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セクシーメリークリスマス編 4 スーツを脱がして
蒲田さんは河野さんと車の中で二人っきりとかドキドキするのかな。
聡衣さんは、今回、新幹線で来たって言ってたけど、車の運転とかを久我山さんがしてて、かっこよさに、見惚れちゃったりするのかな。
俺はすごくドキドキして、見惚れちゃって、何度か「眠い?」って訊かれちゃった。じっとしてるのを居眠りって思ったのかもしれない。
でも、だって、カッコ良すぎるんだ。
「汰由、水、飲もうか?」
「え」
「酔い覚まし」
そんなに酔ってないし。ただ見惚れてただけだし。お部屋に帰ってすぐ、義信さんは冷蔵庫からお水を取ってくれた。
「少し酔いが覚めたら、送るから」
「えぇ……」
「そろそろ九時だ」
「えぇ」
まるで駄々っ子みたいに、口を曲げると、優しい手が俺の頭をぽんぽんって撫でてくれる。まるで子どもをあやすみたいに。
だって、九時に帰るなんて、子どもみたい。
もっと遅くて大丈夫、高校生じゃないんだから。全然。お店のシフトで遅くなる時、このくらいの時間になることたくさんあるし。それでも別に。遅いなんて言われたことないし。だからまだ帰りの時間は平気。
全然平気。
「今日は泊まるって言って来てないだろう?」
「でも、食事をしてくるって言ってあります」
「……」
「それにっ、みんな、友だちとか飲み会って言って、朝までとかしてる」
「人は人、うちはうち」
「!」
その言い方にもドキドキするくらい義信さんが好き。
うちはうち、だって。俺は俺、でしょ、とかじゃなくて、うち。そこにはきっと、俺と一緒に義信さんが含まれてて、なんだか一緒になってるのが嬉しくて、素直に「はい、わかりました」って良い子になりたくなる。
けど。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ。遅くなることは言ってあるし」
「……」
「スーツ姿の、義信さん、レアだからもっと見てたい」
ぎゅって、その頭を撫でてくれる手を掴んだ。
「こっちの方が好き?」
義信さんの手があったかい。
「どっちも好き。いつものニットとかの義信さんもすごくかっこいいし、スーツもめちゃくちゃカッコいい。ドキドキする」
「そう?」
「うん」
この手に、されたくなる。
たくさん、その、触ってもらって、撫でてもらって、掴んで、抱き締められたくなる。
「酔っ払い汰由」
「そんなに酔ってないっ」
「目がトロンとしてる」
「これはっ」
そう言って、義信さんがこめかみの辺りを指でなぞって、小さく微笑んでくれる。あれみたい。眠いのに眠くないって駄々を捏ねる、サンタさんが来るまで待ってるって言い張って聞かない子どもみたい。
「何時に帰るって言ったの?」
「とくには」
「……」
「でも、遅くなるなら、義信さんに迷惑にならないようにって言われました」
「迷惑になんてならないよ、というか」
あれ?
俺、はーい、って軽く返事したけど。
俺、今日はバイト先の先輩と、あと、義信さんのいとこの人と食事って言った。その前は義信さんのお店でちょっと仕事して、それから出掛けるからって、言った。
帰りに義信さんと会うこととか、言ってない、のに。
「じゃあ、ちゃんと送り届けないとだ」
「えぇ」
「あとでね。そんな真っ赤な顔じゃ送り返せない」
「俺っ、そんなに、真っ、……」
赤い?
そう訊こうと思ったけれど、腰を引き寄せられて、ぴたりと身体をくっつけながら、背中を丸めた義信さんが俺の頬にキスをしてくれたから、言葉が止まった。
「真っ赤だ」
「っ」
言われて、慌てて両手で頬を押さえると、その手ごと、義信さんが両手で頬を包んで、そっと優しくキスをしてくれた。
「スーツ姿、もう少し見る?」
「! はいっ」
すごくすごく元気に返事をしちゃった。本当に元気に。
その返事のあまりの元気良さに義信さんが笑うくらいだけれど。いいんだ。いつもはもっと大人っぽくなりたいから、義信さんに見合う大人のなりたいから、元気な子どもっぽい返事をしちゃったことに反省するんだけれど。でも、義信さんにならいい。
義信さんの笑った顔がたまらなく好きだから、良し、とする。
「どうぞ、好きなだけ」
良し……とする。
「スーツ姿」
本当にかっこいい。
スーツのジャケットを脱いで、リビングのソファに置くと、ゆったりと腰を下ろした。
少しネクタイも緩めて、袖のボタンを外して、ようやくリラックスできたのか、ほぅ、って深い溜め息をつく。
カッコよすぎ。
「気に入った?」
「はい、すごく」
こんなにかっこいい人が。
「それは光栄だ」
俺の、だなんて。
「スーツは堅苦しいばかりだと思ってたけど、汰由に気に入ってもらえたなら悪くない」
「!」
言いながら笑って、俺のことを引き寄せて、その膝の上に跨るように座らせてくれた。
皺、大丈夫なのかな。
スーツのパンツ、俺が上に座ったりしたら、くしゃくしゃになっちゃわない?
「すごく、カッコいい……」
「ありがとう」
「ネクタイ、ちゃんとしてるのも紳士って感じでカッコいいし、今、みたいに、緩めてるのもカッコいい」
「そう? だらしないってならない?」
「なりませんっ」
そんなこと思うわけないって、少し慌てて答えると、フフって優しく笑ってくれる。
蕩けてしまいそうなくらいに優しくて、心臓ドキドキして止まらないくらいにカッコよくて。
「すごく素敵です」
「ありがとう。褒めすぎだけど」
「そんなことない」
もっとたくさん褒めたい。
「でも、汰由にベタ褒めしてもらえて、有頂天だ」
たくさん褒めたい、けど、でも。
「……義信、さん」
スーツ姿の義信さんと、すごく、やらしいことがしたくて、キスをした。
「っ……ン」
ちょっと、すごいこと、思っちゃった。
「義信さん、もっと……」
義信さんのスーツ姿、乱したいって、そんなこと、思っちゃった。
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