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第12話 暁
鳥羽の家は隣町で、今日は萌志の実家に泊まるらしい。
同じ大学で、同じアパートに住んで、隣の部屋なのにまだ一緒に居足りないのか。
ほぼ同棲しているようなものだろう。
片想い状態から成就、喧嘩中も横で見守っていた者としては感慨深い
見慣れた外観の家に辿り着く。
萌志の家だ。
萌志には双子の妹弟がいて、名前は真昼と帆志。
もう来年位は卒業学年らしいから、時の流れは早いなぁなんて年寄りみたいなことを想ってしまう。
もう学校は始まっているから、会えなくて残念。
さすがに彼らが帰ってくる時間帯まで部外者の俺が居座る理由がない。
帆志はもうだいぶ背が伸びているんじゃないかな。
萌志がかなりの長身だから、次男もそこそこ伸びるだろう。
「久しぶりの御波家~!」
「俺も~!」
「…お、俺も。」
何を思い出したのか、鳥羽の顔が赤い。
それをジトっと見つめていたら、気まずそうに目を逸らされた。
いつまでも付き合いたてのような2人。
くそ、羨ましいな。
妬みとかはない。
自分は失恋したけど、2人のことはまた別の話。
友だちが幸せそうだと俺も嬉しい。
萌志が荷物を置きに行っているところを、鳥羽だけひっつかむ。
相変わらずいっぱいピアスがついている耳に口を寄せた。
「俺の目ェ盗んで、イチャイチャすんなよな。」
「ば…っか、しねぇよ!」
「なんでこの程度で赤くなるんだよ。
もっとスゴイことあいつとシてんだろ?ん?」
挑発に対して面白いほど顔が赤くなる。
半年離れて耐性が薄れたな、これは。
やだ!と子どもみたいな言い方をして鳥羽が身を捩る。
そのとき、ゴスッと脳天に衝撃が走った。
「いたい!」
「暁で遊ぶの飽きないよね、烏丸。」
「だって楽しいんだもん。」
萌志のチョップは健在だったらしい。
めっちゃ痛い。
鳥羽はパタパタと顔を扇いでいる。
にやにや見ていると、鬼の形相で思いっきり舌打ちをされた。
そうそう、この感じ。
あっという間に高校生に戻れた気がする。
みんな変わってなくてよかった。
「あ、そういや俺の大学、日下部居るんだよ。」
「え、そうなの?」
「……。」
鳥羽も目を丸くして俺を見た。
「お前は仲悪いんだっけ、鳥羽。」
「いやなんか……扱いづらいというか怖い。」
その言葉に萌志は笑う。
そうか、日下部との関係性も俺の知らないところで変化していたみたいだ。
俺も今は少しだけ興味があるけど、如何せん俺の方が嫌われているようで。
「日下部さんと喋ったの?」
「あいつの従兄が俺のサークルの先輩でさ。」
「従兄!へぇ~!」
面白そうに萌志は頷く。
似ているんだよなぁ、日下部とメグ先輩。
俺がゲイであることを揶揄われたことを含め、最近会ったことを話す。
さすがに先輩とラブホ街で出会ったことは言わなかったけど。
楽しい時間ほど早く過ぎていく。
萌志たちは誘ってくれたけど、夜ご飯は遠慮しておいた。
双子も帰ってくる時間だったし。
まだ残暑はあるもの、陽が落ちてしまえばいくらかマシ。
玄関まで送ってくれた二人に手を振って、萌志の家を出た。
「……。」
静かになって急に寂しくなる。
高校を卒業して、環境が変わって、にぎやかだった周りは静かになった。
天道は学校に来ないし。
大人数でワイワイするのは得意ではないけど、ここまで静かだと虚しい。
不意にポコポコと間抜けな音をスマホがたてる。
見れば、萌志と鳥羽からそれぞれメッセージが届いていた。
思わず一人で笑ってしまう。
帰ったら返信しよう。
それからご飯食べて、風呂に入って、隣の人が壁を蹴ってくるまでギターを弾いて。
またポコポコと音が鳴る。
とりあえず放っておいたけどあまりにも長い。
「……?」
うるさいし、通知を切ろうと画面を開いて思わず立ち止まった。
うわ、なんで?
嘘かと思ってもう一度見るけど、間違っていない。
「なんでメグ先輩からメッセくるんだよ……。」
通知が9件。
え、なに?
急ぎか?
渋々メッセージを開く。
『元気?
今ね
飲み会来ない?
駅前の
居酒屋
来て
楽しい
5人くらい
いる』
……途切れ途切れに送ってくんな…。
それに駅前の居酒屋?
いっぱいあるじゃん。
しかも俺今まだ未成年。
握っているスマホが震えだす。
見れば、緑の電話マークと先輩のアイコンが画面に出ている。
マジかよ、着信?!
不安と不安と不安しかないんだけど。
既読をつけた手前無視するわけにもいかず出る。
「も、もしも」
『おとちゃん?』
「先輩、俺行かな」
『ついた~?』
「は?」
言葉を遮られる。
最後まで言わせろよ。
いつもより間延びした声に眉根を寄せる。
「先輩、酔ってんの?」
『ん~??あぁ、俺、お酒弱くって。』
「俺、行かないです。
楽しんでください。じゃ。」
『あ~、待って待って。』
スマホから耳を離そうとしたら呼び止められた。
借りがある手前ぶつ切りも難しい。
それからあれよあれよという間に言いくるめられて、俺はいつの間にか居酒屋の暖簾前で立ちすくんでいた。
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