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20.###
「ゔっ··重····」
また気ぃ失ってたんだ。先生、マジで執拗いからな。
で、なんか重いんだけど。
「····え? 先生!? ちょ、どしたんだよ。何、なんかの発作!?」
胸元を掴んで俺の上で蹲ってる。よっぽど苦しいのか、ボロボロ泣いてんだけど。救急車呼んだらいいのかな。
「なぁ、息できる? 救急車呼ぶ?」
「ヒュッ····ハ、ァ··ハァ····フゥ····だい··じょ、ぶ」
「どこがだよ。病院連れてってやろっか?」
「ダメッ!」
すげぇ必死そうな表情 で、力一杯俺の肩袖を握る。
「なっ··なんでだよ! 苦しいんだろ!? 心臓とかだったらヤバいじゃん」
「違う、から····。ちょっと··トラウマで、苦しくなっただけ····」
息もできなくなるようなトラウマってなんだよ。PTSDとかってやつな。めっちゃビビんだけど。
「はぁ····。しょうがねぇな」
先生の頬を包み持って、女の子をオトす時にしかしない、甘いキスをしてやる。すげぇ不本意だけど。
俺のコト、散々好きだとか言ってんだからちょっと落ち着く····いや、逆効果かな。心臓爆発したら笑ってやろ。つっても、マジで死なれたら困るからな。仕方ねぇよな。
いつも、ガツガツ食うみたいなキスしかしてこない先生に、ついでだから甘いキスを教えてやる。
「ん····」
徐々に震えも落ち着いて、俺の舌に反応できるようになってきた。ゆっくり、吐息を絡め合いながらするエロいキス。
先生もこれで、ちょっとはキスが優しくなればいいのに。
「····落ち着いた?」
「んぇ?····あぁ、うん。大丈夫、ごめんね。あ、ありがとう」
なんか今、すげぇ蕩けてなかった?
あんな受け身な先生、初めて見たんだけど。まだパニクってんのかな。まぁ、死なねぇんなら何でもいいか。
「いいよ、こんくらい。で、なんで病院行くのあんな拒否ったんだよ」
「それは····えっと、僕たちの事、バレる··と困る、から····」
「あ〜、ははっ。まぁ、首飛ぶだろうしな。下手すりゃ逮捕だ」
大人なんて、いや、人間みんな自分が可愛いんだ。保身の為に上手く生きようとしてる。
人生が下手くそなやつは、俺や親父みたいにダメになっていくんだ。先生もきっと“先生”じゃなくなる事に、それか普通の人生が終わる事にビビってんだ。
コイツの人生を終わらせたいとか、そこまでの事は思ってない。むしろ、特別扱いされた礼だと思って、しらばっくれるくらいはしてやんのに。バカじゃねぇ?
保身なんてもんは生きててこそだろ。強がって必死こいて隠したって、死んだら何にもなんないじゃん。
「そうじゃ··ないよ。芯と、居られなくなるでしょ」
············は?
····はぁぁぁぁぁぁぁ!!?
どういう意味だよ。俺との関係がバレたら、逮捕されたりするから困るんじゃねぇの?
俺と居られなくなるから何なんだよ。別に俺は困らねぇし。飯食えなくなんのと、居心地の悪い家に帰らなきゃなんねぇのは困るけど。それだけだし。
先生と居られなくなるのが困るとか嫌だとか、そんなはずはない。そんな感情、俺は持ってない。
先生は俺と居たいって言うけど、俺はそういうのが分かんねぇ。女の子は可愛いし気持ち良いけど、面倒臭ぇからずっと一緒に居たいと思った事なんかない。
誰かと一緒に居たいって何だ。そういう感情がどこから発生すんのか、何の為にそうしたいのかも分かんねぇよ。好きだから? 好きってなんだよ。
先生は、俺が理解できない事ばっか言う。一緒に居ると落ち着かないのは、多分そういうところだ。
「芯····。僕の事、どう思ってる?」
どうって、何が?
衣食住と性欲を満たしてくれる、都合のいい大人。それ以上でも以下でもない。
「僕と居るの、嫌?」
······嫌じゃない。
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