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55.*****
何やら、芯が酷く落胆している。大きな溜め息を吐いて、両手で顔を覆ったまま停止してしまった。
まさか、本当に今の今まで自分がマゾだと気づいていなかったのだろうか。だとしたら可愛すぎる。
「芯、顔見せて」
「····やだ」
「どうして?」
「なんか恥ずい」
僕は、そっと芯の手を退けた。耳まで真っ赤にして、目にいっぱい涙を溜め、それが今にも溢れ出しそうだ。
小さく一息吐いて、芯の涙を啜る。なんて愛おしいのだろう。
奏斗さんは、芯のナカをゆっくり捏ねくり回す。きっと、自分がマゾであることを思い知らせるつもりなのだろう。
涙の引っ込んだ芯は、腕で再び顔を隠してしまった。余程、精神的にダメージを受けているらしい。
「これ、気持ちい?」
ねっとりと絡みつくような声で尋ねる奏斗さん。トロッとふやけた顔に堕ちた芯は、素直に答える。
「ん、気持ちぃ」
「ホント?」
「うん。····なに?」
「もっと奥に欲しい?」
「んぇ?」
「もっとガツガツ突いてほしい?」
「····欲しくない」
どう見ても強がっている。奏斗さんは、呆れたように溜め息を吐き、子供を宥めるように話し始めた。
「芯さぁ、ハニーはどっちだと思う? M? S?」
「え····S?」
「それは芯にだけ」
「は?」
「例えばさぁ····、ハニーおいで」
おずおずと近づくと腰を抱き寄せられ、乳首を甘噛みされた。
「やっ、はぅっ、あっ、んんっ」
「な? ハニーが芯にする時、こんな顔しないでしょ。ハニーは俺にだけドMになんの」
「····何が言いたいんだよ。自慢してぇの?」
「はぁ····。ハニー、イジめてあげな」
「はい」
芯の熱くなった耳に噛みつく。くちゅくちゅと音を立てながら耳を犯し、乳首を指で摘まんでイカせる。
と言うか、ハニーだなんて呼ばれるのが恥ずかしくて、芯に集中しきれない。それに、恐ろしくてとても口にできないが、奏斗さんのハニーになったつもりはない。
それはさて置いて、奏斗さんからの司令をこなす。
ぷっくりと膨らんだ、愛らしい乳首を指先で連続して弾く。ピクピクと小さく跳ねて可愛い。
浅い所を甘く撫で続ける奏斗さんへの、苛立ちと焦れったさを感じているのだろう。腰をよじらせ、より強い刺激を求める芯。
甘イキを繰り返し歯がゆさがピークに達した頃、強く抓ってしっかりイカせる。
「んあ゙ぁ゙ぁっ! 先生 ッ、乳首 っ、取ぇる゙ぅ!!」
潮を噴き上げ、腰を痙攣させて激しい絶頂に震える、なんとも愛らしい芯。
「ふはっ、チョロ····分かった? 芯に対しては俺並にSっけ出るでしょ。つまりぃ、ハニーには2つの顔があんの」
「ん、は··ぁっ、··ふ、くそっ······で? だから何」
「頭悪いねぇ。芯は女の子に対してMっけ出てた?」
「ンなわけねぇだろ。鬼畜とかドSとか言われてたわ」
「そう、それ。誰にでも二面性ってあるんだよ。相手によって変わったり、環境によって変わったり、ね。俺は根っからのド鬼畜だから変わんないけど」
僕は昔、奏斗さんの自信に満ち溢れたところに憧れていた。僕には無い強さを感じていたのだろう。
けれど、ド鬼畜だと自分で言ってしまうのか。ここまでくると、狂気すら清々しく思える。
二面性、僕にとっては自分自身を見失いそうになる、恐怖の種でしかない。芯の二面性など可愛いものだ。僕の穢れたそれに比べれば。
芯はポカンとして、イマイチ理解できていないような表情 を見せる。
