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第6話 

昼ご飯を食べようと、食堂に向かった。 もちろん後ろには鯱さんがぴったりくっついている。 モーゼの海割りの如く、人が左右に避けていく。 いや、ここまでとなるとなんだか気分がいいなぁ。 そんな余裕の俺を他所に、天道は俯いて早足だ。 でも男のわりに小柄の天道では鯱さんの大股には勝てないんだけど。 いくら頑張っても鯱さんは涼しい顔をしてペースを乱さない。 天道は彼を追い払おうと小声でごねる。 「もう!鯱はあっち行ってろって!」 「仕事だ。好きでやっているわけではない。」 「……ねぇ、烏丸もなんとか言ってよ。」 「えーっと、今日の日替わりは何かなぁ。」 2人があまりにも猛スピードで進むから、俺も若干駆け足だ。 あぁ、視線が痛い。 (あ。) すれ違う人の奥に先輩を見つける。 圧倒的なオーラですごく目立つから見つけやすい。 彼の隣にいる女子は、当たり前だけど、先輩を罵倒していた人とは違う。 俺たちを指さして、「やだ、見てよ、メグ。何あれ」と顔を顰めている。 それにつられて先輩が此方を向く仕草をした。 目が合う前に慌てて顔を逸らして、二つの背中を追いかける。 * 「……。」 「……。」 「……。」 ここだけ重力が倍なのかなぁ。 すごく空気が重い。 渋い顔をしてオムライスを頬張る天道。 そのバックには仁王立ちの鯱さん。 座っている天道はさらに小さく見え、2人の体格差が殊更に目立つ。 この光景はだいぶ慣れてきたものだけれど、トレーを持った学生たちは奇異の目を向けつつ通り過ぎていく。 (これが毎日となると、さすがに嫌かな!) 最早同情の域に達している。 もうちょっと見た目が普通の人じゃ駄目だったのかな。 でもよく考えれば、鯱さんがいてもいなくても目立つのには変わりない。 何せ、天道は髪色がド派手。 犬みたいなきゅるんとした顔とは対照的にバンドマンみたいな見た目だ。 蕎麦を食べ終わった俺はトレーを持って立ち上がった。 「俺、コンビニ行ってくる。」 「えぇっ!俺と鯱を2人きりにしないでよ。」 そんな子犬みたいな目で見ないで欲しい。 ドーベルマンとチワワはコンビニに連れて行けないんだよ……な~んて。 天道はともかく、鯱さんの前で言った日には視線で殺されそう。 「ノートのお礼のアイス、買ってくるだけだし。すぐ戻るから。」 「うそぉ……鯱、座って。お願いだから。」 「……。」 天道を冷ややかな目で見下ろすだけで微動だにしない。 天道はこの世の終わりのような顔をしている。 鯱さんを撒きたいのは、単純に傍にいられるのが嫌だっていうのもあると思うけど。 申し訳ないけど、俺は財布だけカバンから抜き取って席を離れた。 * 食堂を出てすぐのところにコンビニがある。 マンモス校だから、いたるところにコンビニは設置されているのだけど、昼時だからどこも大入り満員だ。 アイスコーナーの横にレジ待ちの長蛇の列。 とりあえずそこの最後尾に並んだ。 ごめん天道。ありがとうコンビニ。 戻るのが遅くなりそう。 スマホで休憩時間の残りを確かめて溜息をついた。 まだ余裕はあるけど、食堂も混んでいるだろう。 やっとアイスコーナーまで列は流れて、レジまでもう一息。 どう頑張ったって分散されない人の量にはうんざりする。 ポケットにスマホを納めていると、ふと顔に影がかかった。 「あれ、おとちゃん。」 聞き覚えのある声に思わず顔をあげてしまった。 うーわ。また会ってしまった。 彼の手にはパスタサラダと、その上に2つのおにぎりが乗っている。 炭水化物に炭水化物。自己満足な量の野菜。 自分の食事は棚に上げて、内心ほくそ笑んでると、 「栄養偏ってるって?」 「別に。」 「どうして手ぶらで並んでんの?」 「アイス買うんです。」 「昼飯直後にアイス?かわいいねぇ。」 ……イラッとするな、俺。 何のこれしき。 先輩を避けるように、進んだ列を詰めようとすると何故か持ってるものを俺に押し付けてくる。 落としそうになったおにぎりを慌てて押さえながら、彼を見上げた。 「いや、何。なんで?」 「並ぶの面倒だから一緒に払って。」 「は?」 「お金渡すから。なんならお釣りもいらないし。あ、かごいる?」 頼むよと合わせられた手。 蜂蜜色の瞳が暗示にかけてくる。 気を逸らすために、くるりと周囲を見渡して溜息をついた。 確かに並ぶには人が多いし面倒くさいかも。 だがしかし、これじゃまるでパシリ。 苛つきはきっと顔に出ているのだろうけど、今更隠すつもりもない。 「ダメかなぁ、おとちゃん。」 「……。」 ただでさえ混んでいるというのに、この身長の男が通路を塞いでいるとなると邪魔くさくてやってらんない。 まぁ周りの視線は好意と羨望の塊だが。 渋々頷くと、ありがとうと微笑みかけられる。 わぁ、モデルみたい。だがその手には乗らんぞ。 先輩は折りたたまれた小さな財布と紙パックのオレンジジュースを追加してきた。 いや、厚かましいわ。 使い込まれてくたくたの革の財布には、有名なブランドマークが光っている。 入ってるお金の合計より財布の値段が遥かに高そう。 「俺、出口で待ってるから。」 「……はい。」 鼻歌交じりで先輩は人込みを華麗にかわしながら歩き出す。 その聞き覚えのあるメロディにパッと顔をあげるけど、もう遠くの方にいた。 あれ、なんで聞き覚えがあるんだっけ。 首を傾げて考えるけど思い出せない。 列が進んで、俺はとりあえず一番高いカップアイスを手に取る。 手の上に山積みになっていた食べ物をレジのおばさんが笑って受け取ってくれる。 うわ、アイス代だけ自分のお金出すのめんどくさ! やっぱり断ればよかった。 あの人性格に難ありなくせに、容姿が優れているものだから余計腹が立つ。

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