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セクシーメリークリスマス編 8 蒲田相談室へようこそ
きっと義信さんはモテたでしょ?
モテないわけないし。
恋人だって今までたくさんいたと思うし。あの包容力だもん。そうでしょ。だから、そのことでヤキモチなんてしない。
しないけど。
「歴代の恋人、ですか?」
「は、はいっ」
相談したいことがって電話をしたら、きっと絶対に忙しいはずなのに時間を作ってくれた。ランチでもしましょうかって言ってくれて、オムライスの美味しいお店を教えてくれた。
思わず、前のめりになりながら大きく頷くと、蒲田さんが大きて真っ黒な瞳をパチパチと瞬かせてる。
睫毛、すごく長い。綺麗で可愛い顔。義信さんは整ってて、かっこよくて「完璧」っていう顔。親戚なんだもの、ということはきっとここの家系の人はすごく美男美女ばかりなんだろうなぁなんて。
だから、元恋人はドイツの人だし。
「蒲田さんなら知ってるかなって」
「……どうして、それを知りたいんです?」
「…………え、っと」
なんで、知りたい、んだっけ。
そもそもは義信さんの好みを知りたかったんだけど。
えっと、えっと。
「! まさかっ!」
「は、はいっ」
「義くんが汰由くんを不安にさせてしまうようなことしましたか? どこかぼーっとしてるところがあるので! 義くん! もしくは、溺愛しすぎて過保護すぎて迷惑されてます? あ! お菓子たくさん食べさせてくるとか! ご飯食べさせすぎてくるとか! 汰由くん、嫌な時は断っていいんですよ? 義くん、大好きだとすごい過保護になりすぎるところがあるので!」
なんたることか! と、ほっぺたを真っ赤にして、蒲田さんがスマホを取り出しちゃったから、俺は大慌てでその手のスマホを引き止めようと、手を伸ばした。
「違うんです! えっと、不安になってないです! あの、大事にしてもらってます!」
本当に、大事に大事に、まるで僕のこと綿菓子みたいに思っているのかもしれないと確認したくなるくらいに、いつだってそっと触ってくれる。過保護なくらいに色々してもらっちゃってる。それはもしかしたら、俺が頼りないからで、まだ幼いところばっかりで見ていて心配させちゃってるんじゃないかって。
きっと、今までの恋人さんは大人っぽくて、しっかりしていて、綺麗で、義信さんにお世話っていうか、手間、みたいなのかけたりしないでいられるような人なんだろうなって思って。
そうは思うけれど。
大人にはまだまだなれないかもしれないけど。
大人っぽく、くらいにならできないかなとか。
しっかり、したいけど、料理もまだまだだし、アルバイトの仕事だって、まだまだで。
もちろん、綺麗、からは程遠くて。
義信さんに手間かけさせてばっかりで。送迎だって、義信さん、忙しいのにって思うし。
比較はしないようにしてる。
でも、どこか比較はしちゃってる。
背伸びもしたいって思ってる。
そしたら、前に付き合った歴代の恋人さんたちはどうだったんだろうって思った。
最初はただ、義信さんにクリスマス喜んでもらえたらなって思っただけだったのに。
ヤキモチ、なんてしない。
けど俺ももっと、なんていうか――。
「……あまり満足のいく回答はできないかもしれないです」
ただ義信さんにもっと好かれたい。
「義くんに以前、恋人という存在が定期的にいたことは知っています」
ただ義信さんにもっと好きになってもらいたい。
「ですが、その正体はよく知らないんです」
「……ぇ、そう、なんですか? ドイツの人も?」
「ドイツ? とは」
「あっいえっ」
蒲田さんは歴代の恋人さん、知ってるんだと思ってた。
「ドイツ……」
「あ、いえっ、あのっ」
「恋人として、義くんが紹介してくれたのは、汰由くんが初めてですよ」
「……ぇ」
「これで、答えにはなりませんが」
「い、いえっ、なります! なりました!」
本当に? って顔をしてた。
「そう、ですか?」
「は、はいっ」
「じゃあ、あと一つ」
そう言って蒲田さんがまるで名探偵が真実を一つ、告げるように、自信を持って微笑んだ。
「義くん、汰由くんのことをとってもとっても好きですよ。きっとどんな汰由くんでも、義くんはこんな顔して見てると思います」
そして、両手で大きな黒い瞳長い睫毛をパチパチとさせて、小さな顔を綺麗な真っ白な手で挟み込むと、本当に可愛い顔が「台無し」なくらいに、下に引っ張り下げてしまう。
「っぷ、そんなには……」
ちょっと笑っちゃうくらいに。
「そんなことないですよ! 本当に、びろーんって、このくらいびろーんって」
「でも……」
嬉しいな。
「ありがとうございます」
「僕、ちゃんと答えになってます? せっかく相談してくれたのに」
「いえ! すごくなりました!」
だって、蒲田さんはドイツの恋人、知らない。
他の人知らない。
けど、俺のことはこうして知っていてくれる。
それに、さっき言ってたもん。
溺愛しすぎるって、大好きだと過保護になりすぎるって。
お菓子そんなに食べるよう勧められたりしてないけど、ご飯、いっぱい食べさせられたりしてないけど。迷惑なんて、一ミリだって思ったことないけど。
でも、すごく。
ね。
「すごく、ありがとうございます」
「……どういたしまして」
ね、そういうこと、だもん。
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