自分の変化や本質への驚きで、まだ頭が上手く回っていないのだろう。いつになく幼く見える。
「自分の本質が思っていた自分と違ったら、受け入れ難いよね。けど、僕はね、僕の手で可愛く啼いてくれる芯が愛おしいと思う」
「俺がドMだから? 先生にとって都合いいってコト?」
自分のことなると、途端に頭の回転が鈍る芯。自分自身のことを、誰よりも自分が理解できないでいる。そういう所も可愛いが、無論心配でもある。
かく言う僕も、偉そうな事は言えないが。
「そうじゃないよ。たとえ芯にマゾっけが無くとも、僕は芯を堕とすつもりでいたから。そうじゃなくて、本質がどうであれ気にする事はないって、奏斗さんは言いたいんだと思う」
チラッと奏斗さんを覗き見ると、居心地が悪そうに髪を乱して『そうだよ』と言い捨てた。
なんとなく理解したような芯は、ボーッとしたまま『俺、先生が喜んでくれんならドMでもいいや』と呟いた。
そして、奏斗さんはあれやこれやの腹いせと言わんばかりに、芯の奥を力一杯突き上げたぷたぷと満たした。
芯には偉そうな事を言ったけれど、僕は、奏斗さんへ見せる僕の薄汚れた欲塗れの自分が嫌いだ。芯を愛でている時でも、心底快楽に溺れる事ができないのは、きっとそれが根底にあるのだろう。
僕は、捨てきれないで甘え続けている、この厭らしい僕と決別したい。そして、心の底から芯を可愛がって悦に浸ってみたい。そう、僕を辱めている時の奏斗さんのように。
奏斗さんが芯のナカから勢いよく抜け出し、精液が溢れ出る。その姿が自分と重なり、吐き気を催すほどの嫌悪感に苛まれた。
「僕は····穢らわしい」
ポツリと呟いた一言に、奏斗さんは眉をひそめ、芯が鼻頭を赤くした。
「ンっでそんなコト言うんだよ」
涙目で怒る芯。どうして僕が僕を貶めると、芯が辛そうにするのだろう。苦しいのは僕のはずなのに。僕だけで充分なのに。
そんな芯を瞳に映し、僕はその心に触れないよう目を逸らす。そして、僕は思いの丈を話した。奏斗さんに怯えながら、弱々しくか細い声で。
「そっか。結局、俺が居るとお前は辛いんだね」
寂しそうな顔を見せる奏斗さん。そんな表情 は初めて見た。また、僕の知らない奏斗さんだ。
少し悩んでから、芯が僕を呼ぶ。まだ、身体が思うように動かないのだろう。僕は、いそいそと芯に這い寄る。
僕が顔を寄せると、芯は後ろ髪を掴んで引き寄せた。
唇の触れそうな距離で『先生の名前、呼んでいい?』と聞く。僕の知らない、甘く低い声で。
こんな声を出せたんだ。芯が、僕の知らない男 へと変わってゆく気がした。それは、とても怖い事だった。
「だ、だめ。やっぱり、まだ怖い··から、ダメ。なんで今、そんな事····」
「先生があれこれビビりすぎてっから。なんかひとつくらい大丈夫なもん教えてやろうと思ってさ」
「な、名前はまだ····ダメだったらまた迷惑かけるし、もっとゆっくり──」
呼んでほしいと望んでいたのは僕なのに。それを愛の証だと思っていたのに。奏斗さんの前だと、余計に恐怖心が勝 ってしまう。
けれど芯は、僕を投げるように手放してこう言った。
「俺、近いうち先生の名前呼ぶよ。もし息できなくなっても、俺が何回だって助けるから。····どういう意味か分かんだろ」
「····っ! 芯、それは──」
「それよかまずさぁ、気持ち、いい加減先生が受け入れろよ」
それは、どういう意味だろう。芯が僕を好きだというのは疑っていない。僕の気持ちも芯へ向いている。
他に、何があると言うのだろうか····。
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