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銀花姫 22
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猛にプロポーズされてしまった。
嬉しくて嬉しくて、幸せすぎて、反射的にOKしていた。
もちろん後悔なんかしていない。
ずっとずっと、猛のお嫁さんになるのが夢だったから。
心がふわふわして、体も浮き上がりそうな、そんな浮かれた状態。
猛とは結婚に向けて色んな話しをしていて、お互いの両親に挨拶しなきゃとか、一緒に生活する家を探さなきゃとか、結婚式やりたいから同性カップルでも挙式できる会場を探したり、戸籍はどうするのかとか。
仕事の合間をぬって、そうやって二人で色々調べて、結婚に向けて少しずつ動いていた。
日本ではまだ同性の結婚という入籍ができないから、どうしても養子縁組という話しになってしまうので、それはちょっと・・・と二人とも思っていた。
猛が調べてくれて、ボク達が住んでる区ではパートナーシップ制度が導入されているから、それを利用したらいいんじゃないかと提案してくれた。
ボクは知らなかったんだけど、結婚ではないけどパートナーとして法的に認めてもらえる制度らしい。
限界はあるけれども、それでも法的に他人ではなくパートナーとして認めてもらえる部分があるのなら、それがいいだろうと話し合った。
もちろん、お互いの両親に話しをして許可をもらってから、その制度の申し込みをしようと思っている。
やっぱりちゃんと許して欲しいし、祝福して欲しいとも思っていた。
祝福してくれるか・・・わからないけど・・・。
猛の家は大丈夫な気がする。
お父さんが小さいけれども会社を経営していて、長女のお姉さんがお婿さんもらって、子供も二人生まれている。
だから、猛の家は跡取り問題とか、孫の顔が見たい問題は大丈夫って猛が言っていた。
問題はボクの家。
なんせボクは一人っ子だから。
ボクが猛と結婚するとなったら、後継ぎとか孫の問題が出てきて。そしてそれを解決できる方法がボクには全然思いつかなかった。
お母さんは大丈夫だと思う。ずっと見守ってくれていたし、付き合うことになったことを言った時も喜んでくれたし。
問題はお父さんで・・・お父さんとそう言った話しはしたことないし、男同士ってことをどう思うのかわからない。
だからもしかしたら反対されるかもしれない・・・。
猛はボクの父親が反対したら、きちんと何度でも何度でも話して理解してもらえるように頑張るって、言ってくれているけど。
猛だけに任せるわけにもいかないから、ボクも頑張るけど。
不安が心を巣食っている。
そんなことを思いつつ、ボクは猛の部屋でソファに座って、結婚式場のパンフレットを眺めていた。
梅雨が明けた途端に気温が一気に跳ね上がって、湿度も急上昇で蒸し蒸しした状態が一日中続いている、真夏の夜を、エアコンが効いた猛の部屋でほぼ毎日一緒に過ごしていた。
仕事が終わったら一緒にご飯食べて、寝るまでの時間を、猛の晩酌に付き合いながら、その日のことを話したり、将来のことを話したり、そういう穏やかな時間を一緒に過ごしていた。
こんな生活が愛おしくて、ずっとずっと続けていたいから、『結婚して欲しい』って言われて、すごく嬉しかった。
そんなことを考えながらパンフレットを眺めてたら、しばらくしてシャワーを浴びてきた猛が戻ってきた。
暑いのが苦手な猛は黒いトランクス一丁で、タオルで髪を拭きながら部屋に入ってきて早々に、エアコンの吹き出し口の目の前に行って涼み始める。
毎晩毎晩、こんな調子だからいい加減なれなきゃいけないと思ってるけど、でもどうしても、猛の鍛えられた腹筋とか逞(たくま)しい二の腕とか見ると、どうしてもドキドキしてしまう。
昔からこうなんだけど・・・最近は特にひどい気がする・・・慣れなきゃいけないのに・・・。
頬が熱くなっているのを感じて、ボクは猛に気づかれないようにパンフレットを少し上にあげて、猛を視界に入れないようにする。
ボクがそうして自衛しているのを知ってか知らずか、猛は無造作にボクの隣に座って思いっきり背もたれに寄りかかる。
「あ〜・・・暑い・・・」
「猛は暑がりだもんね」
「いや、暑がり関係ねーし。夏だし暑いし」
「くすくす」
パンフレットに顔を埋めるようにして笑うボクを見て、猛は少し不服そうにしていたが、不意に悪戯(いたずら)を思いついた子供のような目をして、いきなりボクの腰の辺りを抱き抱えて持ち上げる。
「え?ちょ」
体重が軽いボクは、軽々と猛に抱(かか)えられてしまって、何が何だかわからず焦(あせ)っていると、そのままぐいっと抱き寄せられて、後ろ向きに抱きしめられていた。
猛の腕の中にすっぽり収まった状態で、猛は足の間にボクを抱き寄せて、羽交(はが)い締めするようにボクを抱きしめてくれる。
「暑いんじゃないの?」
「暑いよ」
暑いんならこんなくっつかなくてもいいのに・・・。
暑い暑いって文句言いながら、ボクを後ろから抱きしめてくれる猛が、おかしくて思わずくすくす笑っていると、猛は後ろからボクが持っていたパンフレットを掴んで引き寄せる。
「式場みてたのか?」
「あ、うん。ここすごいんだよ」
「ふうん?」
ボクは一生懸命、パンフレットを広げて、後ろの猛に見えるようにして、食事プランや演出プランのページを行ったり来たりして説明し始める。
色々話しているのに、生返事しかしない猛を、ボクは振り返って、
「ねえ、聞いてる?」
と少し責める口調で問いかけた。
視界に入った猛は、ボクの話しを黙って聞きながら、それでも楽しそうに微笑んでくれていた。
一重の切長の目が優しく微笑んでるし、薄めの口唇も楽しそうにしてて。
ボク一人が盛り上がっているのかと思っちゃったけど、猛も楽しみなのかなって思って、ちょっと嬉しかった。
振り返ったボクの手から、猛はパンフレットを取って、中をパラパラ見ながら、眉根を寄せて難しい顔をする。
そしてボクを見て軽く息を吐き出してから、言った。
「一個確認したいんだけど・・・」
「え?なに?」
「うん・・・結婚式さ・・・」
え?まさかやりたくないとかって話し?
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