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銀花姫 16

* 雪と猛が体を繋いでから、一ヶ月がたとうとしていた。 あれからも二人は何度もそういうことをしていた。 猛は雪の体を考えてしょっちゅう求めることはしないと決めていたのに、全くの想定外で雪が猛の部屋に押しかけては、せがむようになっていた。 猛からしたら雪がそこまで積極的に求めてくるなんて思っていなくて、むしろ自分が我慢できなくなって、無理やりお願いした時しかできないだろうと思っていたから、びっくりしていた。 雪はほぼ毎日猛の部屋にきていた。 あの手この手でセックスをねだってくる雪に、猛は「毎日はしない。雪の体の負担になるからダメ」と強く言い聞かせて、無理やり納得させた。 雪には「じゃあ一日おきならいいの?」ときょとんとした顔で言われてしまった。 完全に猛の予想外だった。 猛がしたいって言っても、恥ずかしがって逃げまくるだろうと思っていたのに、まさか雪のほうからほぼ毎日せまられるとは思ってもいなかった。 何が雪をこうしてしまったのか、猛には全然わからなかった。 雪からしたら至極当然の欲求だった。 ずっとずっと猛が欲しいと思っていたし、猛に欲しいと思って欲しかったし、猛が自分以外を抱くことに激しい嫉妬と深い哀しみを抱いていたから。 猛としか性的なことをする気になれなかったから、誰とも付き合ったりしてこなかった雪は、やっと猛が自分を見てくれて、自分に触れてくれるようになって、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。 だから毎日毎日キスしたり抱き合ったり、そういうことをしたいと思うし、そういうことをしてもらえる自分を、毎日毎日噛み締めたかった。 猛が自分に欲情する優越感を感じたかった。 猛に抱いてもらえる事実を、確認したかった。 猛に愛されている瞬間を、妄想したかった。 それなのに猛は自分を拒否した。 毎日はしないと拒否した。でもその理由が雪の体の負担になるからという、自分のことを考えての理由だったから、雪は安堵(あんど)していた。 一回抱いたからもういいやとか、つまんない飽きたとか、そういうことではなく。 自分を大切に思っていてくれる理由だったから、雪は素直に嬉しかった。嬉しかったけれども、セックスの快楽を、猛に愛される悦(よろこ)びを覚えてしまったから、またしたいと思う衝動も抑えられなくなっていた。 それに不安でもあった。 そういうことをしなかったら、猛は自分から離れるんじゃないかと、雪はそんな不安を感じていた。 そんなことはないと言い聞かせても、絶対にないと信じていても、心の奥底に一抹(いちまつ)の不安が棲(す)みついていた。 もちろん猛にはそんなつもりは微塵(みじん)もなかった。 やっと、やっと雪を手に入れることができたんだから、手放すつもりなんか毛頭なかった。 永遠に自分のものにして、誰にも譲るつもりもないし、例え雪の意志であっても離れることなんか許すつもりはなかった。 ちょっとした気持ちのすれ違いはあっても、二人はお互いを必要としていたし、お互いを傷つけたいわけじゃなかったから。 だから猛と雪は話し合って、きちんとちゃんと話し合って。 『毎日はしない。四十八時間は間をあける。体調が悪い時はしない』という約束をした。 『毎日しない』と約束はしたけれども、『会わない』という意味ではないから、雪は構わず毎日猛に会いに行った。一緒にご飯食べたり、一緒にテレビ食べたり、音楽のこととか家族のこととか、好きなこと嫌いなこと、嬉しかったことむかついたこと、そういった日常のことを全部話していた。 その時間が、学生時代の時のようで、雪は嬉しかった。 猛がまた自分を見てくれている時間が、嬉しかった。 今までは『幼馴染』だったけど、今は『恋人』として一緒にいられることが、嬉しかった。 そんな感じで雪が猛の部屋に来てしまって、ほとんどの時間を一緒に過ごして、挙句(あげく)に猛のベットで一緒に寝るもんだから、猛にとっては天国でもあり地獄でもあった。 毎日雪の可愛い顔を見て、少年のような少し高い声を聞いて、楽しそうな笑顔やたまに拗(す)ねた顔を見せたり、甘えるように上目使いで見てきたり。 そういう雪のころころ変わる表情をみているのが、猛は楽しくてしょうがなかった。 だからこそ雪の体を考えて毎日セックスしないと決めたのに、雪は無防備に猛の狭いベットで、猛にべったり抱きついて寝てしまう。 雪の柔らかい体の感触と、仄(ほの)かに甘い脳髄を侵食する体臭と、長い睫毛(まつげ)が震えながら、真っ赤な厚めの口唇から漏れる寝息に。 めちゃくちゃにぶち込みたいと、犯して啼(な)かせて貪(むさぼ)りつくして、内部(なか)で出しまくってぐちゃぐちゃにしたい衝動に苛(さいな)まれる。 もっとも、その翌日には盛りのついた猿みたいに、アホみたいに雪を抱いて、抱き潰してしまうのだが。 朝まで抱いてしまう日と、性欲を抑えて寝れない日と闘い続けて、猛は寝不足になっていた。 そんな猛の横で、雪は何も考えずに健やかに熟睡しているので、顔色も血色よく元気だ。一方猛は若干体力が落ちて、判断力も鈍くなりつつある。 自制心もなくなりそうで、ふとした拍子に雪に襲いかかりそうで、猛はそれが怖かった。 猛の寝不足が自分のせいだとは思っていない雪は、猛の体調を気にかけていた。 ご飯の心配をしたり、ゆっくり休んだほうがいいとか、色々気にかけてくれることは、有難いとは思っている。 思っているから、週一でいいから一人でゆっくり寝たいと、思っていることを、猛は雪に言えないでいる。 寝不足だとか言っておきながら、週に二〜三回は雪とセックスしてるから、雪に言えないでいる。 だって据(す)え膳されたら、男だったら誰でも食べるだろうが。 ずっとずっと惚れている相手が、目の前で欲しそうに上目つかいで見てきて、漆黒の大きな瞳が欲情して潤んでて、真っ赤な厚めの口唇を湿らせるように舌で舐めて、少し高い掠れた声で誘われたら・・・男だったら我慢できるわけないだろうが! それでも二回に一回は我慢して、暴れる肉欲を必死で抑えるオレは、相当すごいぞ。 自分で言うのもなんだけど、相当我慢強い。

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