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19.*****

「もう、学校ではシない。ここに帰ってきてからシようね」 「そりゃありがたいけどさ。先生、我慢できんの? つか、俺がここに帰ってくんの決定なんだ」  意地悪くにたっと笑い、いやらしい目を向けて言う芯。後でお仕置きだ。  僕は、僕たちが抱えているリスクを説明し、最後に『これからも芯と生きていきたい』と言えた。芯は『何それ、プロポーズじゃん』と揶揄う。  僕は本気だった。それなのに、芯はまともに取り合おうとしない。掻き集めて振り絞った勇気は、虚しく空回りして散った。 「はいはい、そういう感じな。ここに居る間はちゃんと恋人やるから安心しなよ、セ〜ンセ♡ 飯と風呂とセックスの対価だもんな」  そうじゃない。そんな風に思ったことはない。そう伝えても無駄なのだろうと、僕は口を噤んでしまった。  全てを軽く流してしまう芯だもの。何度本気だと言っても、テキトーにあしらわれる。あぁ、これではダメだ。  僕は芯をベッドに呼び、僕に跨るよう指示をした。僕がどれだけ本気なのか、そろそろちゃんと教えなければ。  毎回はぐらかされてしまう事に、いくら温厚な僕でも苛立ちを覚える。いい加減、想いが伝わってほしい。そうするには、犯す以外のやり方を僕は知らない。  月曜日。約束通り、学校ではシなかった。寝起きの芯を中途半端に犯したからか、芯は何度か誘惑するような態度をとってきたが。  それは帰ってからお仕置きするとして、目下の課題は芯に本気だと思ってもらう事。  昨日、目隠しをしてブジーをグリグリしながら『これはね、芯が僕に堕ちて縋ってくれるように躾てるんだよ。僕が本気だって、分かってくれた?』と聞いた。  すると、泣きながら『本気ってなんだよ!? 何が本気かとか分かんねぇよ····。ひっく··先生だって、俺の身体で遊べたらいいんじゃないの?』と言われた。  これには酷く落胆して、同時にカッと腹が立った。  芯は、まさか自分が本気で誰かから愛されると思っていないらしい。求められるのは身体だけだと思っているようなのだ。  初めて芯と過ごした週末、どうにか僕の本気が伝わるように行為に及んだ。と言うか、及びっぱなしだった。  それで得たものと言えば、芯の心に巣食う否定感と、僕以外にもお世話になった人が居るという事。かなり年上の女性で、芯曰く羽振りのいいお姉さんだったらしい。けれど、今は連絡先も知らないと言う。  嫉妬心に火をつけられ、朝方まで犯したのは少し大人げなかったと反省している。僕以外といかがわしい行為をしない、僕以外には頼らないと言わせたので、ひとまずは様子を見よう。  それでも芯は、まだ僕らの関係を“ごっこ”だと思っているようだ。おそらく、愛というものを感じずに生きてきたのだろう。本当に厄介な子だ。 「なぁ、絶倫先生」 「芯、学校でその呼び方はマズイね」  いくら生徒指導室で2人きりだとしても、油断をしてはいけない。ささいなミスが命取りになるのだから。 「うるせぇな。誰も居ないだろ」 「壁に耳あり障子に目ありだよ。気をつけて」 「俺はバレても別にいいけど」 「僕は困る」  芯と居られなくなるじゃないか。僕がどれほど()()を恐れているのか、僕の想いに向き合わない芯には想像し得ないのだろう。 「あっそ。それよかさ、声出ねぇのマジで困んだけど」  週末、散々泣き喚かせた所為で、芯の可愛い声が随分とハスキーになってしまった。これはこれでセクシーだけど、芯の機嫌が悪くなってしまうのはいただけない。 「それは····ごめん。気をつけるよ。声、出させ過ぎたね」 「ヤリ過ぎなんだよ! もうちょい加減とかできねぇの? ったく、童貞かよ」  芯には絶対に知られたくない事のひとつなのだが、僕のハジメテは芯だ。加減なんて分かるはずがない。 「加減、か····。なら、声出せないようにしたらいいよね」 「······こっわ」  芯は若干引いていたが、それでも僕の家に来るということは、そういう事なのだろう。僕は、今日も芯に愛を囁く。  夕飯を食べ芯を綺麗にして、今夜も泣かせてしまう。もっと大切にしたいのに、こんな愛し方しか知らない。  芯が僕を愛してくれれば、芯は泣かなくなるのだろうか。愛し合えば、泣かさず苦しめずに交われるのだろうか。  きっとそうなるのだと信じて、僕は今日も芯を痛いほどの愛で包み込む。   ──僕は愛していたのに、彼からは愛してもらえていなかったようで、最後まで泣いていた──  芯が泣くと、あの頃の自分がフラッシュバックする。あの頃とは、立場が逆なのだが。  泣いて汚れて眠る芯。綺麗にして、赤く腫れた瞼に口付ける。これは贖罪のキス。  反射で目をキュッと瞑り、掠れた声で『ん····』と漏らす。その直後、小さくか細い声で、薄らと空気を漏らすように聞こえた。それは、僕の名だ。  聞き間違いだろうか。久しいその響きに、心臓がわし掴みにされた。その瞬間、呼吸が上手くできなくなって、蹲るように芯の上へ倒れ込んだ。

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