19 / 61
19.*****
「もう、学校ではシないよ。ここに帰ってきてからシよう」
「そりゃありがたいけどさ。先生、我慢できんの?」
ニヤッと意地悪く、いやらしい目を向けて言う芯。後でお仕置きだ。
僕は、抱えているリスクを説明し、これからも芯と生きていきたいと言った。芯は『何それ、プロポーズじゃん』と揶揄ったが、僕は本気だったのだ。かなりの勇気を振り絞った。
けれど、芯はまともに取り合おうとしない。
「ここに居る間だけな。俺もちゃんと恋人やるから。飯と風呂とセックスの対価だもんな。頑張るから安心しなよ、セ〜ンセ」
そうじゃないんだ。
全て、軽く流してしまう芯。何度本気だと言っても、テキトーにあしらわれる。これじゃダメなんだ。
僕は芯をベッドに呼び、僕に跨るよう指示をした。僕がどれだけ本気なのか、そろそろちゃんと教えなければ。
毎回はぐらかされてしまう。いい加減、想いが伝わってほしい。そうするには、僕は犯す以外にやり方を知らない。
月曜日。芯と学校ではシなかった。何度か誘惑するような態度をとってきたが。それは帰ってからお仕置きするとして、目下の課題は芯に本気だと思ってもらう事。
昨日、目隠しをしてブジーをグリグリしながら『僕が本気だって、分かってくれた?』と聞いた。すると、泣きながら『何が本気か分かんねぇよ。先生だって、俺の身体で遊べたらいいんじゃないの?』と言われた。
芯は、まさか自分が本気で誰かから愛されると思っていないらしい。求められるのは身体だけだと思っているようなのだ。
初めて芯と過ごした週末、どうにか僕の本気が伝わるよう行為に及んだ。と言うか、及びっぱなしだった。
それで得たものと言えば、芯の心に巣食う否定感と、僕以外にもお世話になった人が居るという事。年上の女性で、芯曰く羽振りのいいお姉さんだったらしい。もう、連絡先も知らないと言う。
嫉妬心に火をつけられ、朝方まで犯したのは少し大人げなかったと反省している。僕以外といかがわしい行為をしない、僕以外には頼らないと言わせたので、ひとまずは様子を見よう。
それでも芯は、まだ僕らの関係を“ごっこ”だと思っているようだ。おそらく、愛というものを感じずに生きてきたのだろう。本当に厄介な子だ。
「なぁ、絶倫先生」
「芯、学校でその呼び方はマズイね」
いくら生徒指導室で2人きりだとしても、油断をしてはいけない。ささいなミスが命取りになるのだから。
「うるせぇ。誰も居ないだろ」
「壁に耳あり障子に目ありだよ。気をつけて」
「俺はバレても別にいいけど」
「僕は困る」
芯と居られなくなるじゃないか。僕がどれほどそ れ を恐れているのか、僕の想いに向き合わない芯には想像し得ないのだろう。
「あっそ。それよかさ、声出ねぇのマジで困んだけど」
週末、散々泣き喚かした所為で、芯の可愛い声が随分とハスキーになってしまった。これはこれでセクシーだけど、芯の機嫌が悪くなってしまうのはいただけない。
「それは····ごめん。気をつけるよ。声、出させ過ぎたね」
「ヤリ過ぎなんだよ! もうちょい加減とかできねぇの? ったく、童貞かよ」
芯には絶対に内緒にしたいのだが、僕のハジメテは芯だ。加減なんて、僕に分かるはずがない。
「加減、か····。なら、声出せないようにしたらいいよね」
「······こっわ」
芯は若干引いていたが、それでも僕の家に来るということは、そういう事なのだろう。僕は、今日も芯に愛を囁く。
夕飯を食べて芯を綺麗にして、今夜も泣かせてしまう。もっと大切にしたいのに、こんな愛し方しか知らない。
愛し合えば、泣かさずに交われるのだろうか。芯が僕を愛してくれれば、芯は泣かなくなるのだろうか。
──僕は愛していたのに、彼からは愛してもらえていなかったようで、最後まで泣いていた──
芯が泣くと、あの頃の自分がフラッシュバックする。あの頃とは逆なのだが。
泣いて汚れて眠る芯。綺麗にして、赤く腫れた瞼に口付ける。贖罪のキス。
反射で目をキュッと瞑り、掠れた声で『ん····』と漏らす。その直後、小さくか細い声で、薄らと空気を漏らすように『○○』と聞こえた。僕の名前だ。
聞き間違いだろうか。久しいその響きに、心臓がわし掴みにされた。その瞬間、呼吸が上手くできなくなって、蹲るように芯の上へ倒れ込んだ。
ともだちにシェアしよう!