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42.*****

 勢いで、思わずプロポーズまがいの事を言ってしまった。それに対して芯は、合意とも取れる返事をくれた。  芯がデザートを食べ終えるのを待つ。が、舞い上がった僕はウズウズするのが止まらない。店を出ると、今度は僕から芯の手を握った。驚く芯に笑いかけると、照れて俯いてしまった。  愛らしい芯を車に乗せ、近くのホテルへ連れ込んだ。明日は月曜日。朝方には、一度家に帰らなければいけない。6時間もあれば、ある程度満足できるだろうか。  それまで、芯が泣いて嫌がっても、離してあげられないかもしれない。芯には悪いが、頑張ってもらおう。 「······で、ここ何?」 「何って、ホテルだよ。····ホテル、初めてじゃないくせに」  大人気なく嫉妬心を剥き出しにしてしまった。面倒臭いと思われるのだろうか。 「いやいやいやいや。あのさ、俺普通のホテルしか行ったことねぇの。こう言う()()なトコは初めてだから」  特殊····とは、何がだろうか。ここは昔、一度だけ奏斗さんに連れてこられた事があって、丁度近かったから来たのだけれど。  奏斗さんに呼び出されるホテルは、どこもこういう仕様だったから、これが普通なのだと思っていた。しかし、どうやら一般的にはそうでないらしい。  奏斗さん以外と経験のない僕には、それは知り得ない事だった。 「普通って、どんなの?」 「雰囲気のある部屋にそれっぽいベッドがあって、あと軽い玩具(オモチャ)とかはある。けど少なくても····こういう特殊なセットはねぇよ」  部屋を見回して言う芯。誰と行ったどんな部屋を思い出しているのかは知らないが、不愉快極まりない。  きっと僕は今、嫉妬で歪んだ表情(かお)をしているだろう。芯がどんな感情で言っているのか確認できない。  それはともかく。部屋に入るなり血の気の引いた芯の顔は可愛かったが、どうしてそんな顔をしたのか不思議だったのだ。  けれど、芯の話を聞いて合点がいった。どうやらここは、SMプレイ専用のホテルらしい。  洗浄と入浴を済ませ、芯の四肢を鎖に繋いで拘束する。 「なぁ、いきなりこれ? いきなりすぎじゃねぇ? 1回くらい普通のセックスしようよ」 「んー····普通··か。分かんないや」  可愛いお誘いをしてくれる芯には悪いが、話しながら早速貞操帯を着ける。今日はフラットなタイプの物だ。芯は初めて見るらしく、キョトンとしている。  乳首はピンチで挟んでおく。ピンチの先には重りと鈴が付いている。両方の乳首がチェーンで繋がっているタイプと迷ったが、芯にはこちらが似合うと思ったのだ。  案の定、痛みに歪む表情とチリンチリンと鳴る鈴が、愛らしさの相乗効果となっている。コレにして正解だった。  このホテルにした理由はもうひとつある。この拘束している(はりつけ)台が、上下回転するのだ。口を犯しやすい。それだけなのだが、芯は悦んでくれるだろうか。  下準備を終え、いよいよ回転させる。浮かれていた僕は説明するのを忘れ、芯を怯えさせてしまった。けれど、その表情に興奮して、そのまま咥えさせた。  ゆっくりと喉奥を拡げていく。そうだ、吐かないように加減をしてあげなくては。大切な事を思い出した僕は、慌ててまた半回転させる。ついでに説明をしてあげよう。  涙目の芯。咳き込むのが落ち着くと、物凄い剣幕でキレかかってきた。 「バッッッカじゃねぇの!? 善処するつったんどの口だよ! つぅか頭に血ぃ昇るから! 死ぬから! マジでバカじゃねぇ? ひっくり返す前にさ、説明しろって言ったの聞こえてなかっただろ。俺何回も言ったんだけど。鼻歌歌ってルンルン色々仕掛けてんじゃねぇよ。乳首のコレ何? クッソ痛いんだけど。見た? 回転した時ジャラッてなったの。乳首千切れるって、マジで。マジで! あとコレが1番説明欲しい。ちんこのコレ何? マジで何? どうなってんの? 俺の大事なちんこ無くなってんだわ」 「······ごめんね」 「違う。謝ってほしいんじゃねぇの。謝ってもどうせ続けんだろ。だったらせめて説明しろって。俺、こういうの使った事ないから知らねぇの。知らねぇのって、マジで怖いから」  奏斗さんにされた時の事を思い出しているのだろうか。目を逸らし、酷く怯えた表情を見せる。  あの人は道具を使ったプレイが好きだから、毎回知らないアイテムを使われたっけ。確かに、あれは怖い。  著しく興奮していたとは言え、同じ事をしていた自分に腹が立つ。芯には丁重に謝罪し、きちんと説明した。  渋々納得した芯に『吐くからひっくり返すな』と言われたので、善処すると言った手前それだけは断念した。仕方がないので、拘束を解きベッドに下ろす。  その途端、貞操帯を外そうとした芯。即座に押さえ込み、両手は後ろで縛った。まったく、油断も隙もない。  縛ると艶かしい声を漏らす芯。薄々気づいてはいたが、どうやら芯にも縄酔いのケがあるらしい。よくこれで、奏斗サンを相手に強がっていたものだ。 「芯、奏斗さんに縛られた時、よく平気だったね」 「んぁ? ····何が?」  トロンと落ちた瞼に緩んだ口元。全身の力が抜けている。これを、今から僕のイイように弄べるのかと思うとゾクゾクする。  あぁ····、芯の怯えた瞳が僕の恍惚な笑みを映している。 「はぁ····。芯の瞳に映るのは、僕だけであってほしいな」  甘い本音を漏らしつつ、芯のナカへと侵入する。熱くて蕩けるような、それでいて僕を離さない肉壁。  これを、奏斗さんも味わっていたのかと思うと虫唾が走る。  けれど、僕では奏斗さんに刃向かえない。悔しい。芯のナカを知っているのは、僕だけでありたかった。  醜い感情を芯にぶつける。最低だとは思う。しかし、アナルをギュッと締め付け、ペニスを離さない芯を前にすると、無性に苛立ってしまう。  もう、僕だけではない。奏斗さんが現れたら、またこうして芯が喰われてしまう。不甲斐なさが僕の心を狂わせてゆく。

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