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48.*****
何も言わず、僕を綺麗に洗ってくれる奏斗さん。壁に手をつかせ、後ろから容赦のない手マンで掻き出す。どうしてシャワーを使わないのだろう。
こんな事、今まで1度だってなかった。自分の置かれている状況が分からない。
「か、奏斗さん····あの、自分でできます」
何が気に入らないのか、言葉を返してくれない。それがどれほど不安を煽るか、この人には分からないのだろう。
「奏斗さん、やっ··そんな奥まで····」
アナルに捩じ込まれる指が深く、掻き出されているだけなのに達してしまう。
「ねぇ··、何回イクの? 誘ってる?」
「違っ──んぅっ」
不意にキスをされた。芯が教えてくれる、甘いキスだ。
ふと記憶が蘇る。こういうキスを、何度かされた事があるような····。はっきりとは覚えていないが、身体が覚えている。
不意に、奏斗さんの柔らかい表情がフラッシュバックした。いつのものだろう、知らないけど知っている表情 だ。
結局、奏斗さんは僕のナカに収まり、掻き出した分より多くナカに注いだ。
そして、今度はシャワーで強引にナカを洗う。洗い終えると、僕を上に乗せて湯船に浸かった。僕を後ろから抱え、息を掛け項を熱くする。
この胸の高鳴りは、次の瞬間を怯える恐怖心の所為だ。そう言い聞かせておかないと、僕はまた、どうしようもない思い違いをしてしまうだろう。
緊張で強ばっていると、奏斗さんは風呂で芯にシた事を話し始めた。なんて酷い事を、そう思ったが同時に昂った。
「あぁ··凄いビンビン♡ お前さぁ、俺と同類だったの? よくそれで俺に飼われてたよな。····辛かった?」
「辛··かった、と思います。今思えばですけど。当時は··その··愛し合ってると勘違いしてて、幸せだと思う瞬間もありました」
間違いなくあった恋情が、まやかしだったと知った。蘇る記憶は、辛い事が断然多い。そう、僕が抱いていた想いは、自分を護る為の思い込み だったのだ。
僕がぽつりぽつりと語るのを、奏斗さんは黙って最後まで聞いていた。
奏斗さんと、こんなに長い時間会 話 をするのは初めてだ。それができる今に安堵するが、拭えない違和感も漂っている。
けれど、この際だから言ってしまおう。そう決心して、僕は言い留 めていた事を伝えてみる。
「僕は今····、芯を、あ、愛してます。身体の支配ではなく、その····心を手に入れたいと思って、芯にも愛してもらえるよう、変わろうと、必死に努力をしてて····」
後ろで、奏斗さんが少し反応した。ピクッと、微かに動いた程度だが。僕は、何かマズい事を言っているのだろうか。
けれど、今を逃せば機会はない。そう思い、勇気を振り絞る。
「奏斗さんが、どういうつもりで、えっと、僕を飼いたいと言ったのかは分からないけど、遊びや気まぐれなら、もう、か、解放してくれませんか」
言えた。ついに、拒絶できた。そう思ったのだが、事は思わぬ方向へ転換する。
「遊びでも気まぐれでもない。俺はお前が欲しいんだよ、本気で··ね。自分でも気づいてなかったんだけどさ、俺はあの頃からずっと、お前が好きだったんだ」
予想だにしていなかった返答。そんなはずはない。有り得ない。そんなはずはないんだ。
あれは僕の勘違いで、僕は奏斗さんにとって都合の良い玩具で、そこに情愛などなく、劣情が響 めいていただけ。今更甘い言葉を囁かれたって、唆されたりはしない。
僕は、芯のおかげで気がついたのだ。愛が押しつけ合うものではない事を。縋って取り繕うものではない事を。ましてや、相手を傷つけるものではない事を。
頭では、それを知って理解した。“僕”というものを、その理想に近づけるべく、芯に寄り添うべく、僕は変わろうともがいているのだ。
「嘘··だ··。そんなはずない。だって、僕を捨てたじゃないですか!」
奏斗さんの自分勝手な言葉が僕を射抜く。抑えていた感情が噴き出すように、カッとなり振り向いた。不思議と、涙が零れ落ちていた。
悔しいのだろうか、それとも悲しいのだろうか。心がぐちゃぐちゃに絡み合って、まともな思考を得られない。
奏斗さんは僕の涙を拭い、向かい合うように乗せ直す。そして、奏斗さんはこれまでになく穏やかで、とても弱々しく話し始めた。
「お前と連絡を絶って本当に後悔した。そこでやっと気づけたんだよね、自分の気持ちに。でさ、お前が失神してる時に芯クンと色々話したんだよ。あの子、俺らが思ってるより大人だね。お前が惹かれるの、なんとなく分かるよ」
そんな事は分かっている。僕よりも精神的に落ち着いていて、沢山の事を考えてしまう子だ。辛い事も苦しい事も、平気で飲み込んでしまう子なのだ。
僕がそれを支えたい。少しでも、芯の癒しになりたい。そう思っていた。それなのに、いざ関わってみるとまるで思い通りにはいかず、身も心も傷つけてばかり。
支えられているのも、前を向かされたのも僕だった。挙句、僕の過去の所為で芯をまた苦しめている。
何を改心したって、綺麗事を並べたって、僕は芯に何も与えられていない。芯を利用して、心の隙間を埋めていたのは僕の方だったのだ。
感情が溢れ出し、奏斗さんに心を吐き出した。不甲斐なくて悔しくて、涙が止まらなくなった僕の背中を、奏斗さんが優しくさすってくれる。
「芯クンには言ったんだけどさ。俺、お前のこと愛してたんだよね。勿論、今も──」
奏斗さんはそう言って、僕の顎に指を掛け顔を持ち上げた。予想もしていなかった言葉に、僕は固まって声を発せない。
そんな僕に、僕の知る中では初めて、柔らかい笑顔を見せる奏斗さん。さっきよりも優しいキスを交わす。舌も絡めず、唇を食 むだけの甘ったるいキス。
そっと唇を離し、ほんの数秒見つめ合う。大きくなった奏斗さんのペニスを、僕はそっと受け入れた。
こんなにも甘い奏斗さんを、僕は欠片も知らない。僕たちは、あの頃と何が違うのだろう。そんな事ばかり考えてしまい、セックスに集中できない。
芯も気掛かりだ。そろそろ芯のところへ戻りたい。
そんな僕から漏れた言葉がマズかった。
「芯····」
無意識に芯を呼んだ。奏斗さんを受け入れておきながら、芯を裏切っておきながら。
僕は、最低だ。
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