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銀花姫 5

むせかえるような甘い匂いに、思わず雪を引き剥がそうと肩を掴(つか)んだら、雪はいきなり顔を上げて、逆に力を込めてオレにのしかかってきた。 「ちょ・・・雪・・・待て・・・」 今はダメだ。今なにかをされたら、何をするかわからない。 雪を絶対に傷つけたくないのに、オレが、オレが雪を傷つけてしまいそうだ。 雪はそんな葛藤と闘っているオレを知ってか知らずか。 ぐいっと、思いっきり覆いかぶさって・・・キスをしてくる。 雪の温かくて柔かい口唇が、急にオレの口唇に押し付けられて、混乱する。 少し震えている口唇に、雪がものすごく緊張していることがわかる。 そんな状態だから、もちろん舌を入れてくることもなく、ただ口唇が触れるだけの可愛いキスだった。 それでも、オレにとっては晴天の霹靂(へきれき)で。 だって、雪が、あの雪が。 綺麗で可愛くて清くて美しくて可憐(かれん)で清楚で純粋で無垢(むく)で汚(けが)れを知らない雪が。 オレにキスをしてくれるなんて・・・。 こんなことが起きるなんて微塵(みじん)も考えていなかったオレは、硬直したまま動けずに、雪を抱きしめることもできず、雪の甘い匂いと柔らかい口唇を感じているだけだった。 オレの首に回された雪の腕から力が抜けて、体が口唇が離れようと動く。 雪が離れてしまう・・・! オレは慌てて椅子から立ち上がって、覆い被さって細い腕ごと背中を抱きしめて、もう片方の腕で離れようとした頭を鷲掴(わしづか)みにして閉じ込める。 雪がびっくりして反射的にオレの胸を押し返す細い腕は、それでも力なんてほとんど込められていなくて、小刻みに震えながら、オレの着ているTシャツを掴んだけだった。 震える雪が愛おしくて、何もかも欲しくて、ぐっちゃぐちゃに掻き回したくて、オレは乱暴に雪の口を開かせて無理やり舌をねじ込んでいた。 「・・・んっ・・・!」 少し怯えながらも吐息を漏らして、絡みつくオレの舌に雪が少しずつ反応する。小さな舌が恐る恐る動いて、どうしたらいいのかわからないと言うように、オレの舌を舐めては引っ込む。 唾液が溢れて雪の口唇の端から、こぼれ落ちる。 数ヶ月ぶりの雪のキスの味に、どんどんと醜い欲望が出てくる。 告白した時以来、触れるだけのキスすらできず、こういう深いキスなんてとてもじゃないけどできないでいた。 雪を怖がらせないように、傷つけないように、大切にしたいから、恋人としての距離を少しずつ縮めていた。 だから、いきなり強引に舌を搦(から)めて貪(むさぼ)りつくオレに怯えながら、必死で応えようと慣れないことを頑張ってくれている雪が可愛くて仕方がない。 可愛すぎる反応に嬉しくなって、オレは舌と口唇を解放して、涙目になっている雪の白い額にキスをした。 「雪・・・急にどうしたんだ?」 「あぅ・・・その・・・」 意地悪くきくと、瞬時に顔を真っ赤にした雪は、顔をうつむけて、オレの胸に顔を埋(うず)めてしまう。耳たぶまで赤く染めて、それでも、小さな声でぽつりぽつりと話す。 「・・・猛とやっと恋人になれたから・・・その・・・そういうこと・・・」 「うん?」 「だから!・・・そういう・・・ことしたいと・・・思って・・・猛ずっと待ってくれて・・・」 「え?!雪?そういうことって、え?」 「ずっとしたいと思ってたけど、勇気出なくて・・・」 オレは雪の話しを最後まで聞かずに、しがみつく雪の背中と膝に腕を回して抱え上げた。 「え?!ちょっと、猛?」 雪がびっくりして声をあげながらも、一生懸命オレの胸にすがりついて離れない。結局オレが何をしてもオレから離れない。 そんな雪の優しさに、オレは甘えている。 オレは雪を抱えたまま隣の寝室に連れていくと、そのままベットに雪を横たえて上から覆い被さるようにのしかかった。 シーツに散る長い黒髪を撫ぜて、雪の少し怯(おび)えた瞳を見つめて、そっと額にキスをした。 あー・・・こんなことになるんならシーツ洗っておけばよかったー・・・ってかシャワー浴びとけば良かったー・・・。 ぼんやりとそんなことを考えながら、不安そうに口唇を細かく震わせている雪を安心させようと微笑んで、額に頬に何度もキスをする。 全身に力がこもっていた雪の体から、少しずつ力を抜けていくのがわかる。 艶(つや)やかな髪を撫ぜて、優しく、優しくオレの無骨(ぶこつ)な指を滑らかな頬に滑らせて、 「・・・本当に大丈夫か?」 雪が嫌なら何もしない、これ以上は何もしない、そんな思いを乗せてきくと、雪は睫毛を震わせて瞬きを繰り返すと。 真っ赤な顔を真っ白な華奢(きゃしゃ)な手で覆い隠して、聞き取れないくらいの小さい声で呟(つぶや)いた。 「だい・・・じょうぶだから・・・・・・乱暴に・・・・・・・・・っしないでね・・・」 理性が、切れそうだった。

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