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セクシーメリークリスマス編 9 帰り道もプレゼント

 たくさん調べちゃった。通販なんてしたことなくてすごく、すっごくドキドキした。  きっと義信さんとかお母さんが俺の検索と閲覧の履歴見ちゃったら、どうしたんだって慌てちゃうと思う。  たくさん見たから。  義信さんを誘惑できるように。  ドキドキさせられるように。  レビューとかも全部読んだりして。何度も何度もたくさん見て探して、選んだんだ。  ピンクのニット、褒めてもらったし、でも、大人っぽくもしたくて、黒いのにした。ちょうど、リボンだけピンクだったから、合うかなって、思って。  それにね、これは神様がくれたプレゼントだと思うんだ。  もしかしたらサンタさんかもしれないけれど。  とにかくどっちだとしても、俺にとっては最高のクリスマスプレゼントで、きっとどんな高級品をもらうよりもずっとずっと嬉しい。  一日、義信さんと一緒にいられる。  アルコイリスの定休日は水曜日。そして、水曜日はクリスマスで、イブはもちろん火曜日で。でも、クリスマス当日はさすがにお店を休めなくて、特別、今週だけ休みが木曜日になった。  それでもいいよ。全然いい。  すごく忙しくて大変だったけど。  クリスマスに特別営業したら、常連さんから働き者ねって褒めてもらえて、クリスマスプレゼントもらっちゃったし。クリスマスギフトを一緒に選んで買う、お客さんの笑顔をたくさん見ることできたし。  それに――。 「さ、汰由、お疲れ様」 「は、はい」 「もう帰る準備はいい?」 「はい!」  元気に返事をして、俺は自分のカバンをぎゅっと抱き抱えた。  お泊まりセットと、その、しっかり選んで買ったランジェリーを詰め込んだカバンを。  俺にとって最高にめちゃくちゃ嬉しくてたまらないクリスマスプレゼント。お客さんからいただいた楽しい時間もだけど。  義信さんと一日中一緒にいられる。 「じゃあ、帰ろうか」 「! はいっ」 「今日は疲れただろ?」 「全然」  一日遅れのクリスマスプレゼント。  嬉しくて嬉しくて、勝手に緩んじゃう口元をキュッと結び直しながら、外に飛び出した。  はぁって息を吐くと真っ白に変わる。夜のツンと冴えた冷たさが、有頂天でポカポカしているほっぺたにはちょっと心地良い気がした。 「やっぱり冷えるね」 「はい」 「もう大学は休み、だね。クリスマスから休みなのはラッキーだ」 「はい! 課題もばっちりなので」 「それはすごい」 「だからバイト、たくさん入ります」 「それはありがたい。けど、デートもしようか」 「! もちろんですっ」  二人のおしゃべり分、ふわりふわりって白い雲が立ち込める。 「夕飯、レストランじゃなくてよかった? クリスマス」 「全然」 「と言っても、もうこの時間からじゃ……急いで食べないとだけど」 「二人っきりがよかったので」  素敵なディナーとか、じゃなくて全然いいんだ。義信さんとならどこでもいい。それがファミレスでも、なんでも。でも、二人だけで、が一番嬉しかった。 「カップラーメンでもいいです!」 「あはは、それは面白いな。でも、キャンプで食べるカップラーメンは最高らしいよ? 佳祐が言っていた」 「そうなんだっ、でも寒い冬なら美味しそうです」 「汰由となら、なおさらだ」  その一言に、飛び上がりたくなるくらい、胸のところがギュッとした。それをわかってるみたいに、外を並んで歩く義信さんが笑ってくれる。口元を緩めて。きっと真冬じゃなかったら薄暗い夜道じゃわかりにくいかもしれなかった。でも、真冬で真っ暗で、真っ白な吐息がふわりと漂ったから、わかっちゃった。笑顔になったって。  俺、義信さんのこういうところ、すごく好き。  否定しないとこ。カップラーメンでもいいって言ってさ、え、クリスマスにカップラーメンなんてって思わないところ。出会い方は最悪だったはずなのに、バカなことをしたって、あれを汚点にしないでくれるとこ。嫌われたって仕方がないのに。あの時だって、優しく俺のこと庇ってくれて守ってくれた。そういう人だから、かっこいいだけじゃなくて、全部、丸ごと本当に好き。  だからこうして一緒にいられるだけでも、いつでも「嬉しいな」ってなる。  義信さんと一緒にお店を出られるだけで。  たまに、まだお仕事残ってて、けど、もう遅いからって帰らなくちゃいけない時がある。そんな時は、俺を送るのだって時間取られちゃうから、大丈夫ですって、平気一人で帰れますって言うけれど、それでも送ってくれる。そんな時は鍵はかけるけど、また戻ってくるでしょ? だからお店の明かりはつけたまま。またここに戻ってくるんだ、一人でお仕事の続きしなくちゃいけないんだって、思う。  だから、こうして一緒に帰るだけで、お店の明かりを消して、鍵をかけるところを見られただけで嬉しくなる。  もう一度、この道を今度は一人で引き返すのじゃなく、このまま一緒に駅へと向かうだけで、すごく。 「でも、ちゃんとクリスマスディナーにしたから。チキンとケーキも」 「ありがとうございます」 「どういたしまして」  すごく嬉しくなる。  この一瞬ずつが僕のクリスマスプレゼントなんだ。

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