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ヤキモチエッセンス編 8 大人げない大人

 映画、何がいいかなぁ。  まだ決めかねてるんだよね。  ドラマをおうちで見るのもいいなぁ。  一緒に観たいドラマ、っていうか、この前見始めたドラマの続き気になるんだよね。やっぱりおうちでのんびりしますか? って言う? でも映画デートも捨てがたいなぁ。いつもは忙しくなっちゃうからって、おうちでゆっくり過ごすんだよね。あんまり泊まりでのデートってしないから。  どうしよう。  いつもみたいにおうちでまったり、ドラマの続きを観るか。  お外で映画を観るか。  うーん、迷う。  もう講義終わっちゃったのに。  と、考えていたら、そこでチャイムが鳴った。 「!」  と、同時にスマホを取り出して、義信さんに講義終わりましたってメッセージを打って。 「あはあ、やっぱ。アルコイリス定休日はいつも以上に帰るの早い」 「!」  晶だ。  俺がチャイムと同時にスマホを握り締めてるのを見て笑ってる。いつも大学の後は義信さんのところでアルバイトがあるから、急いで帰るんだ。早く会いたいし、早く義信さんのお手伝いがしたいから。でもお店が休みの日は、もっと早くに帰りたい。  早く帰って、彼氏と、イチャイチャしたい、なぁって。 「ほんと、ずっとラブラブじゃん」 「うん」 「すごいよね。飽きない?」 「全然飽きない」  即、断言するとまた笑ってる。 「ほら、早く行きなよ」 「あ、うん」 「あ、汰由、明日の代出は?」 「! して欲しいけど」  そしたら、俺、もっと長く義信さんといられる。 「でも、義信さんに怒られちゃうから」 「あはは」  そんなことしたらたくさん叱られちゃう。うちの親のことも、俺のことも、俺との将来のことも、全部、丁寧に大事にしてくれるから、大学をズルお休みなんてしたらダメなんだ。  だって、この恋はずっと続く、ちゃんとしたやつだから。  だって、俺の恋人は、将来もずっと一緒にいてくれる、パートナーになる人だから。  だから、今日、うんと楽しんで、明日、元気に大学に来るためにも、大急ぎで義信さんのところへ駆けて行った。  大学の、問を出て、ちょっと離れた、いつもの場所にいてくれるって。  歩きスマホはよくないから、キキーってブレーキをかけて立ち止まり、メッセージを確認していた。  義信さんは映画、何か観たいの決めたのかなぁって思いながら。 「あの、えっと、この間はっ」 「……?」  名前は呼ばれてないけど、呼び止められた? って、なんとなく振り返った。 「あ、あのっ」 「……ぁ」  そのTシャツ。 「あの、この前、お店に……今日、お礼を言おうと思ったんだけど、講義終わったと思って声かけに行ったんだけど、もういなくて」 「……ぁ、ごめん」 「帰っちゃうとこかもって、追いかけて」 「そんな、いいのに。Tシャツ気に入ってもらえたみたいでよかった」 「あ、うん」 「でも、カーディガンとか合わせないと寒いでしょ」 「ぁ……えと」  まだ三月の終わりは、いくら日が出ていて快晴だって言っても、半袖Tシャツだけじゃ寒そうだよ。  そして、彼も寒いのか肩をすくめてた。  気に入ってくれたのかな。  わざわざ見せに来てくれるくらいに。  手ぶらだから、多分、どこかに荷物を置いたままだよね?  構内に戻らないのかな? って、不思議そうに見つめていると、もっと肩をすくめてる。 「あ、あのっ、名前をっ」 「?」 「そのっ」 「こんにちは」  低くて心地いい声が、ポトン、って水面に小石を投げ込むみたいに、聞こえた。 「義信さん!」 「勉強、お疲れ様」  いつもは門からは見えないところで待ってるのに、今日は、ここまで迎えに来てくれた。車はいつもの、ほら、あそこ、門を出て、少し遠くを探すとわかる所に停まってる。 「……この間は店に来てくれてありがとう」 「! あ、いえ」 「また是非いらしてください」 「……ぁ……はい」  いいな。なんだか、羨ましいって思った。義信さんに、また来てくださいなんて挨拶してもらえるのが。 「行こうか」 「! はいっ、それじゃあ、また、明日大学で」 「ぁ、うん……」  振り返って、彼へ手を振った。彼のほうも小さく手を振り返してくれて。次、もしも彼がまたアルコイリスに来てくれることがあったら、カーディガンをオススメしたいなぁって考えてた。 「………………汰由」 「? はい」 「ちょっと、ここで待ってて」 「? はい」  どうしたんだろうって思いながら、でも、言われたとおりに、ここで立ち止まった。  義信さんがそんな俺をじっと見つめてから。 「はぁ、大人げない」  そんなことを呟いた。ちっとも大人げないところなんてないのに、どうして溜め息混じりにそんなことを言うのだろうって、首を傾げたら。  義信さんが颯爽と彼の元へと歩いて行ってしまった。 「彼は知咲くん」  彼が、びっくりしてる。 「うちの店で、君が来てくれたあの服屋でアルバイトをしてもらっている」  目を丸くして、突然の出来事に、フリーズしてる。  あ、でも、やっぱり義信さんの方が背、高かった。。同じくらいかなぁって思ったけど、義信さんの方が数センチ高い。彼も大学では背高いなぁって思ったのに。すごいなぁ。義信さん、本当にかっこいいなぁ。 「それから、僕の大事な恋人でもあるから、ちょっかい」  え? えぇ? あの義信さん? 「かけないように」  え? あの、そんな、なんで、彼に? えと、あの。 「汰由、ごめん。待たせたね」  俺は突然の義信さんの宣言に口をパクパクさせて狼狽えてた。だって、そんな宣言をいてくれるなんて思ってなかったから。あんなにかっこいい人の恋人がこんな未熟な大学生だって、言ってもらえるとは思ってなくて。嬉しくて、たまらなくて、頬が真っ赤になってくのが自分でもよくわかる。  それに、びっくり、したんだ。 「行こうか、汰由」  振り返ってこっちに戻ってくる義信さんが顔真っ赤にしてたから。 「どっちにしても大人げなかったな……」  そう呟いて、溜め息を一つ溢して、苦笑いを溢してたから。  彼の方へ振り返ると、彼も真っ赤になっていて、三人とも、真っ赤で。 「義信さんはかっこいいです」  俺は嬉しくて、幸せで、気持ちと一緒にぴょんって跳ねるように義信さんの隣にくっついて歩いてた。

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