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銀花姫 23
そんな嫌な考えがよぎって、思わず身構えたボクに、猛はぼそっと呟いた。
「・・・お前、タキシードとドレスとどっちがいいの?」
「え?あ・・・うん・・・」
猛からその話しが出るとは思っていなかったから、ボクは一瞬焦ってしまった。
実際に式場を見学に行ったりしてから言おうと思ってたけど・・・。
ボクは猛の問いかけに、恐る恐る答える。
「その・・・おかしいと思われるとわかってるんだけど・・・」
「うん?」
「その・・・ドレスがいいなって・・・お母さんが着たドレス残ってて、それ着て猛のお嫁さんになるって・・・ずっと決めてて・・・」
「そっか。わかった」
「え?!」
猛があっさりとわかったって言ったことに、ボクは驚いていた。
だってボクは男だから、普通はタキシード着るもんなんだよ。
別に女性になりたいとか思ったこともないし、女装したいとも思わないんだけど、何故だか結婚式は、猛との結婚式はお母さんのドレスを着るんだって、昔から決めていた。
お母さんは今回の結婚式の話しをしたら、ボクの体型に合わせてドレスをお直しするつもり満々で、今から仕立て屋さんを探していたり、ボクにも採寸に行くからって言ってきたりしている。
うちはこんな調子だけど、猛からしたら変な感じなん_じゃないかって思って、ずっと言えないでいたんだけど。
だいぶおかしいボクの話しを、猛は軽く受け止めてくれていて。
「なんで・・・?」
「なんとなくドレス着るだろうなって思ってたし・・・雪は骨格も細いし・・・・・・・・・きれいで可愛いからドレスが似合うよ」
「ふぇ・・・?!」
さらっと『きれいで可愛い』なんて言われてしまった・・・!
そんなこと何で急に言うの?!
普段そんなこと言わないのに・・・急にそういう発言やめて欲しい!!
顔が熱くなるのを感じる。
全身の血が一気に顔に集まってきている感じ。
おかしいって、反対されると思っていたのに、何で・・・猛はボクの気持ちとか、全部優先してくれるんだろう・・・?
「何で?・・・普通おかしいって・・・」
「ん?うーん・・・・・・オレは頭悪いから『普通』なんか知らない。雪がしたいことさせてあげたい、雪を幸せにしたいしか、オレは知らない」
「・・・・・・・・・っ!」
猛はそれだけ言うと、パンフレットを床に放り投げて、ぎゅっとボクを抱きしめて微笑んでくれて。
「あっちぃーな・・・」
そう言いながら、ボクをぎゅっーっと抱きしめたままで。
そんな猛の体温と匂いとを感じていたら、なんだかおかしくなってきていた。
世間体とか常識とか、性別とか、色々考えて考えて、訳わかんなくなっていたのは、ボク。
猛は、ずっと、ずっと、生まれた時からずっと。
『ボク』が幸せに生きていられるようにしか。
それしか考えていなかった。
何それ?
おかしいよ・・・おかしい・・・・・・・・・嬉しい・・・嬉しい・・・。
好き。大好き。好き。大好き。好き。大好き。好き。大好き。好き。大好き。好き。大好き。
それしか。
この想いだけが。
こびりついた。
泣きそうに歪んだボクの表情(かお)を見た猛が、不意にボクの後頭部と背中を抱き寄せる。
あ。
キスされる・・・。
そう思って、唇が触れる直前に瞳を閉じたら、猛の優しい口唇を感じた。
最初は触れるだけだったのに、急に強く押し付けられて、舌で歯列をこじ開けられて、内部を舐められて吸われて擦られて。
猛の舌に合わせてキスをしていたら、なんだかそういう気分になってきちゃって・・・。
猛もそういう気分になってきたらしくて、キスをしながら思いっきりボクにのしかかってきて、ボクはソファに押し倒されていた。
口唇を舌を離して、猛が欲情した熱い瞳でボクを見つめる。ボクは何だか恥ずかしくて思わず逃げの態勢を取ってしまった。
「え・・・する・・・の?」
「ダメか?」
「その・・・」
ダメって訳じゃないんだけど・・・なんか恥ずかしい・・・。
『恥ずかしい』なんて猛には言えない・・・だって少し前まで一日置きくらいでしていたから・・・。
あれも、何かセックスしないと猛がボクから離れていきそうで、セックスしないと猛がボクに飽きて誰かのところに行っちゃうんじゃないかって。
そんな変な不安に駆られていたから。
猛は女性にモテる。
そりゃあ外見は背も高くてかっこいいし、性格だって男らしくて頼りになるし、ものすごく優しいし、キスだって腰が抜けるほど上手いし、セックスだって嫌がることはしないし丁寧だし気持ちいいし・・・。
だから、誰かに猛を盗られる気がして。
セックスしまくってるから、盗られないなんて保証もないのにね。
わかっていても変な焦りと怖さから、アホみたいにセックスをねだっていた。
でも、ここ2週間くらいはしていなかった。
理由は単純で、猛がプロポーズしてくれたから。
猛が他の誰のものになんかならないで、ずっとずっと、一生ボクと一緒にいるために、プロポーズしてくれたから。
これから先、ずっとずっと、猛と一緒なんだなって。
猛のそばにいられるんだなって。
そう思ったら、変な焦りがなくなって、セックスしまくらなくてもいいかなって、肩の力が抜けてしまっていた。
そして猛はそんなボクの態度を察してくれていて、無理にセックスを求めてきたりしないで、そっとしておいてくれた。
でもやっぱり健康な男性だからそりゃしたいよね・・・。
ちらっと視線を送ると、猛がはいているトランクスの中央が、あり得ないくらい膨らんでいるのが見えた。
ずっと我慢してくれていたのが、わかる。
猛は何も言わずにボクの変化を受けとめて、ボクの意思を最優先にしてくれるから、ボクは全力で猛に甘えてしまっていた。
猛がどう考えているのか、どう感じているのかを、ボクは考える余裕がなくって。
猛から視線をそらせて何て言おうか考えているボクを見て、猛は軽く息を吐いて起き上がった。
「雪が嫌ならしない・・・ごめん」
「え・・・?でも」
「あー大丈夫だよ。適当にどっかで発散するから」
「え?は?」
「ん?」
どっかで発散するって、どこで?どうやって?
え?なにどういうこと?
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