、ワントーンコーデだって最近知ったくらいだし。  それに蒲田さんも、さ。  スーツなのに、ホント、なんで可愛く見えるんだろ。  聡衣さんはカッコよくて、綺麗で。  蒲田さんは、とにかく全部が愛らしくて。  僕もこんなふうになれたらいいのに。  僕もこんなふうになれたら、義信さんにお似合いってなれるのに。 「今日は、この辺りのホテルに?」  楽しかった食事会はあっという間に終わっちゃった。  料理、すごく美味しかったな。何がどう美味しかったのか上手に説明できそうにないけど、とにかく美味しかった。  椎茸の、の時は蒲田さんが熱心に作り方聞いてたから、きっと作ってあげるんだと思う。 「あ、うん。近くのホテル。けど、多分遅くなるんじゃないかなぁ。上司さんと食事会って言ってたから」 「あ、成徳さんも多分同席してらっしゃいます。今日は遅くなるとおっしゃってたので」  二人とも、あんまり酔ってないのかなぁ。  ワイン、一口でもクラクラしたけどなぁ。俺もそういうの飲めるようになりたいなぁ。 「もうクリスマスだねぇ」 「あ、はい」  そう言って、聡衣さんが、駅前のイルミネーションに目を細めた。写真、撮らないよね。子どもじゃないんだし。いちいち写真に撮って、久我山さんに「ねぇねぇ」なんて言わないか。 「今年、国見さんは? 海外に買付とか行くの? クリスマスマーケットがすごく好きって前ってに言ってたけど」 「あ、えっと、今年は、行かないんです。僕が、その、パスポートも持ってないし」 「なるほどぉ。一緒に行きたいのねぇ、国見さん」 「あっ、違っ、僕が、えっと」 「ふふ」  ――汰由の卒業旅行の前に、クリスマスにはどこか行こうか。クリスマスマーケット、汰由ならきっと楽しいんじゃないかな。  一度、行ってみたい。義信さんが教えてくれる海外のこと、すごく楽しそうで。  それに、その、初めては全部、義信さんがいい。キスも、その、そういうことも、海外旅行も。全部、俺、義信さんに教わりたくて。  我儘だよね。  きっとこういうところも子どもっぽいんだろうけどさ。  聡衣さんも蒲田さんもちゃんと自立してる、大人で、義信さんの隣には本当ならそんな大人が一番お似合いって思うけど。  それに何より、大人の配慮、みたいなのできるようになりたいんだ。気配り、とか。義信さんが自然と俺のフォローしてくれるみたいにさ。 「でも、クリスマス、今年は何をあげようかなぁって。お店あるから、どこか食べに行くっていっても忙しいだろうし。っていうか、もうどこもレストラン埋まっちゃってるから、今更なんですけど……」  素敵なのがいい。  大人っぽくて。  自然とさりげなく。  けど、素敵なお店は義信さんに教えてもらったところばっかり。同年代の友だちはそんな洗練されたレストランはわからなくて。こういうとこがいい。今日、蒲田さんが紹介してくれたような、かっこいいレストランがいい。  なんて漠然と思ってたら、あっという間にクリスマスになっちゃった。 「えーじゃあ、国見さんとこでホームパーティーとかしたら?」 「それもいいかもって思ったんですけど、僕より、義信さんの方が料理上手なんで、なんか、下手な料理食べさせるのも悪いなって」 「そっかぁ。でも汰由くんの手料理とか、国見さん、溶けちゃいそうな顔で食べそうだけどなぁ」 「えぇ? そんなことは」 「あるある、絶対にある。ね、蒲田さん」  そこで、ぴょんって、蒲田さんが飛び上がった。  なんかさ、そんなの、普通にリアクションでしたら、ぶりっ子って思うのに。そう思わない。可愛い人だなって、自然と思える。そういうの羨ましいなぁって思う。  愛される人っていうか。 「あ、あります! きっと義くん、デロデロに溶けます。跡形もないくらいに」 「えぇっ」 「あははは、溶けすぎだけど、ありえる! もう国見さんの汰由くん溺愛すごいもん」  本当に? 俺の、こと、でも、なんていうか、猫可愛がりっていうのかな。なんか、大人って感じじゃなくて。 「あ、じゃあさ、汰由くんがご馳走になれば?」 「ひへっ?」 「セクシーなの着て、プレゼント自身になっちゃえばいいじゃーん」  聡衣さんが、パッと両手を広げて、そんなことを言った。けど、でも、俺が? プレゼントに? え、えぇ? 「でも、義くん、大喜びすると思います」 「えええっ、ちょ、蒲田さんまでっ」 「ね、蒲田さんもそう思うよね?」  なんなくない?  俺じゃ、さ。 「はい。汰由くんが何やってもデレデレなので。何されても、溶けると思いますが」 「っぷは、まさに骨抜き」 「そ、そんなことっないですって」  ある、かな。  あったらいい、けど。 「でも、溺愛で言ったら、あれもじゃん」 「?」 「河野の、蒲田さん溺愛もすごいよね」 「ほ、本当ですかっ?」 「うん」  義信さんのこと、メロメロに。 「河野も溶けちゃうんじゃーん? 蒲田さんのセクシーな格好とか見たら、もうダメかもね。デレデレで」  デレデレに。  できるかな。  できたらいいなぁ。  俺が義信さんのプレゼントに。  なったらいいなぁ。 「溺愛で言ったら、久我山さんもすごいですよ」 「は、はい! 僕もそう思います!」  俺じゃ、蒲田さんみたいに可愛くないけど。  俺じゃ、聡衣さんみたいに綺麗でカッコよくなんてないけど。 「久我山さん、聡衣さんと一緒にいる時だけ、顔が違います。こんな顔が……こうなります」  そう言って久我山さんが聡衣さんと接している時の笑顔の真似をしてあげてる。目元を下げて、唇をキュッとあげて、ちょっと誇張しすぎて面白い顔になっちゃってるけど。でも、確かにそのくらいデレデレで。 「あはは、そんなに違ってる?」 「違います。違います。別人です」 「あははは」  でも、俺といる時の義信さんもそうならいいな。  デレデレで。  他の人といる時とは全然違っている、別人みたい、だったらいいなぁって、思いながら冬のイルミネーションの元を歩いてた。

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