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21.*****

「芯····。僕の事、どう思ってる?」  どんぐり眼で、僕の言葉の意味を咀嚼する芯。戸惑いながらも、何かを考えている仕草を見せる。 「僕と居るの、嫌?」  悪い気はしていない。そんな顔をしている。けれど、自分ではそれを理解していないようだ。  僕と居るのは、利害の一致だと思っているのだろう。僕の想いも本気にしていなかった。ついさっきまでは。  だけど、僕の言葉の節々に違和感を抱き始めている。あしらえなくなって、自分の感情に戸惑って、僕の言葉の真意を探り始めた。そんなところだろうか。  僕は、呼吸を整え芯を組み伏せる。そして、芯の肩に(かぶ)り付く。  芯を食べたい。その一心だった。 「い゙っ··あ゙ぁ゙っ····い゙っでぇ······んぎゅぅぅ····先生(せん゙しぇ)、肉··千切ぇぅ····」  僕は、さらに歯を食い込ませる。ブチブチッと肉にメリ込み、鉄っぽさが口から鼻に抜ける。とても興奮する味だ。  芯が震えている。もう駄目だ。やめなくちゃ。それでも僕は、トドメにグッと力を込める。 「んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!」  僕は、芯の煩い口を塞ぎ、そっと牙を抜いた。レロッと噛み痕を舐める。 「んんんっ!! んんーっ!!!」  滲む血を強めに舐めとると、芯は大粒の涙を流しながら悶える。鼻水と涎で、僕の手がぐしょぐしょだ。  あまりに苦しそうなので、『静かにしてね』と耳元で注意してから手を離した。 「ぅ··ひっく····汚ぇから··手ぇ舐めんなよ。マジでキモい····。ぅ゙ー···肩(いて)ぇ····」  芯から出たものが汚いわけないと、何度言えば覚えるのだろう。口の周りに付いた芯の血を、指で拭って舐めるとまた『キモい』と言われた。まったく、態度とは裏腹に照れ屋さんなんだから。    芯の心が、少しだけでも僕に傾いたのだと思い興奮してしまった。また、芯に酷い事をした。綺麗な身体に傷をつけてしまった。僕の痕····。  肩を手当しながら何度も謝ったが、芯はムスッとしたまま口を聞いてくれなくなった。嫌われてしまっただろうか。  不安になった僕は、少し血の滲むガーゼに手を添えた。 「ん゙っ··ってぇ····触んなよ!」  後悔と自責の念に駆られ、声を出せないままそっと芯を抱き締める。どうして、僕は芯を大切にできないのだろう。  しょぼくれた僕を見て、芯は溜め息を吐いてこう言った。 「センセ、晩飯食いに連れてってよ。めっちゃ美味いの。今日は肉食いたい」  噛んだ詫びにと言われれば、断れるはずがない。  芯には少し大人びた服を着せた。普段より落ち着いた雰囲気になり、ギリギリ成人しているように見えなくもない。  そして、芯の知り合いなど居るはずがない、少し離れた所に在る馴染みの店へと向かう。  焼肉をたらふく食べ、満足そうな芯。隣に座らせれば、堂々と触れ合えるのが個室の利点。リスクは否めないが、たまにはこうして過ごすのも悪くない。  流石の僕も、外で芯を傷つける事はしない。それに気づき、安堵の溜め息を漏らす。 「なんだよ、でっかい溜め息吐いてジジくせぇの」 「ジジ······」 「つぅかセンセ、全然食ってなくね?」 「僕、少食だから。芯お腹いっぱいになった?」 「なった。けど、デザートも食う」 「好きなだけ食べていいよ。この後、吐くだろうけど」  メニューを開いて見せながら言うと、子供らしい笑顔から一転、ゲンナリしてしまう芯。 「食ってる時にそういう事言うなよな····。たまにはさ、吐かないようにできねぇの?」 「うーん····加減って難しいよね。芯がもっと素直になってくれたら、あんなに酷い事しなくて済むと思うんだけどな」 「は? 素直ってなんだよ。俺、最近めっちゃ素直じゃん」  酷い快楽と痛みから逃れるために、芯は素直になる事を覚えた。おそらく、それの事を言っているのだろう。けれど、僕が求めているものとは違う。 「そうだね。でも、そうじゃないんだよ」 「は? ····意味わかんねぇんだけど」  不機嫌な芯だが、デザートが運ばれて来た途端、意気揚々とアイスにスプーンを突っ込んだ。おかわりをするほど気に入ったらしい。  幸せそうにアイスを頬張っているところ申し訳ないが、そろそろ帰りたい。芯が予想外に沢山食べるから、嫌な時間になってしまった。  芯が食べ終えるのを待ち、僕はそそくさと店を出た。少し急かした所為か、芯が訝しげな目で見てくる。

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