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 マジで店員が注文を聞きに来た。そりゃ呼んだんだから来るよな。  俺は極力顔を見られないように、俯いてやり過ごすつもりだった。なのに、調子こいた先生が声を掛けてくる。 「芯はブリュレでいいの?」 「んぇ? あぁ、うん」  声が上擦った。クソ恥ずかしいんだけど。後で絶対(ぜってぇ)仕返ししてやっからな。  顔が火照んの治まんねぇ。無駄に長い足で、ちんこ踏んできやがんの。バレたら俺より困るくせに、マジでイカれてんじゃねぇ?  店員が扉を閉めた瞬間、つま先でタマをぐりっと潰された。これ、吐きそうになるからやめろつってんのに。 「··っ、ぐぅぅ··やめろって····。バレたらどうすんだよ。俺··マジでこれ以上声我慢できねぇかんな」 「バレたら····芯を担いでお金置いて逃げようかな。それから、車に投げ入れて犯す」  この人のテンションどうなってんだよ。どういう精神状態でいってんの?  メシ食い始めた頃は、この世の終わりかってくらいしょぼくれてたクセに。1回スイッチ入ったらこれかよ。 「はぁ····。犯す前にどっかテキトーに逃げろよ。先生ってさ、頭良さそうなのにバカだよな」 「芯は、頭悪そうに見えるけど実は賢いよね。と言うか、聡いんだろうね。機転も利くし、何が起きても案外冷静だし。僕が周りを見れてない時、結構頼りにしてるよ」  テーブルに肘をつき、組んだ手に顎を乗っけてにこやかに言う。褒められてんのかバカにされてんのか分かんねぇけど、いつものちょっと嫌味な感じが復活してきたっぽい。  ウザイけど、一安心····でいいのかこれ。 「マジか、しっかりしてくれよ。つか、先生は予想外に頼りねぇよな。あんな鬼畜みたいなセックスする割に、スイッチ入んねぇと素はめっちゃヘタレだし。マジでさ、気が弱いクセにすぐ理性飛ぶの厄介すぎ」  まぁ、気持ちよくなったら理性ぶっ飛ぶのは俺もだけど。  生徒指導室に入り浸ってる時、人が来たら仮眠室に隠れてやり過ごしてたんだけど、先生が“先生”してんの見て分かった事がある。  冷たいのかと思ったら、それ以前に関心がないだけなんだよな。マニュアル通りってわけじゃないんだけど、対応が事務的っつぅか、さっさと解決して帰らせようとしてんのがすげぇ分かる。  けど、評判はいい。特に女子からは。相談に来んのも大多数が女子だし。本人にその自覚は無いみたいだけど、俺は面白くなかった。無自覚でモテる奴ってウザイよな。 「あはは··。凄い言われようだね。どれも言い返せないのが情けないや。芯は、思ってたよりもずっと強いよね。精神的に、もっと脆弱なのかと思ってた。遠目に見ていた芯はね、思春期ならではのほら····幼稚にツンツンしてたり、イキがってるんだとばっかり··ね」  すげぇ一気にディスってくんじゃん。憂い気な目で網見つめて何言ってんの?  マジで1回はっ倒してやろうかな。 「ごめんね。けど、知れば知るほど違うのが分かって、それと同時にどんどん魅力的に見えて惹かれていったんだ」  はっ倒すのはやめてやるけど、今度はクソ恥ずかしくて殴りたくなってきた。反射的に暴力に訴えようとすんの、マジでやめねぇといつか先生に手出そうだわ。 「僕の弱い部分を、過去さえ知ってもなお、好きだって言ってくれたのは凄く嬉しい」 「ふーん。別にさ、過去とかそんなんどうでもいいじゃん。んな事言い出したら俺だって同じじゃん? たぶん一般的なのとは違う家庭環境だったり、その··色々されてたりとかさ、腹いせっつぅか気晴らしっつぅか··まぁ、遊んだり利用したりってのもさ、先生は受け入れようとしてくれたじゃん」  先生が俺を囲い始めた理由。そういや、俺を助ける為だったんだよな。  未だに親父から連絡はない。多分、帰ってない事に気づいてすらねぇんだろうな。  予想通りすぎて笑えてくる。けど、俺を必要としてくれる先生と居るから、そんなのどうでもよく思えんのかも。  現に、アイツが野垂れ死んでようと、なんの感情も湧かない。俺の中では、もう居ないもんだと思ってる。  先生は『お互い様だね』と言って、哀しそうな目を伏せてふっと笑う。そんで、俺の目を真っ直ぐ見つめて、大人の顔でこう言った。 「芯、卒業しても僕の傍に居て。これから、何があっても僕から離れないで。一生、芯を檻に閉じ込めておきたい。鎖で繋いでおきたいんだ。他人の目に晒したくない。誰にも、可愛い芯を見られたくない。大事に飼ってあげる。だから、僕が死ぬまで僕だけを見てて」  すげぇプロポーズだな。普通だったら怖がられて即拒否られんぞ。なのに、一瞬気持ちがぶわっと熱くなったのは、俺も頭がおかしいからなのかな。 「一生檻ン中はやだ。たまには飯食いにデートしようぜ」 「する! あぁ··えっと、後でちゃんとホテルに連れて行くから、そこで本気で虐めて(可愛がって)あげる。そうだ、いつも加減できなくてごめんね。朝方には帰るようにするからね」  テンパる先生。オッケー貰えると思ってなかったのかな。ちょっとイカレてる程度だし、むしろ断る理由なくね?  つぅか、プロポーズのオッケー貰って、直後にホテルで犯すねってなんだよ。めっちゃ面白いんだけど。どんだけテンパってんの?  真顔でワタワタする先生がすげぇ可愛い。ダメだな。俺も相当脳が侵されてる。おしぼり持って置いてって、何回すんだろ。パニクってる先生は見てて飽きねぇや。  そんな中、注文してたブリュレが来た。今度は、受け取った先生の声が上擦ってる。ざまぁみろ。  これ食っても、後で全部吐かされんだろうな。とか思いながら食う飯でも、食ってる時は美味い。  吐くのも気持ちいいから別にいいんだけど、やっぱ勿体ねぇよな。俺を丸々太らせるとか前に言ってたけど、体重はほとんど変わってない。そりゃ、食っても吐かされてるんだから意味ねぇよ。  それを先生に言ったら、めちゃくちゃ渋い顔で『善処するね』つってた。面白いから『好きにすれば』って言ったら、『芯はバカだね』とか言いやがんの。  やっぱムカつくんだけど。それでも、先生の笑顔見たら、そこまで怒れねぇのが不思議だわ。

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